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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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どちらかが狐なんだろうね🦊騙されていればいいじゃない【源氏物語 41 第4帖 夕顔 7】げに、いづれか狐なるらむな。ただはかられたまへかし

君も、

「かくうらなくたゆめてはひ隠れなば、

 いづこをはかりとか、

 我も尋ねむ。

 かりそめの隠れ処と、

 はた見ゆめれば、

 いづ方にもいづ方にも、

 移ろひゆかむ日を、いつとも知らじ」

と思すに、

追ひまどはして、

なのめに思ひなしつべくは、

ただかばかりのすさびにても過ぎぬべきことを、

さらにさて過ぐしてむと思されず。

 

人目を思して、

隔ておきたまふ夜な夜ななどは、

いと忍びがたく、

苦しきまでおぼえたまへば、

「なほ誰れとなくて二条院に迎へてむ。

 もし聞こえありて便なかるべきことなりとも、

 さるべきにこそは。

 我が心ながら、

 いとかく人にしむことはなきを、

 いかなる契りにかはありけむ」

など思ほしよる。

 

「いざ、いと心安き所にて、のどかに聞こえむ」

など、語らひたまへば、

「なほ、あやしう。

 かくのたまへど、

 世づかぬ御もてなしなれば、

 もの恐ろしくこそあれ」

と、いと若びて言へば、

「げに」と、

ほほ笑まれたまひて、

「げに、いづれか狐なるらむな。

 ただはかられたまへかし」

と、なつかしげにのたまへば、

女もいみじくなびきて、

さもありぬべく思ひたり。

 

「世になく、

 かたはなることなりとも、

 ひたぶるに従ふ心は、いとあはれげなる人」

と見たまふに、

なほ、かの頭中将の常夏疑はしく、

語りし心ざま、

まづ思ひ出でられたまへど、

「忍ぶるやうこそは」と、

あながちにも問ひ出でたまはず。

 

気色ばみて、

ふと背き隠るべき心ざまなどはなければ、

「かれがれにとだえ置かむ折こそは、

 さやうに思ひ変ることもあらめ、

 心ながらも、

 すこし移ろふことあらむこそあはれなるべけれ」

とさへ、思しけり。

 

八月十五夜

隈なき月影、隙多かる板屋、

残りなく漏り来て、

見慣らひたまはぬ住まひのさまも珍しきに、

暁近くなりにけるなるべし、

隣の家々、あやしき賤の男の声々、

目覚まして、

「あはれ、いと寒しや」

「今年こそ、

 なりはひにも頼むところすくなく、

 田舎の通ひも思ひかけねば、いと心細けれ。

 北殿こそ、聞きたまふや」

 など、

言ひ交はすも聞こゆ。

 

いとあはれなるおのがじしの営みに起き出でて、

そそめき騒ぐもほどなきを、

女いと恥づかしく思ひたり。

艶だち気色ばまむ人は、

消えも入りぬべき住まひのさまなめりかし。

 

されど、のどかに、

つらきも憂きもかたはらいたきことも、

思ひ入れたるさまならで、

我がもてなしありさまは、

いとあてはかにこめかしくて、

またなくらうがはしき隣の用意なさを、

いかなる事とも聞き知りたるさまならねば、

なかなか、

恥ぢかかやかむよりは、

罪許されてぞ見えける。

 

ごほごほと鳴る神よりもおどろおどろしく、

踏み轟かす唐臼の音も枕上とおぼゆる。

「あな、耳かしかましと、

これにぞ思さるる。

何の響きとも聞き入れたまはず、

いとあやしうめざましき音なひとのみ聞きたまふ。

くだくだしきことのみ多かり。

 

白妙の衣うつ砧の音も、

かすかにこなたかなた聞きわたされ、

空飛ぶ雁の声

取り集めて、

忍びがたきこと多かり。

 

端近き御座所なりければ、

遣戸を引き開けて、

もろともに見出だしたまふ。

ほどなき庭に、

されたる呉竹、前栽の露は、

なほかかる所も同じごときらめきたり。

虫の声々乱りがはしく、

壁のなかの蟋蟀だに間遠に聞き慣らひたまへる御耳に、

さし当てたるやうに鳴き乱るるを、

なかなかさまかへて思さるるも、

御心ざし一つの浅からぬに、

よろづの罪許さるるなめりかし。

 

源氏もこんなに真実を隠し続ければ、

自分も女のだれであるかを知りようがない、

今の家が仮の住居であることは間違いのないことらしいから、

どこかへ移って行ってしまった時に、

自分は呆然《ぼうぜん》とするばかりであろう。

行くえを失ってもあきらめがすぐつくものならよいが、

それは断然不可能である。

世間をはばかって間を空《あ》ける夜などは

堪えられない苦痛を覚えるのだと源氏は思って、

世間へはだれとも知らせないで二条の院へ迎えよう、

それを悪く言われても

自分はそうなる前生の因縁だと思うほかはない、

自分ながらも

これほど女に心を惹かれた経験が

過去にないことを思うと、

どうしても約束事と解釈するのが至当である、

こんなふうに源氏は思って、

「あなたもその気におなりなさい。

 私は気楽な家へ

 あなたをつれて行って夫婦生活がしたい」

こんなことを女に言い出した。

 

「でもまだあなたは私を普通には

 取り扱っていらっしゃらない方なんですから不安で」

若々しく夕顔が言う。源氏は微笑された。

「そう、どちらかが狐《きつね》なんだろうね。

 でも欺《だま》されていらっしゃればいいじゃない」

なつかしいふうに源氏が言うと、

女はその気になっていく。

 

どんな欠点があるにしても、

これほど純な女を愛せずにはいられないではないかと思った時、

源氏は初めからその疑いを持っていたが、

頭中将《とうのちゅうじょう》の常夏《とこなつ》の女

いよいよこの人らしいという考えが浮かんだ。

しかし隠しているのはわけのあることであろうからと思って、

しいて聞く気にはなれなかった。

 

感情を害した時などに

突然そむいて行ってしまうような性格はなさそうである、

自分が途絶えがちになったりした時には、

あるいはそんな態度に出るかもしれぬが、

自分ながら少し今の情熱が緩和された時に

かえって女のよさがわかるのではないかと、

それを望んでもできないのだから

途絶えの起こってくるわけはない、

したがって

女の気持ちを不安に思う必要はないのだと知っていた。

 

八月の十五夜であった。

明るい月光が

板屋根の隙間《すきま》だらけの家の中へさし込んで、

狭い家の中の物が源氏の目に珍しく見えた。

もう夜明けに近い時刻なのであろう。

近所の家々で

貧しい男たちが目をさまして高声で話すのが聞こえた。

「ああ寒い。

 今年こそもう商売のうまくいく自信が持てなくなった。

 地方廻りもできそうでないんだから心細いものだ。

 北隣さん、まあお聞きなさい」

などと言っているのである。

 

哀れなその日その日の仕事のために起き出して、

そろそろ労働を始める音なども近い所でするのを

女は恥ずかしがっていた。

気どった女であれば

死ぬほどきまりの悪さを感じる場所に違いない。

 

でも夕顔はおおようにしていた。

人の恨めしさも、自分の悲しさも、

体面の保たれぬきまり悪さも、

できるだけ思ったとは見せまいとするふうで、

自分自身は貴族の子らしく、娘らしくて、

ひどい近所の会話の内容もわからぬようであるのが、

恥じ入られたりするよりも感じがよかった。

 

ごほごほと雷以上の恐い音をさせる唐臼《からうす》なども、

すぐ寝床のそばで鳴るように聞こえた。

源氏もやかましいとこれは思った。

けれどもこの貴公子も何から起こる音とは知らないのである。

大きなたまらぬ音響のする何かだと思っていた。

そのほかにもまだ多くの騒がしい雑音が聞こえた。

 

白い麻布を打つ砧《きぬた》のかすかな音もあちこちにした。

空を行く《かり》の声もした。

秋の悲哀がしみじみと感じられる。

 

庭に近い室であったから、

横の引き戸を開けて二人で外をながめるのであった。

小さい庭にしゃれた姿の竹が立っていて、

草の上の露はこんなところのも

二条の院の前栽《せんざい》のに変わらずきらきらと光っている。

虫もたくさん鳴いていた。

壁の中で鳴くといわれて人間の居場所に

最も近く鳴くものになっている蟋蟀《こおろぎ》でさえも

源氏は遠くの声だけしか聞いていなかったが、

ここではどの虫も

耳のそばへとまって鳴くような

風変わりな情趣だと源氏が思うのも、

夕顔を深く愛する心が

何事も悪くは思わせないのであろう。

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