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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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中将(六条御息所の女房)にちょっかいかける源氏【源氏物語 39 第4帖 夕顔5】見返りたまひて、隅の間の高欄に、しばし、ひき据ゑたまへり。

霧のいと深き朝、

いたくそそのかされたまひて、

ねぶたげなる気色に、

うち嘆きつつ出でたまふを、

中将のおもと、御格子一間上げて、

見たてまつり送りたまへ、とおぼしく、

御几帳引きやりたれば、

御頭もたげて見出だしたまへり。

 

前栽の色々乱れたるを、

過ぎがてにやすらひたまへるさま、

げにたぐひなし。

廊の方へおはするに、

中将の君、御供に参る。

紫苑色の折にあひたる、羅の裳、

鮮やかに引き結ひたる腰つき、

たをやかになまめきたり。

見返りたまひて、隅の間の高欄に、

しばし、ひき据ゑたまへり。

うちとけたらぬもてなし、

髪の下がりば、めざましくも、と見たまふ。

 

「咲く花に 移るてふ名は つつめども

 折らで過ぎ憂き 今朝の朝顔

 いかがすべき」

 とて、

手をとらへたまへれば、

いと馴れてとく、

「朝霧の 晴れ間も待たぬ 気色にて

 花に心を 止めぬとぞ見る」

と、おほやけごとにぞ聞こえなす。

をかしげなる侍童の、姿このましう、

ことさらめきたる、指貫の裾、露けげに、

花の中に混りて、朝顔折りて参るほどなど、

絵に描かまほしげなり。

 

大方に、

うち見たてまつる人だに、

心とめたてまつらぬはなし。

物の情け知らぬ山がつも、

花の蔭には、なほやすらはまほしきにや、

この御光を見たてまつるあたりは、

ほどほどにつけて、

我がかなしと思ふ女を、

仕うまつらせばやと願ひ、

もしは、口惜しからずと思ふ妹など持たる人は、

卑しきにても、

なほ、

この御あたりにさぶらはせむと、

思ひ寄らぬはなかりけり。

まして、

さりぬべきついでの御言の葉も、

なつかしき御気色を見たてまつる人の、

すこし物の心思ひ知るは、

いかがはおろかに思ひきこえむ。

明け暮れうちとけてしもおはせぬを、

心もとなきことに思ふべかめり。

 

まことや、

かの惟光が預かりのかいま見は、

いとよく案内見とりて申す。

「その人とは、さらにえ思ひえはべらず。

 人にいみじく隠れ忍ぶる気色になむ見えはべるを、

 つれづれなるままに、

 南の半蔀ある長屋にわたり来つつ、

 車の音すれば、

 若き者どもの覗きなどすべかめるに、

 この主とおぼしきも、

 はひわたる時はべかめる。

 容貌なむ、ほのかなれど、

 いとらうたげにはべる。

 一日、前駆追ひて渡る車のはべりしを、

 覗きて、童女の急ぎて、

 

『右近の君こそ、まづ物見たまへ。

 中将殿こそ、これより渡りたまひぬれ』

 と言へば、

 また、よろしき大人出で来て、

 『あなかま』と、手かくものから、

 『いかでさは知るぞ、いで、見む』

 とて、はひ渡る。

 打橋だつものを道にてなむ通ひはべる。

 急ぎ来るものは、

 衣の裾を物に引きかけて、

 よろぼひ倒れて、

 橋よりも落ちぬべければ、

 『いで、この葛城の神こそ、さがしうしおきたれ』

 と、むつかりて、

 物覗きの心も冷めぬめりき。

 『君は、御直衣姿にて、御随身どももありし。

 なにがし、くれがし』

 と数へしは、

 頭中将の随身その小舎人童をなむ、

 しるしに言ひはべりし」

など聞こゆれば、‥

 

源氏よりは八歳上の二十五であったから、

不似合いな相手と恋に堕《お》ちて、

すぐにまた愛されぬ物思いに沈む運命なのだろうかと、

待ち明かしてしまう夜などには

煩悶《はんもん》することが多かった。

霧の濃くおりた朝、帰りをそそのかされて、

ねむそうなふうで

歎息《たんそく》をしながら源氏が出て行くのを、

貴女の女房の中将が格子《こうし》を一間だけ上げて、

女主人に見送らせるために

几帳《きちょう》を横へ引いてしまった。

それで貴女は頭を上げて外をながめていた。

 

いろいろに咲いた植え込みの花に心が引かれるようで、

立ち止まりがちに源氏は歩いて行く。 非常に美しい。

廊のほうへ行くのに中将が供をして行った。

この時節にふさわしい淡紫《うすむらさき》の薄物の裳《も》を

きれいに結びつけた中将の腰つきが艶《えん》であった。

源氏は振り返って

曲がり角の高欄の所へしばらく中将を引き据《す》えた。

なお主従の礼をくずさない態度も

額髪《ひたいがみ》の かかりぎわのあざやかさも

すぐれて優美な中将だった。

 

咲く花に 移るてふ名は つつめども

 折らで過ぎうき 今朝の朝顔 どうすればいい?」

こう言って源氏は女の手を取った。

物馴《ものな》れたふうで、すぐに、

「朝霧の 晴れ間も待たぬ けしきにて

 花に心を とめぬとぞ見る」

と言う。

源氏の焦点をはずして

主人の侍女としての挨拶をしたのである。

美しい童侍《わらわざむらい》の 恰好のよい姿をした子が、

指貫《さしぬき》の袴《はかま》を露で濡らしながら、

草花の中へはいって行って

朝顔の花を持って来たりもするのである、

この秋の庭は絵にしたいほどの趣があった。

 

源氏を遠くから知っているほどの人でも

その美を敬愛しない者はない、

情趣を解しない山の男でも、

休み場所には桜の蔭《かげ》を選ぶようなわけで、

その身分身分によって

愛している娘を源氏の女房にさせたいと思ったり、

相当な女であると思う妹を持った兄が、

ぜひ源氏の出入りする家の召使にさせたいとか皆思った。

まして何かの場合には優しい言葉を源氏からかけられる女房、

この中将のような女はおろそかにこの幸福を思っていない。

情人になろうなどとは思いも寄らぬことで、

女主人の所へ毎日おいでになれば

どんなにうれしいであろうと思っているのであった。

 

それから、

あの惟光《これみつ》の受け持ちの五条の女の家を探る件、

それについて惟光はいろいろな材料を得てきた。

「まだだれであるかは私にわからない人でございます。

 隠れていることの知れないようにとずいぶん苦心する様子です。

 閑暇《ひま》なものですから、

 南のほうの高い窓のある建物のほうへ行って、

 車の音がすると若い女房などは外をのぞくようですが、

 その主人らしい人も時にはそちらへ行っていることがございます。

 その人は、よくは見ませんがずいぶん美人らしゅうございます。

 この間先払いの声を立てさせて通る車がございましたが、

 それをのぞいて女《め》の童《わらわ》が

 後ろの建物のほうへ来て、

『右近《うこん》さん、早くのぞいてごらんなさい、

 中将さんが通りをいらっしゃいます』

 と言いますと

 相当な女房が出て来まして、

『まあ静かになさいよ』

 と手でおさえるようにしながら、

『まあどうしてそれがわかったの、

 私がのぞいて見ましょう』

 と言って

 前の家のほうへ行くのですね、 細い渡り板が通路なんですから、

 急いで行く人は着物の裾《すそ》を引っかけて倒れたりして、

 橋から落ちそうになって、

 『まあいやだ』

 などと大騒ぎで、

 もうのぞきに出る気もなくなりそうなんですね。

 車の人は直衣《のうし》姿で、随身たちもおりました。

 だれだれも、だれだれもと数えている名は

 頭中将《とうのちゅうじょう》の随身や少年侍の名でございました」

などと言った。

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