源氏物語 第6帖 末摘花(すえつむはな)
【古文】 八月二十余日、 宵過ぐるまで待たるる月の心もとなきに、 星の光ばかりさやけく、松の梢吹く風の音心細くて、 いにしへの事語り出でて、うち泣きなどしたまふ。 「いとよき折かな」 と思ひて、御消息や聞こえつらむ、 例のいと忍びておはしたり。 …
【古文】 秋のころほひ、静かに思しつづけて、 かの砧の音も耳につきて聞きにくかりしさへ、 恋しう思し出でらるるままに、 常陸宮にはしばしば聞こえたまへど、 なほおぼつかなうのみあれば、世づかず、 心やましう、負けては止まじの御心さへ添ひて、 命婦…
【古文】 「しかしかの返り事は見たまふや。 試みにかすめたりしこそ、はしたなくて止みにしか」 と、憂ふれば、 「さればよ、言ひ寄りにけるをや」 と、ほほ笑まれて、 「いさ、見むとしも思はねばにや、見るとしもなし」 と、答へたまふを、 「人わきしけ…
【源氏物語84 第六帖 末摘花4】 〈古文〉 おのおの契れる方にも、あまえて、 え行き別れたまはず、一つ車に乗りて、 月のをかしきほどに雲隠れたる道のほど、 笛吹き合せて大殿におはしぬ。 前駆なども追はせたまはず、忍び入りて、 人見ぬ廊に御直衣ども召…
【源氏物語 83 第六帖 末摘花3】 〈古文〉 「主上の、まめにおはしますと、 もてなやみきこえさせたまふこそ、 をかしう思うたまへらるる折々はべれ。 かやうの御やつれ姿を、いかでかは御覧じつけむ」 と聞こゆれば、たち返り、うち笑ひて、 「異人の言はむ…
【古文】 のたまひしもしるく、 十六夜の月をかしきほどにおはしたり。 「いと、かたはらいたきわざかな。 ものの音澄むべき夜のさまにもはべらざめるに」 と聞こゆれど、 「なほ、あなたにわたりて、 ただ一声も、もよほしきこえよ。 むなしくて帰らむが、…
【古文】 思へどもなほ飽かざりし夕顔の露に後れし心地を、 年月経れど、思し忘れず、 ここもかしこも、うちとけぬ限りの、 気色ばみ心深きかたの御いどましさに、 け近くうちとけたりしあはれに、 似るものなう恋しく思ほえたまふ。 いかで、ことことしきお…