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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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不思議な 夕顔の花の女君【源氏物語 37 第4帖 夕顔3】「めざましかるべき際にやあらむ」と思せど、さして聞こえかかれる心の、憎からず過ぐしがたきぞ、例の、この方には重からぬ御心なめるかし。

「さらば、その宮仕人ななり。

 したり顔にもの馴れて言へるかな」

と、

「めざましかるべき際にやあらむ」

と思せど、さして聞こえかかれる心の、

憎からず過ぐしがたきぞ、

例の、この方には重からぬ御心なめるかし。

御畳紙にいたうあらぬさまに書き変へたまひて、

「寄りてこそ それかとも見め たそかれに

 ほのぼの見つる花の夕顔」

ありつる御随身して遣はす。

 

まだ見ぬ御さまなりけれど、

いとしるく思ひあてられたまへる御側目を見過ぐさで、

さしおどろかしけるを、

答へたまはでほど経ければ、

なまはしたなきに、

かくわざとめかしければ、

あまえて、

「いかに聞こえむ」

など言ひしろふべかめれど、

めざましと思ひて、随身は参りぬ。

 

御前駆の松明ほのかにて、

いと忍びて出でたまふ。

半蔀は下ろしてけり。

隙々より見ゆる灯の光、

蛍よりけにほのかにあはれなり。

御心ざしの所には、

木立前栽など、なべての所に似ず、

いとのどかに心にくく住みなしたまへり。

うちとけぬ御ありさまなどの、

気色ことなるに、

ありつる垣根思ほし出でらるべくもあらずかし。

 

翌朝、すこし寝過ぐしたまひて、

日さし出づるほどに出でたまふ。

朝明の姿は、

げに人のめできこえむも、

ことわりなる御さまなりけり。

今日もこの蔀の前渡りしたまふ。

来し方も過ぎたまひけむわたりなれど、

ただはかなき一ふしに御心とまりて、

「いかなる人の住み処ならむ」とは、

往き来に御目とまりたまひけり。

惟光、日頃ありて参れり。

 

「わづらひはべる人、

 なほ弱げにはべれば、

 とかく見たまへあつかひてなむ」

など、聞こえて、近く参り寄りて聞こゆ。

「仰せられしのちなむ、

 隣のこと知りてはべる者、

 呼びて問はせはべりしかど、

 はかばかしくも申しはべらず。

『いと忍びて、

 五月のころほひよりものしたまふ人なむあるべけれど、

 その人とは、さらに家の内の人にだに知らせず』

 となむ申す。

 時々、中垣のかいま見しはべるに、

 げに若き女どもの透影見えはべり。

 褶だつもの、かことばかり引きかけて、

 かしづく人はべるなめり。

 昨日、夕日のなごりなくさし入りてはべりしに、

 文書くとてゐてはべりし人の、

 顔こそいとよくはべりしか。

 もの思へるけはひして、

 ある人びとも忍びてうち泣くさまなどなむ、

 しるく見えはべる」

と聞こゆ。

君うち笑みたまひて、

「知らばや」

と思ほしたり。

 

おぼえこそ重かるべき御身のほどなれど、

御よはひのほど、

人のなびきめできこえたるさまなど思ふには、

好きたまはざらむも、

情けなくさうざうしかるべしかし、

人のうけひかぬほどにてだに、

なほ、さりぬべきあたりのことは、

このましうおぼゆるものを、

と思ひをり。

 

では その女房をしているという女たちなのであろうと

源氏は解釈して、

いい気になって、

物馴《ものな》れた戯れをしかけたものだと思い、

下の品であろうが、 

自分を光源氏と見て詠んだ歌をよこされたのに対して、

何か言わねばならぬという気がした。

というのは女性にはほだされやすい性格だからである。

懐紙《ふところがみ》に、

別人のような字体で書いた。

 『寄りてこそ それかとも 見め黄昏《たそが》れに

  ほのぼの見つる 花の夕顔』 

花を折りに行った随身に持たせてやった。

 

夕顔の花の家の人は源氏を知らなかったが、

隣の家の主人筋らしい貴人は

それらしく思われて贈った歌に、

返事のないのにきまり悪さを感じていたところへ、

わざわざ使いに返歌を持たせてよこされたので、

またこれに対して何か言わねばならぬなどと

皆で言い合ったであろうが、

身分をわきまえないしかただと反感を持っていた随身は、

渡す物を渡しただけですぐに帰って来た。 

 

前駆の者が馬上で掲げて行く松明《たいまつ》の明りが

ほのかにしか光らないで源氏の車は行った。

高窓はもう戸がおろしてあった。 

その隙間《すきま》から蛍以上に

かすかな灯の光が見えた。

源氏の恋人の六条 貴女《きじょ》の邸《やしき》は大きかった。 

広い美しい庭があって、 

家の中は気高く上手に住み馴らしてあった。

まだまったく源氏の物とも思わせない、

打ち解けぬ貴女を扱うのに心を奪われて、

もう源氏は夕顔の花を思い出す余裕を

持っていなかったのである。

 

早朝の帰りが少しおくれて、

日のさしそめたころに出かける源氏の姿には、

世間から大騒ぎされるだけの美は十分に備わっていた。

今朝《けさ》も五条の蔀風《しとみふう》の門の前を通った。

以前からの通り路《みち》ではあるが、

あのちょっとしたことに興味を持ってからは、

行き来のたびにその家が源氏の目についた。

幾日かして惟光が出て来た。 

 

「病人がまだひどく衰弱しているものでございますから、

 どうしてもそのほうの手が離せませんで、

 失礼いたしました」

こんな挨拶をしたあとで、 

少し源氏の君の近くへ膝《ひざ》を進めて

惟光朝臣《これみつあそん》は言った。

 「お話がございましたあとで、

  隣のことによく通じております者を呼び寄せまして、

  聞かせたのでございますが、

 よくは話さないのでございます。 

 この五月ごろからそっと来て

 同居している人があるようですが、

 どなたなのか、

 家の者にもわからせないようにしていますと申すのです。

 時々私の家との間の垣根《かきね》から

 私はのぞいて見るのですが、

  いかにもあの家には若い女の人たちがいるらしい影が 

 簾《すだれ》から見えます。

  主人がいなければつけない裳《も》を 

 言いわけほどにでも女たちがつけておりますから、

  主人である女が一人いるに違いございません。

  昨日 夕日がすっかり家の中へさし込んでいました時に、

  すわって手紙を書いている女の顔が非常にきれいでした。

  物思いがあるふうでございましたよ。

  女房の中には泣いている者も確かにおりました」

 源氏はほほえんでいたが、 

もっと詳しく知りたいと思うふうである。

 

自重をなさらなければならない身分は身分でも、

この若さと、この美の備わった方が、

恋愛に興味をお持ちにならないでは、

三者が見ていても物足らないことである。

恋愛をする資格がないように思われているわれわれでさえも

ずいぶん女のことでは好奇心が動くのであるからと 

惟光《これみつ》は主人をながめていた。 

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