2023-11-05から1日間の記事一覧
白き袷、薄色のなよよかなるを重ねて、 はなやかならぬ姿、 いとらうたげにあえかなる心地して、 そこと取り立ててすぐれたることもなけれど、 細やかにたをたをとして、 ものうち言ひたるけはひ、 「あな、心苦し」と、 ただいとらうたく見ゆ。 心ばみたる…
君も、 「かくうらなくたゆめてはひ隠れなば、 いづこをはかりとか、 我も尋ねむ。 かりそめの隠れ処と、 はた見ゆめれば、 いづ方にもいづ方にも、 移ろひゆかむ日を、いつとも知らじ」 と思すに、 追ひまどはして、 なのめに思ひなしつべくは、 ただかばか…
「たしかにその車をぞ見まし」 とのたまひて、 「もし、かのあはれに忘れざりし人にや」と、 思ほしよるも、 いと知らまほしげなる御気色を見て、 「私の懸想もいとよくしおきて、 案内も残るところなく見たまへおきながら、 ただ、我れどちと知らせて、 物…