2023-11-03から1日間の記事一覧
霧のいと深き朝、 いたくそそのかされたまひて、 ねぶたげなる気色に、 うち嘆きつつ出でたまふを、 中将のおもと、御格子一間上げて、 見たてまつり送りたまへ、とおぼしく、 御几帳引きやりたれば、 御頭もたげて見出だしたまへり。 前栽の色々乱れたるを…
「もし、見たまへ得ることもやはべると、 はかなきついで作り出でて、 消息など遣はしたりき。 書き馴れたる手して、口とく返り事などしはべりき。 いと口惜しうはあらぬ若人どもなむはべるめる」 と聞こゆれば、 「なほ言ひ寄れ。尋ね寄らでは、さうざうし…
「さらば、その宮仕人ななり。 したり顔にもの馴れて言へるかな」 と、 「めざましかるべき際にやあらむ」 と思せど、さして聞こえかかれる心の、 憎からず過ぐしがたきぞ、 例の、この方には重からぬ御心なめるかし。 御畳紙にいたうあらぬさまに書き変へた…
「日ごろ、おこたりがたくものせらるるを、 安からず嘆きわたりつるに、 かく、世を離るるさまにものしたまへば、 いとあはれに口惜しうなむ。 命長くて、なほ位高くなど見なしたまへ。 さてこそ、九品の上にも、障りなく生まれたまはめ。 この世にすこし恨…
六条わたりの御忍び歩きのころ、 内裏よりまかでたまふ中宿に、 大弐の乳母のいたくわづらひて尼になりにける、 とぶらはむとて、 五条なる家尋ねておはしたり。 御車入るべき門は鎖したりければ、 人して惟光召させて、 待たせたまひけるほど、 むつかしげ…
小君、 御車の後にて、二条院におはしましぬ。 ありさまのたまひて、 源氏 「幼かりけり」 とあはめたまひて、 かの人の心を爪弾きをしつつ恨みたまふ。 いとほしうて、ものもえ聞こえず。 源氏 「いと深う憎みたまふべかめれば、 身も憂く思ひ果てぬ。 など…