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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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夫は、しっかり つないどけ?🚤🤣【源氏物語 15 第2帖 箒木4】繋がぬ舟🚤の浮きたる例も、げにあやなし。

左馬頭

「今は、ただ、品にもよらじ。

 容貌をばさらにも言はじ。

 いと口惜しくねぢけがましきおぼえだになくは、

 ただひとへにものまめやかに、

 静かなる心のおもむきならむよるべをぞ、

 つひの頼み所には思ひおくべかりける。

 あまりのゆゑよし心ばせうち添へたらむをば、

 よろこびに思ひ、すこし後れたる方あらむをも、

 あながちに求め加へじ。

 うしろやすくのどけき所だに強くは、

 うはべの情けは、おのづからもてつけつべきわざをや。

 

 艶にもの恥ぢして、

 恨み言ふべきことをも見知らぬさまに忍びて、

 上はつれなくみさをづくり、心一つに思ひあまる時は、

 言はむかたなくすごき言の葉、

 あはれなる歌を詠みおき、

 しのばるべき形見をとどめて、

 深き山里、世離れたる海づらなどにはひ隠れぬるをり。

 

 童にはべりし時、女房などの物語読みしを聞きて、

 いとあはれに悲しく、心深きことかなと、

 涙をさへなむ落としはべりし。

 今思ふには、いと軽々しく、

 ことさらびたることなり。

 

 心ざし深からむ男をおきて、

 見る目の前につらきことありとも、

 人の心を見知らぬやうに逃げ隠れて、

 人をまどはし、心を見むとするほどに、

 長き世のもの思ひになる、

 いとあぢきなきことなり。

 

『心深しや』など、

 ほめたてられて、あはれ進みぬれば、

 やがて尼になりぬかし。

 思ひ立つほどは、いと心澄めるやうにて、

 世に返り見すべくも思へらず。

 『いで、あな悲し。かくはた思しなりにけるよ』

 などやうに、あひ知れる人来とぶらひ、

 ひたすらに憂しとも思ひ離れぬ男、

 聞きつけて涙落とせば、使ふ人、古御達など、

 『君の御心は、あはれなりけるものを。

  あたら御身を』など言ふ。

 みづから額髪をかきさぐりて、

 あへなく心細ければ、うちひそみぬかし。

 忍ぶれど涙こぼれそめぬれば、

 折々ごとにえ念じえず、悔しきこと多かめるに、

 仏もなかなか心ぎたなしと、見たまひつべし。

 濁りにしめるほどよりも、なま浮かびにては、

 かへりて悪しき道にも漂ひぬべくぞおぼゆる。

 

 絶えぬ宿世浅からで、尼にもなさで尋ね取りたらむも、

 やがてあひ添ひて、とあらむ折もかからむきざみをも、

 見過ぐしたらむ仲こそ、契り深くあはれならめ、

 我も人も、うしろめたく心おかれじやは。

 

 また、なのめに移ろふ方あらむ人を恨みて、

 気色ばみ背かむ、はたをこがましかりなむ。

 心は移ろふ方ありとも、

 見そめし心ざしいとほしく思はば、

 さる方のよすがに思ひてもありぬべきに、

 さやうならむたぢろきに、絶えぬべきわざなり。

 

 すべて、よろづのことなだらかに、

 怨ずべきことをば見知れるさまにほのめかし、

 恨むべからむふしをも憎からずかすめなさば、

 それにつけて、あはれもまさりぬべし。

 多くは、わが心も見る人からをさまりもすべし。

 あまりむげにうちゆるべ見放ちたるも、

 心安くらうたきやうなれど、

 おのづから軽き方にぞおぼえはべるかし。

 繋がぬ舟の浮きたる例も、げにあやなし。

 さははべらぬか」

と言へば、中将うなづく。

頭中将

「さしあたりて、をかしともあはれとも心に入らむ人の、

 頼もしげなき疑ひあらむこそ、大事なるべけれ。

 わが心あやまちなくて見過ぐさば、

 さし直してもなどか見ざらむとおぼえたれど、

 それさしもあらじ。

 ともかくも、違ふべきふしあらむを、

 のどやかに見忍ばむよりほかに、ますことあるまじかりけり」

頭中将

「さしあたりて、をかしともあはれとも心に入らむ人の、

 頼もしげなき疑ひあらむこそ、大事なるべけれ。

 わが心あやまちなくて見過ぐさば、

 さし直してもなどか見ざらむとおぼえたれど、

 それさしもあらじ。

 

🌷「ですからもう階級も何も言いません。 

 容貌《きりょう》もどうでもいいとします。

  片よった性質でさえなければ、

 まじめで素直な人を妻にすべきだと思います。 

 その上に少し見識でもあれば、

  満足して少しの欠点はあってもよいことにするのですね。

  安心のできる点が多ければ、

 趣味の教育などはあとからできるものですよ。

 

 上品ぶって、

 恨みを言わなければならぬ時も 知らぬ顔で済ませて、

  表面は賢女らしくしていても、

 そんな人は苦しくなってしまうと、

  凄文句《すごもんく》や身にしませる歌などを書いて、

  思い出してもらえる材料にそれを残して、 遠い郊外とか、

 まったく世間と離れた海岸とかへ行ってしまいます。

 

 子供の時に女房などが小説を読んでいるのを聞いて、

  そんなふうの女主人公に同情したものでしてね、

  りっぱな態度だと涙までもこぼしたものです。

  今思うとそんな女のやり方は 軽佻《けいちょう》で、わざとらしい。

 

  自分を愛していた男を捨てて置いて、

  その際にちょっとした恨めしいことがあっても、

  男の愛を信じないように家を出たりなどして、 

 無用の心配をかけて、 

 そうして男をためそうとしているうちに

 取り返しのならぬはめに至ります。 

 いやなことです。 

 

 りっぱな態度だなどとほめたてられると、

  図に乗ってどうかすると尼なんかにもなります。

  その時はきたない未練は持たずに、

  すっかり恋愛を清算した気でいますが、 まあ悲しい、 

 こんなにまであきらめておしまいになってなどと、

  知った人が訪問して言い、 真底から憎くはなっていない男が、

  それを聞いて泣いたという話などが聞こえてくると、

  召使や古い女房などが、

  殿様はあんなにあなたを思っていらっしゃいますのに、

  若いおからだを尼になどしておしまいになって惜しい。 

 こんなことを言われる時、

  短くして後ろ梳《ず》きにしてしまった額髪に手が行って、

  心細い気になると自然に物思いをするようになります。

  忍んでももう涙を一度流せばあとは始終泣くことになります。

 御弟子《みでし》になった上で  

 こんなことでは仏様も未練をお憎みになるでしょう。

  俗であった時よりもそんな罪は深くて、

  かえって地獄へも落ちるように思われます。 

 

 また夫婦の縁が切れずに、

 尼にはならずに、

  良人《おっと》に連れもどされて来ても、

  自分を捨てて家出をした妻であることを 

 良人に忘れてもらうことはむずかしいでしょう。

  悪くてもよくてもいっしょにいて、 

 どんな時もこんな時も

 許し合って暮らすのが ほんとうの夫婦でしょう。

  一度そんなことがあったあとでは

 真実の夫婦愛がかえってこないものです。

 

 また男の愛がほんとうにさめている場合に

 家出をしたりすることは愚かですよ。

  恋はなくなっていても妻であるからと

 思っていっしょにいてくれた男から、

 これを機会に離縁を断行されることにもなります。

 

なんでも穏やかに見て、

 男にほかの恋人ができた時にも、 

 全然知らぬ顔はせずに感情を傷つけない程度の 怨みを見せれば、

  それでまた愛を取り返すことにもなるものです。

  浮気な習慣は妻次第でなおっていくものです。

  あまりに男に自由を与えすぎる女も、

 男にとっては気楽で、

  その細君の心がけがかわいく思われそうでありますが、 

 しかしそれもですね、

 ほんとうは感心のできかねる妻の態度です。 

 つながれない船は浮き歩くということになるじゃありませんか、ねえ」

 中将はうなずいた。

 

 「現在の恋人で、

  深い愛着を覚えていながらその女の愛に

 信用が持てないということはよくない。

  自身の愛さえ深ければ 

 女のあやふやな心持ちも 直して見せることができるはずだが、

  どうだろうかね。 

 方法はほかにありませんよ。

 長い心で見ていくだけですね」 

と頭中将は言って 、

自分の妹と源氏の中はこれに当たっているはずだと思うのに、

 源氏が目を閉じたままで何も言わぬのを、 

物足らずも口惜しくも思った。

 

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