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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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【源氏82 第六帖 末摘花2】源氏は常陸宮邸を訪問して 命婦に姫の琴が聞きたいと望む。命婦は姫に琴を聞かせてほしいと頼む。源氏は姫との交際を望む。

【古文】

のたまひしもしるく、

十六夜の月をかしきほどにおはしたり。

「いと、かたはらいたきわざかな。

 ものの音澄むべき夜のさまにもはべらざめるに」

と聞こゆれど、

「なほ、あなたにわたりて、

 ただ一声も、もよほしきこえよ。

 むなしくて帰らむが、ねたかるべきを」

とのたまへば、

うちとけたる住み処に据ゑたてまつりて、

うしろめたうかたじけなしと思へど、

寝殿に参りたれば、まだ格子もさながら、

梅の香をかしきを見出だしてものしたまふ。

よき折かな、と思ひて、

 

「御琴の音、いかにまさりはべらむと、

 思ひたまへらるる夜のけしきに、

 誘はれはべりてなむ。

 心あわたたしき出で入りに、

 えうけたまはらぬこそ口惜しけれ」

と言へば、

「聞き知る人こそあなれ。

 百敷に行き交ふ人の聞くばかりやは」

とて、召し寄するも、あいなう、

いかが聞きたまはむと、

胸つぶる。

 

ほのかに掻き鳴らしたまふ、をかしう聞こゆ。

何ばかり深き手ならねど、

ものの音がらの筋ことなるものなれば、

聞きにくくも思されず。

「いといたう荒れわたりて寂しき所に、

 さばかりの人の、古めかしう、ところせく、

 かしづき据ゑたりけむ名残なく、

 いかに思ほし残すことなからむ。

 かやうの所にこそは、

 昔物語にもあはれなることどもありけれ」

など思ひ続けても、ものや言ひ寄らまし、

と思せど、うちつけにや思さむと、

心恥づかしくて、やすらひたまふ。

命婦、かどある者にて、

いたう耳ならさせたてまつらじ、

と思ひければ、

 

「曇りがちにはべるめり。

 客人の来むとはべりつる、いとひ顔にもこそ。

いま心のどかにを。御格子参りなむ」

とて、

いたうもそそのかさで帰りたれば、

 

「なかなかなるほどにても止みぬるかな。

 もの聞き分くほどにもあらで、ねたう」

とのたまふけしき、をかしと思したり。

 

「同じくは、け近きほどの立ち聞きせさせよ」

 とのたまへど、

「心にくくて」

と思へば、

「いでや、いとかすかなるありさまに思ひ消えて、

 心苦しげにものしたまふめるを、

 うしろめたきさまにや」

 と言へば、

 

「げに、さもあること。

 にはかに我も人もうちとけて語らふべき人の際は、

 際とこそあれ」

など、あはれに思さるる人の御ほどなれば、

 「なほ、さやうのけしきをほのめかせ」

と、語らひたまふ。

また契りたまへる方やあらむ、

いと忍びて帰りたまふ。

 

【現代文】

源氏は言っていたように十六夜いざよい》の月の

《おぼ》に霞《かす》んだ夜に命婦を訪問した。

「困ります。こうした天気は決して音楽に適しませんのですもの」

「まあいいから御殿へ行って、

 ただ一声でいいからお弾《ひ》かせしてくれ。

 聞かれないで帰るのではあまりつまらないから」

と強《し》いて望まれて、

この貴公子を取り散らした自身の部屋へ置いて行くことを

済まなく思いながら、

命婦寝殿《しんでん》へ行ってみると、

まだ格子《こうし》をおろさないで

梅の花のにおう庭を女王はながめていた。

よいところであると命婦は心で思った。

 

「琴の声が聞かせていただけましたらと

 思うような夜分でございますから、

 部屋を出てまいりました。

 私はこちらへ寄せていただいていましても、

 いつも時間が少なくて、

 伺わせていただく間のないのが残念でなりません」

と言うと、

「あなたのような批評家がいては手が出せない。

 御所に出ている人などに聞いてもらえる芸なものですか」

こう言いながらも、

すぐに女王が琴を持って来させるのを見ると、

命婦がかえってはっとした。

源氏の聞いていることを思うからである。

 

女王はほのかな爪音《つまおと》を立てて行った。

源氏はおもしろく聞いていた。

たいした深い芸ではないが、

琴の音というものは他の楽器の持たない異国風な声であったから、

聞きにくくは思わなかった。

この邸《やしき》は非常に荒れているが、

こんな寂しい所に女王の身分を持っていて、

大事がられた時代の名残《なごり》もないような生活をするのでは、

どんなに味気ないことが多かろう。

昔の小説にもこんな背景の前によく佳人が現われてくるものだなどと

源氏は思って今から交渉の端緒を作ろうかとも考えたが、

ぶしつけに思われることが恥ずかしくて座を立ちかねていた。

命婦は才気のある女であったから、

名手の域に遠い人の音楽を長く源氏に聞かせておくことは

女王の損になると思った。

 

「雲が出て月が見えないがちの晩でございますわね。

 今夜私のほうへ訪問してくださるお約束の方がございましたから、

 私がおりませんとわざと避けたようにも当たりますから、

 またゆるりと聞かせていただきます。

 お格子をおろして行きましょう」

命婦は琴を長く弾《ひ》かせないで部屋へ帰った。

 

「あれだけでは聞かせてもらいがいもない。

 どの程度の名手なのかわからなくてつまらない」

源氏は女王に好感を持つらしく見えた。

 

「できるなら近いお座敷のほうへ案内して行ってくれて、

 よそながらでも女王さんの

 衣摺《きぬず》れの音のようなものを 聞かせてくれないか」

と言った。

命婦は近づかせないでよりよい想像をさせておきたかった。

 

「それはだめでございますよ。

 お気の毒なお暮らしをして、

 めいりこんでいらっしゃる方に

 男の方を御紹介することなどはできません」

命婦の言うのが道理であるように源氏も思った。

男女が思いがけなく会合して

語り合うというような階級にははいらない、

ともかくも貴女なんであるからと思ったのである。

 

「しかし、将来は交際ができるように私の話をしておいてくれ」

こう命婦に頼んでから、

源氏はまた今夜をほかに約束した人があるのか帰って行こうとした。

 

【源氏 第六帖 末摘花】

乳母子の大輔の命婦から亡き常陸宮の姫君の噂を聞いた源氏は、

「零落した悲劇の姫君」という幻想に憧れと好奇心を抱いて求愛した。

親友の頭中将とも競い合って逢瀬を果たしたものの、

彼女の対応の覚束なさは源氏を困惑させた。

さらにある雪の朝、姫君の顔をのぞき見た光源氏はその醜さに仰天する。

その後もあまりに世間知らずな言動の数々に辟易しつつも、

源氏は彼女の困窮ぶりに同情し、また素直な心根に見捨てられないものを感じて、

彼女の暮らし向きへ援助を行うようになった。

二条の自宅で源氏は鼻の赤い女人の絵を描き、

さらに自分の鼻にも赤い絵の具を塗って、若紫と兄妹のように戯れるのだった。

 

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