源氏物語 第3帖 空蝉 (うつせみ)
小君、 御車の後にて、二条院におはしましぬ。 ありさまのたまひて、 源氏 「幼かりけり」 とあはめたまひて、 かの人の心を爪弾きをしつつ恨みたまふ。 いとほしうて、ものもえ聞こえず。 源氏 「いと深う憎みたまふべかめれば、 身も憂く思ひ果てぬ。 など…
この人の、なま心なく、 若やかなるけはひもあはれなれば、 さすがに情け情けしく契りおかせたまふ。 源氏 「人知りたることよりも、 かやうなるは、あはれも添ふこととなむ、 昔人も言ひける。 あひ思ひたまへよ。 つつむことなきにしもあらねば、 身ながら…
源氏 「静まりぬなり。 入りて、さらば、たばかれ」 とのたまふ。 この子も、 いもうとの御心はたわむところなくまめだちたれば、 言ひあはせむ方なくて、 人少なならむ折に入れたてまつらむと思ふなりけり。 源氏 「紀伊守の妹もこなたにあるか。 我にかい…
母屋の中柱に側める人やわが心かくると、 まづ目とどめたまへば、濃き綾の単衣襲なめり。 何にかあらむ上に着て、頭つき細やかに小さき人の、 ものげなき姿ぞしたる。 顔などは、差し向かひたらむ人などにも、 わざと見ゆまじうもてなしたり。 手つき痩せ痩…
寝られたまはぬままには、 源氏 「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、 今宵なむ、 初めて憂しと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくて、 ながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」 などのたまへば、 涙をさへこぼして臥したり。 いとらうたしと思す。 手さぐりの、…