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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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扇の上に乗せられた夕顔の花【源氏物語 35 第4帖 夕顔 1】白き扇のいたうこがしたるを、「これに置きて参らせよ。枝も情けなげなめる花を」 とて取らせたれば‥

六条わたりの御忍び歩きのころ、

内裏よりまかでたまふ中宿に、

大弐の乳母のいたくわづらひて尼になりにける、

とぶらはむとて、

五条なる家尋ねておはしたり。

 

御車入るべき門は鎖したりければ、

人して惟光召させて、

待たせたまひけるほど、

むつかしげなる大路のさまを見わたしたまへるに、

この家のかたはらに、

桧垣といふもの新しうして、

上は半蔀四五間ばかり上げわたして、

簾などもいと白う涼しげなるに、

をかしき額つきの透影、あまた見えて覗く。

立ちさまよふらむ下つ方思ひやるに、

あながちに丈高き心地ぞする。

いかなる者の集へるならむと、

やうかはりて思さる。

 

御車もいたくやつしたまへり、

前駆も追はせたまはず、

誰れとか知らむとうちとけたまひて、

すこしさし覗きたまへれば、

門は蔀のやうなる、

押し上げたる、見入れのほどなく、

ものはかなき住まひを、あはれに、

「何処かさして」

と思ほしなせば、玉の台も同じことなり。

 

切懸だつ物に、

いと青やかなる葛の心地よげに這ひかかれるに、

白き花ぞ、おのれひとり笑みの眉開けたる。

「遠方人にもの申す」

と独りごちたまふを、

御隋身ついゐて、

「かの白く咲けるをなむ、

 夕顔と申しはべる。

 花の名は人めきて、

 かうあやしき垣根になむ咲きはべりける」

と申す。

げにいと小家がちに、

むつかしげなるわたりの、

このもかのも、

あやしくうちよろぼひて、

むねむねしからぬ軒のつまなどに這ひまつはれたるを、

「口惜しの花の契りや。一房折りて参れ」

とのたまへば、

この押し上げたる門に入りて折る。

 

さすがに、されたる遣戸口に、

黄なる生絹の単袴、長く着なしたる童の、

をかしげなる出で来て、うち招く。

白き扇のいたうこがしたるを、

「これに置きて参らせよ。

 枝も情けなげなめる花を」

とて取らせたれば、

門開けて惟光朝臣出で来たるして、奉らす。

 

「鍵を置きまどはしはべりて、

 いと不便なるわざなりや。

 もののあやめ見たまへ分くべき人もはべらぬわたりなれど、

 らうがはしき大路に立ちおはしまして」

とかしこまり申す。

 

引き入れて、下りたまふ。

惟光が兄の阿闍梨、婿の三河守、娘など、

渡り集ひたるほどに、

かくおはしましたる喜びを、

またなきことにかしこまる。

 

尼君も起き上がりて、

「惜しげなき身なれど、

 捨てがたく思うたまへつることは、

 ただ、かく御前にさぶらひ、

 御覧ぜらるることの変りはべりなむことを口惜しく思ひたまへ、

 たゆたひしかど、

 忌むことのしるしによみがへりてなむ、

 かく渡りおはしますを、

 見たまへはべりぬれば、

 今なむ阿弥陀仏の御光も、

 心清く待たれはべるべき」

など聞こえて、弱げに泣く。

 

源氏が六条に恋人を持っていたころ、

御所からそこへ通う途中で、

だいぶ重い病気をし尼になった大弐の乳母《だいにのめのと》を

訪ねようとして、五条辺のその家へ来た。

 

乗ったままで車を入れる大門がしめてあったので、

従者に呼び出させた乳母の息子の惟光《これみつ》の 来るまで、

源氏はりっぱでないその辺の町を車からながめていた。

惟光の家の隣に、新しい檜垣《ひがき》を外囲いにして、

建物の前のほうは上げ格子《こうし》を

四、五間ずっと上げ渡した高窓式になっていて、

新しく白い簾《すだれ》を掛け、

そこからは若いきれいな感じのする額を並べて、

何人かの女が外をのぞいている家があった。

高い窓に顔が当たっているその人たちは

非常に背の高いもののように思われてならない。

どんな身分の者の集まっている所だろう。

風変わりな家だと源氏には思われた。

 

今日は車も簡素なのにして目だたせない用意がしてあって、

前駆の者にも人払いの声を立てさせなかったから、

源氏は自分のだれであるかに町の人も

気はつくまいという気楽な心持ちで、

その家を少し深くのぞこうとした。

門の戸も蔀風《しとみふう》になっていて

上げられてある下から家の全部が見えるほどの簡単なものである。

哀れに思ったが、

ただ仮の世の相であるから

宮も藁屋《わらや》も同じことという歌が思われて、

われわれの住居《すまい》だって一所《いっしょ》だとも思えた。

 

端隠しのような物に

青々とした蔓草《つるくさ》が勢いよくかかっていて、

それの白い花だけがその辺で見る何よりも

うれしそうな顔で笑っていた。

そこに白く咲いているのは何の花かという歌を

口ずさんでいると、

中将の源氏につけられた近衛《このえ》の随身《ずいしん》が

車の前に膝《ひざ》をかがめて言った。

「あの白い花を夕顔と申します。

 人間のような名でございまして、

 こうした卑しい家の垣根に咲くものでございます」

その言葉どおりで、

貧しげな小家がちのこの通りのあちら、こちら、

あるものは倒れそうになった家の軒などにもこの花が咲いていた。

「気の毒な運命の花だね。一枝折ってこい」

と源氏が言うと、

蔀風《しとみふう》の門のある中へはいって随身は花を折った。

 

ちょっとしゃれた作りになっている横戸の口に、

黄色の生絹《すずし》の袴を

長めにはいた愛らしい童女が出て来て随身を招いて、

白い扇を色のつくほど薫物《たきもの》で

燻《くゆ》らしたのを 渡した。

「これへ載せておあげなさいまし。

 手で提《さ》げては不恰好な花ですもの」

随身は、

夕顔の花をちょうどこの時門をあけさせて

出て来た惟光の手から源氏へ渡してもらった。

 

「鍵の置き所がわかりませんでして、

 たいへん失礼をいたしました。

 よいも悪いも見分けられない人の住む界わいではございましても、

 見苦しい通りにお待たせいたしまして」

と惟光は恐縮していた。

 

車を引き入れさせて源氏の乳母《めのと》の家へ下りた。

惟光の兄の阿闍梨あじゃり》、

乳母の婿の三河《みかわのかみ》、

娘などが皆このごろはここに来ていて、

こんなふうに源氏自身で

見舞いに来てくれたことを

非常にありがたがっていた。

 

尼も起き上がっていた。

「もう私は死んでもよいと見られる人間なんでございますが、

 少しこの世に未練を持っておりましたのは

 こうしてあなた様にお目にかかるということが

 あの世ではできませんからでございます。

 尼になりました功徳《くどく》で病気が楽になりまして、

 こうしてあなた様の御前へも出られたのですから、

 もうこれで阿弥陀《あみだ》様のお迎えも

 快くお待ちすることができるでしょう」

などと言って弱々しく泣いた。

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