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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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空蝉は薄衣を残して去った【源氏物語32 第3帖 空蝉3】やをら起き出でて、生絹なる単衣を一つ着て、すべり出でにけり。

源氏

「静まりぬなり。

 入りて、さらば、たばかれ」

 とのたまふ。

 この子も、

 いもうとの御心はたわむところなくまめだちたれば、

 言ひあはせむ方なくて、

 人少なならむ折に入れたてまつらむと思ふなりけり。

源氏

紀伊守の妹もこなたにあるか。

 我にかいま見せさせよ」

 とのたまへど、

小君

「いかでか、さははべらむ。

 格子には几帳添へてはべり」

 と聞こゆ。

 

 さかし、されどもをかしく思せど、

「見つとは知らせじ、いとほし」と思して、

 夜更くることの心もとなさをのたまふ。

 こたみは妻戸を叩きて入る。

 皆人びと静まり寝にけり。

 

小君

「この障子口に、まろは寝たらむ。

 風吹きとほせ」

 とて、畳広げて臥す。

 御達、東の廂にいとあまた寝たるべし。

 戸放ちつる童もそなたに入りて臥しぬれば、

 とばかり空寝して、

 灯明かき方に屏風を広げて、

 影ほのかなるに、

 やをら入れたてまつる。

源氏

「いかにぞ、をこがましきこともこそ」

 と思すに、

 いとつつましけれど、導くままに、

 母屋の几帳の帷子引き上げて、

 いとやをら入りたまふとすれど、

 皆静まれる夜の、

 御衣のけはひやはらかなるしも、

 いとしるかりけり。

 

 女は、

 さこそ忘れたまふをうれしきに思ひなせど、

 あやしく夢のやうなることを、

 心に離るる折なきころにて、

 心とけたる寝だに寝られずなむ、昼はながめ、

 夜は寝覚めがちなれば、春ならぬ木の芽も、

 いとなく嘆かしきに、碁打ちつる君、

軒端荻

「今宵は、こなたに」

 と、今めかしくうち語らひて、寝にけり。

 

 若き人は、

 何心なくいとようまどろみたるべし。

 かかるけはひの、いと香ばしくうち匂ふに、

 顔をもたげたるに、

 単衣うち掛けたる几帳の隙間に、

 暗けれど、うち身じろき寄るけはひ、

 いとしるし。

 あさましくおぼえて、

 ともかくも思ひ分かれず、

 やをら起き出でて、

 生絹なる単衣を一つ着て、

 すべり出でにけり。

 

 君は入りたまひて、

 ただひとり臥したるを心やすく思す。

 床の下に二人ばかりぞ臥したる。

 衣を押しやりて寄りたまへるに、

 ありしけはひよりは、

 ものものしくおぼゆれど、

 思ほしうも寄らずかし。

 いぎたなきさまなどぞ、

 あやしく変はりて、

 やうやう見あらはしたまひて、

 あさましく心やましけれど、

「人違へとたどりて見えむも、

 をこがましく、あやしと思ふべし、

 本意の人を尋ね寄らむも、

 かばかり逃るる心あめれば、

 かひなう、をこにこそ思はめ」

 と思す。

 かのをかしかりつる灯影ならば、

 いかがはせむに思しなるも、

 悪ろき御心浅さなめりかし。

 

 やうやう目覚めて、

 いとおぼえずあさましきに、

 あきれたる気色にて、

 何の心深くいとほしき用意もなし。

 世の中をまだ思ひ知らぬほどよりは、

 さればみたる方にて、

 あえかにも思ひまどはず。

 我とも知らせじと思せど、

 いかにしてかかることぞと、

 後に思ひめぐらさむも、

 わがためには事にもあらねど、

 あのつらき人の、あながちに名をつつむも、

 さすがにいとほしければ、

 たびたびの御方違へにことつけたまひしさまを、

 いとよう言ひなしたまふ。

 たどらむ人は心得つべけれど、

 まだいと若き心地に、

 さこそさし過ぎたるやうなれど、

 えしも思ひ分かず。

 

 憎しとはなけれど、

 御心とまるべきゆゑもなき心地して、

 なほかのうれたき人の心をいみじく思す。

 「いづくにはひ紛れて、かたくなしと思ひゐたらむ。

  かく執念き人はありがたきものを」

 と思すしも、あやにくに、

 紛れがたう思ひ出でられたまふ。

 

「もう皆寝るのだろう、じゃあはいって行って上手にやれ」

と源氏は言った。

小君も

きまじめな姉の心は動かせそうではないのを知って相談はせずに、

そばに人の少ない時に

寝室へ源氏を導いて行こうと思っているのである。

紀伊守の妹もこちらにいるのか。私に隙見《すきみ》させてくれ」

「そんなこと、 格子には几帳《きちょう》が添えて立ててあるのですから」

と小君が言う。

 

そのとおりだ、しかし、

そうだけれどと源氏はおかしく思ったが、

見たとは知らすまい、

かわいそうだと考えて、

ただ夜ふけまで待つ苦痛を言っていた。

小君は、

今度は横の妻戸をあけさせてはいって行った。

女房たちは皆寝てしまった。

 

「この敷居の前で私は寝る。よく風が通るから」

と言って、

小君は板間《いたま》に上敷《うわしき》をひろげて寝た。

女房たちは東南の隅《すみ》の室に皆はいって寝たようである。

小君のために妻戸をあけに出て来た童女もそこへはいって寝た。

しばらく空寝入りをして見せたあとで、

小君はその隅の室からさしている灯《ひ》の明りのほうを、

ひろげた屏風で隔てて こちらは暗くなった妻戸の前の室へ

源氏を引き入れた。

 

人目について恥をかきそうな不安を覚えながら、

源氏は導かれるままに

中央の母屋《もや》の几帳の垂絹《たれ》を はねて中へはいろうとした。

それはきわめて細心に行なっていることであったが、

家の中が寝静まった時間には、

柔らかな源氏の衣摺《きぬず》れの音も耳立った。

 

女は近ごろ源氏の手紙の来なくなったのを、

安心のできることに思おうとするのであったが、

今も夢のようなあの夜の思い出をなつかしがって、

毎夜安眠もできなくなっているころであった。  

人知れぬ恋は昼は終日物思いをして、

夜は寝ざめがちな女にこの人をしていた。

碁の相手の娘は、

今夜はこちらで泊まるといって

若々しい屈託のない話をしながら寝てしまった。

 

無邪気に娘はよく睡《ねむ》っていたが、

源氏がこの室へ寄って来て、

衣服の持つ薫物《たきもの》の香が流れてきた時に

気づいて女は顔を上げた。

夏の薄い几帳越しに 人のみじろぐのが

暗い中にもよく感じられるのであった。

静かに起きて、

薄衣《うすもの》の単衣を一つ着ただけで

そっと寝室を抜けて出た。

 

はいって来た源氏は、

外にだれもいず一人で女が寝ていたのに安心した。

帳台から下の所に二人ほど女房が寝ていた。

上に被《かず》いた着物をのけて寄って行った時に、

あの時の女よりも大きい気がしても

まだ源氏は恋人だとばかり思っていた。

あまりによく眠っていることなどに不審が起こってきて、

やっと源氏にその人でないことがわかった。

あきれるとともにくやしくてならぬ心になったが、

人違いであるといってここから出て行くことも

怪しがられることで困ったと源氏は思った。

その人の隠れた場所へ行っても、

これほどに自分から逃げようとするのに一心である人は

快く自分に逢うはずもなくて、

ただ侮蔑《ぶべつ》されるだけであろうという気がして、

これがあの美人であったら

今夜の情人にこれをしておいてもよいという心になった。

これでつれない人への源氏の恋も何ほどの深さかと疑われる。

 

やっと目がさめた女は あさましい成り行きにただ驚いているだけで、

真から気の毒なような感情が源氏に起こってこない。

娘であった割合には

蓮葉《はすっぱ》な生意気なこの人はあわてもしない。

源氏は自身でないようにしてしまいたかったが、

どうしてこんなことがあったかと、

あとで女を考えてみる時に、

それは自分のためにはどうでもよいことであるが、

自分の恋しい冷ややかな人が、

世間をあんなにはばかっていたのであるから、

このことで 秘密を暴露させることになっては

かわいそうであると思った。

それで たびたび方違《かたたが》えにこの家を選んだのは

あなたに接近したいためだったと告げた。

少し考えてみる人には継母との関係がわかるであろうが、

若い娘心は

こんな生意気な人ではあってもそれに思い至らなかった。

 

憎くはなくても心の惹《ひ》かれる点のない気がして、

この時でさえ源氏の心は無情な人の恋しさでいっぱいだった。

どこの隅にはいって自分の思い詰め方を笑っているのだろう、

こんな真実心というものはざらにあるものでもないのにと、

あざける気になってみても

真底はやはりその人が恋しくてならないのである。

 

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