2024-03-16から1日間の記事一覧
【古文】 八月二十余日、 宵過ぐるまで待たるる月の心もとなきに、 星の光ばかりさやけく、松の梢吹く風の音心細くて、 いにしへの事語り出でて、うち泣きなどしたまふ。 「いとよき折かな」 と思ひて、御消息や聞こえつらむ、 例のいと忍びておはしたり。 …
【古文】 秋のころほひ、静かに思しつづけて、 かの砧の音も耳につきて聞きにくかりしさへ、 恋しう思し出でらるるままに、 常陸宮にはしばしば聞こえたまへど、 なほおぼつかなうのみあれば、世づかず、 心やましう、負けては止まじの御心さへ添ひて、 命婦…
【古文】 「しかしかの返り事は見たまふや。 試みにかすめたりしこそ、はしたなくて止みにしか」 と、憂ふれば、 「さればよ、言ひ寄りにけるをや」 と、ほほ笑まれて、 「いさ、見むとしも思はねばにや、見るとしもなし」 と、答へたまふを、 「人わきしけ…