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たおやかだが なよたけの強さを持つ女君【源氏物語 26 第2帖 箒木15】女房に「夜明けにお迎えに来るがいい」と伝える源氏

源氏

「違ふべくもあらぬ心のしるべを、

 思はずにもおぼめいたまふかな。

 好きがましきさまには、

 よに見えたてまつらじ。

 思ふことすこし聞こゆべきぞ」

とて、いと小さやかなれば、

かき抱きて障子のもと、出でたまふにぞ、

求めつる中将だつ人来あひたる。

源氏

「やや」

とのたまふに、

あやしくて探り寄りたるにぞ、

いみじく匂ひみちて、

顔にもくゆりかかる心地するに、

思ひ寄りぬ。

あさましう、

こはいかなることぞと、

思ひまどはるれど、

聞こえむ方なし。

 

並々の人ならばこそ、

荒らかにも引きかなぐらめ、

それだに人のあまた知らむは、

いかがあらむ。

心も騷ぎて、慕ひ来たれど、

動もなくて、

奥なる御座に入りたまひぬ。

障子をひきたてて、

源氏

「暁に御迎へにものせよ」とのたまへば、

女は、この人の思ふらむことさへ、

死ぬばかりわりなきに、

流るるまで汗になりて、

いと悩ましげなる、いとほしけれど、

例の、

いづこより取う出たまふ言の葉にかあらむ、

あはれ知らるばかり、

情け情けしくのたまひ尽くすべかめれど、

なほいとあさましきに、

空蝉

「現ともおぼえずこそ。

 数ならぬ身ながらも、

 思しくたしける御心ばへのほども、

 いかが浅くは思うたまへざらむ。

 いとかやうなる際は、

 際とこそはべなれ」

とて、かくおし立ちたまへるを、

深く情けなく憂しと思ひ入りたるさまも、

げにいとほしく、

心恥づかしきけはひなれば、

源氏

「その際々を、まだ知らぬ、初事ぞや。

 なかなか、

 おしなべたる列に思ひなしたまへるなむうたてありける。

 おのづから聞きたまふやうもあらむ。

 あながちなる好き心は、さらにならはぬを。

 さるべきにや、

 げに、かくあはめられたてまつるも、

 ことわりなる心まどひを、

 みづからもあやしきまでなむ」

など、

まめだちてよろづにのたまへど、

いとたぐひなき御ありさまの、

いよいようちとけきこえむことわびしければ、

すくよかに心づきなしとは見えたてまつるとも、

さる方の言ふかひなきにて過ぐしてむと思ひて、

つれなくのみもてなしたり。

人柄のたをやぎたるに、

強き心をしひて加へたれば、

なよ竹の心地して、

さすがに折るべくもあらず。

 

まことに心やましくて、

あながちなる御心ばへを、

言ふ方なしと思ひて、

泣くさまなど、いとあはれなり。

心苦しくはあれど、見ざらましかば、

口惜しからまし、と思す。

慰めがたく、憂しと思へれば、

源氏

「など、かく疎ましきものにしも思すべき。

 おぼえなきさまなるしもこそ、

 契りあるとは思ひたまはめ。

 むげに世を思ひ知らぬやうに、

 おぼほれたまふなむ、いとつらき」

と恨みられて、

空蝉

「いとかく憂き身のほどの定まらぬ、

 ありしながらの身にて、

 かかる御心ばへを見ましかば、

 あるまじき我が頼みにて、

 見直したまふ後瀬をも思ひたまへ慰めましを、

 いとかう仮なる浮き寝のほどを思ひはべるに、

 たぐひなく思うたまへ惑はるるなり。

 よし、今は見きとなかけそ」

とて、思へるさま、

げにいとことわりなり。

おろかならず契り慰めたまふこと多かるべし。

 

「違うわけがないじゃありませんか。

 恋する人の直覚であなただと思って来たのに、

 あなたは知らぬ顔をなさるのだ。

 普通の好色者がするような失礼を私はしません。

 少しだけ私の心を聞いていただけばそれでよいのです」

と言って、

小柄な人であったから、

片手で抱いて以前の襖子《からかみ》の所へ出て来ると、

さっき呼ばれていた中将らしい女房が向こうから来た。

 

「ちょいと」

と源氏が言ったので、

不思議がって探り寄って来る時に、

《た》き込めた源氏の衣服の香

顔に吹き寄ってきた。

中将は、これがだれであるかも、

何であるかもわかった。

情けなくて、

どうなることかと心配でならないが、

何とも異論のはさみようがない。

 

並み並みの男であったなら

できるだけの力の抵抗もしてみるはずであるが、

しかもそれだって荒だてて多数の人に知らせることは

夫人の不名誉になることであって、

しないほうがよいのかもしれない。

 

こう思って胸をとどろかせながら従ってきたが、

源氏の中将はこの中将をまったく無視していた。

初めの座敷へ抱いて行って女をおろして、

それから襖子をしめて、

「夜明けにお迎えに来るがいい」

と言った。

 

中将はどう思うであろうと、

女はそれを聞いただけでも死ぬほどの苦痛を味わった。

流れるほどの汗になって悩ましそうな女に 同情は覚えながら、

女に対する例の誠実な調子で、

女の心が当然動くはずだと思われるほどに言っても、

女は人間の掟《おきて》に許されていない恋

共鳴してこない。

「こんな御無理を承ることが現実のことであろうとは思われません。

 卑しい私ですが、

 軽蔑《けいべつ》してもよいものだという

 あなたのお心持ちを私は深くお恨みに思います。

 私たちの階級とあなた様たちの階級とは、

 遠く離れて別々のものなのです」

こう言って、

強さで自分を征服しようとしている男を

憎いと思う様子は、

源氏を十分に反省さす力があった。

 

「私はまだ女性に階級のあることも何も知らない。

 はじめての経験なんです。

 普通の多情な男のようにお取り扱いになるのを恨めしく思います。

 あなたの耳にも自然はいっているでしょう、

 むやみな恋の冒険などを私はしたこともありません。

 それにもかかわらず前生の因縁は大きな力があって、

 私をあなたに近づけて、

 そしてあなたからこんなにはずかしめられています。

 ごもっともだとあなたになって考えれば考えられますが、

 そんなことをするまでに私はこの恋に盲目になっています」

 

まじめになっていろいろと源氏は説くが、

女の冷ややかな態度は変わっていくけしきもない。

女は、一世の美男であればあるほど、

この人の恋人になって安んじている自分にはなれない、

冷血的な女だと思われてやむのが望みであると考えて、

きわめて弱い人が 強さをしいてつけているのは

弱竹《なよたけ》のようで、

さすがに折ることはできなかった。

 

真からあさましいことだと思うふうに泣く様子などが

可憐《かれん》であった。

気の毒ではあるがこのままで別れたら

のちのちまでも後悔が自分を苦しめるであろうと

源氏は思ったのであった。

もうどんなに勝手な考え方をしても

救われない過失をしてしまったと、

女の悲しんでいるのを見て、

「なぜそんなに私が憎くばかり思われるのですか。

 お嬢さんか何かのようにあなたの悲しむのが恨めしい」

と、源氏が言うと、

「私の運命がまだ私を人妻にしません時、

 親の家の娘でございました時に、

 こうしたあなたの熱情で思われましたのなら、

 それは私の迷いであっても、

 他日に光明のあるようなことも思ったでございましょうが、

 もう何もだめでございます。

 私には恋も何もいりません。

 ですからせめてなかったことだと思ってしまってください」

と言う。

悲しみに沈んでいる女を源氏ももっともだと思った。

真心から慰めの言葉を発しているのであった。

 

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