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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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夕顔の花の女人が気になる源氏【源氏物語 36 第4帖 夕顔 2】この扇の、尋ぬべきゆゑありて見ゆるを。なほ、このわたりの心知れらむ者を召して問へ‥

「日ごろ、おこたりがたくものせらるるを、

 安からず嘆きわたりつるに、

 かく、世を離るるさまにものしたまへば、

 いとあはれに口惜しうなむ。

 命長くて、なほ位高くなど見なしたまへ。

 さてこそ、九品の上にも、障りなく生まれたまはめ。

 この世にすこし恨み残るは、

 悪ろきわざとなむ聞く」

など、涙ぐみてのたまふ。

 

かたほなるをだに、

乳母やうの思ふべき人は、

あさましうまほに見なすものを、

まして、いと面立たしう、

なづさひ仕うまつりけむ身も、

いたはしうかたじけなく思ほゆべかめれば、

すずろに涙がちなり。

 

子どもは、いと見苦しと思ひて、

「背きぬる世の去りがたきやうに、

 みづからひそみ御覧ぜられたまふ」

と、つきしろひ目くはす。

 

君は、いとあはれと思ほして、

「いはけなかりけるほどに、

 思ふべき人びとのうち捨ててものしたまひにけるなごり、

 育む人あまたあるやうなりしかど、

 親しく思ひ睦ぶる筋は、またなくなむ思ほえし。

 人となりて後は、

 限りあれば、朝夕にしもえ見たてまつらず、

 心のままに訪らひ参づることはなけれど、

 なほ久しう対面せぬ時は、

 心細くおぼゆるを、

『さらぬ別れはなくもがな』」

となむ、

こまやかに語らひたまひて、

おし拭ひたまへる袖のにほひも、

いと所狭きまで薫り満ちたるに、

げに、よに思へば、

おしなべたらぬ人の御宿世ぞかしと、

尼君をもどかしと見つる子ども、

皆うちしほたれけり。

 

修法など、

またまた始むべきことなど掟てのたまはせて、

出でたまふとて、惟光に紙燭召して、

ありつる扇御覧ずれば、もて馴らしたる移り香、

いと染み深うなつかしくて、

をかしうすさみ書きたり。

「心あてに それかとぞ見る 白露の

 光そへたる 夕顔の花」

そこはかとなく書き紛らはしたるも、

あてはかにゆゑづきたれば、

いと思ひのほかに、

をかしうおぼえたまふ。

 

惟光に、

「この西なる家は何人の住むぞ。

 問ひ聞きたりや」

とのたまへば、

例のうるさき御心とは思へども、

えさは申さで、

「この五、六日ここにはべれど、

 病者のことを思うたまへ扱ひはべるほどに、

 隣のことはえ聞きはべらず」

 など、はしたなやかに聞こゆれば、

「憎しとこそ思ひたれな。

 されど、この扇の、尋ぬべきゆゑありて見ゆるを。

 なほ、このわたりの心知れらむ者を召して問へ」

とのたまへば、入りて、

この宿守なる男を呼びて問ひ聞く。

 

「揚名介なる人の家になむはべりける。

 男は田舎にまかりて、

 妻なむ若く事好みて、

 はらからなど宮仕人にて来通ふ、と申す。

 詳しきことは、

 下人のえ知りはべらぬにやあらむ」

と聞こゆ。

 

「長い間 恢復《かいふく》しないあなたの病気を心配しているうちに、

 こんなふうに尼になってしまわれたから残念です。

 長生きをして私の出世する時を見てください。

 そのあとで死ねば九品蓮台《くぼんれんだい》の 最上位にだって

 生まれることができるでしょう。

 この世に少しでも飽き足りない心を残すのは

 よくないということだから」

源氏は涙ぐんで言っていた。

 

欠点のある人でも、

乳母というような関係でその人を愛している者には、

それが非常にりっぱな完全なものに見えるのであるから、

まして養君《やしないぎみ》が

この世のだれよりもすぐれた源氏の君であっては、

自身までも普通の者でないような誇りを覚えている彼女であったから、

源氏からこんな言葉を聞いては

ただうれし泣きをするばかりであった。

 

息子や娘は母の態度を

飽き足りない歯がゆいもののように思って、

尼になっていながらこの世への未練をお見せするようなものである、

俗縁のあった方に

惜しんで泣いていただくのはともかくもだが というような意味を、

肱《ひじ》を突いたり、

目くばせをしたりして兄弟どうしで示し合っていた。

源氏は乳母を憐《あわれ》んでいた。

 

「母や祖母を早く失《な》くした私のために、

 世話する役人などは多数にあっても、

 私の最も親しく思われた人はあなただったのだ。

 大人になってからは少年時代のように、

 いつもいっしょにいることができず、

 思い立つ時に

 すぐに訪ねて来るようなこともできないのですが、

 今でもまだあなたと長く逢《あ》わないでいると

 心細い気がするほどなんだから、

 生死の別れというものがなければよいと

 昔の人が言ったようなことを私も思う」

しみじみと話して、

袖で涙を拭いている美しい源氏を見ては、

この方の乳母でありえたわが母も

よい前生《ぜんしょう》の縁を持った人に違いないという気がして、

さっきから批難がましくしていた兄弟たちも、

しんみりとした同情を母へ持つようになった。

 

源氏が引き受けて、

もっと祈祷《きとう》を頼むことなどを命じてから、

帰ろうとする時に

惟光《これみつ》に蝋燭《ろうそく》を点《とも》させて、

さっき夕顔の花の載せられて来た扇を見た。

よく使い込んであって、よい薫物《たきもの》の香のする扇に、

きれいな字で歌が書かれてある。

『心あてに それかとぞ見る 白露の

 光添へたる 夕顔の花』

散らし書きの字が上品に見えた。

少し意外だった源氏は、

風流遊戯をしかけた女性に好感を覚えた。

 

惟光に、

「この隣の家にはだれが住んでいるのか、

 聞いたことがあるか」

と言うと、

惟光は主人の例の好色癖が出てきたと思った。

「この五、六日母の家におりますが、

 病人の世話をしておりますので、

 隣のことはまだ聞いておりません」

惟光《これみつ》が冷淡に答えると、

源氏は、

「こんなことを聞いたのでおもしろく思わないんだね。

 でもこの扇が私の興味をひくのだ。

 この辺のことに詳しい人を呼んで聞いてごらん」

と言った。

 

はいって行って隣の番人と逢って来た惟光は、

「地方庁の介の名だけをいただいている人の家でございました。

 主人は田舎へ行っているそうで、

 若い風流好きな細君がいて、

 女房勤めをしているその姉妹たちがよく出入りすると申します。

 詳しいことは下人《げにん》で、

 よくわからないのでございましょう」

と報告した。

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