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頭中将の哀しい恋😢【源氏物語 20 第2帖 箒木 9】「なにがしは、痴者の物語をせむ」とて、「いと忍びて見そめたりし人の、さても見つべかりしけはひなりしかば、ながらふべきものとしも思ひたまへざりしかど‥

頭中将

中将

「なにがしは、痴者の物語をせむ」

とて、

「いと忍びて見そめたりし人の、

 さても見つべかりしけはひなりしかば、

 ながらふべきものとしも思ひたまへざりしかど、

 馴れゆくままに、あはれとおぼえしかば、

 絶え絶え忘れぬものに思ひたまへしを、

 さばかりになれば、

 うち頼めるけしきも見えき。

 頼むにつけては、

 恨めしと思ふこともあらむと、

 心ながらおぼゆるをりをりもはべりしを、

 見知らぬやうにて、久しきとだえをも、

 かうたまさかなる人とも思ひたらず、

 ただ朝夕にもてつけたらむありさまに見えて、

 心苦しかりしかば、

 頼めわたることなどもありきかし。

 

 親もなく、いと心細げにて、

 さらばこの人こそはと、

 事にふれて思へるさまもらうたげなりき。

 かうのどけきにおだしくて、

 久しくまからざりしころ、

 この見たまふるわたりより、

 情けなくうたてあることをなむ、

 さるたよりありてかすめ言はせたりける、

 後にこそ聞きはべりしか。

 

 さる憂きことやあらむとも知らず、

 心には忘れずながら、

 消息などもせで久しくはべりしに、

 むげに思ひしをれて心細かりければ、

 幼き者などもありしに思ひわづらひて、

 撫子の花を折りておこせたりし」

とて涙ぐみたり。

源氏

「さて、その文の言葉は」

と問ひたまへば、

頭中将

「いさや、ことなることもなかりきや。

『山がつの 垣ほ荒るとも 折々に

 あはれはかけよ 撫子の露』

 思ひ出でしままにまかりたりしかば、

 例のうらもなきものから、

 いと物思ひ顔にて、

 荒れたる家の露しげきを眺めて、

 虫の音に競へるけしき、

 昔物語めきておぼえはべりし。

頭中将

『咲きまじる 色はいづれと 分かねども

 なほ常夏に しくものぞなき』

 大和撫子をばさしおきて、

 まづ塵をだになど、親の心をとる

『うち払ふ 袖も露けき 常夏に

 あらし吹きそふ 秋も来にけり』

 とはかなげに言ひなして、

 まめまめしく恨みたるさまも見えず。

 涙をもらし落としても、

 いと恥づかしくつつましげに紛らはし隠して、

 つらきをも思ひ知りけりと見えむは、

 わりなく苦しきものと思ひたりしかば、

 心やすくて、

 またとだえ置きはべりしほどに、 

 跡もなくこそかき消ちて失せにしか。

 

 まだ世にあらば、

 はかなき世にぞさすらふらむ。

 あはれと思ひしほどに、

 わづらはしげに思ひまとはすけしき見えましかば、

 かくもあくがらさざらまし。

 こよなきとだえおかず、

 さるものにしなして長く見るやうもはべりなまし。

 かの撫子のらうたくはべりしかば、

 いかで尋ねむと思ひたまふるを、

 今もえこそ聞きつけはべらね。

 

 これこそのたまへるはかなき例なめれ。

 つれなくてつらしと思ひけるも知らで、

 あはれ絶えざりしも、

 益なき片思ひなりけり。

 今やうやう忘れゆく際に、

 かれはたえしも思ひ離れず、

 折々人やりならぬ胸焦がるる夕べもあらむとおぼえはべり。

 これなむ、

 え保つまじく頼もしげなき方なりける。

 されば、かのさがな者も、

 思ひ出である方に忘れがたけれど、

 さしあたりて見むにはわづらはしくよ、

 よくせずは、飽きたきこともありなむや。

 琴の音すすめけむかどかどしさも、

 好きたる罪重かるべし。

 この心もとなきも、

 疑ひ添ふべければ、

 いづれとつひに思ひ定めずなりぬるこそ。

 世の中や、ただかくこそ。

 とりどりに比べ苦しかるべき。

 このさまざまのよき限りをとり具し、

 難ずべきくさはひまぜぬ人は、

 いづこにかはあらむ。

 吉祥天女を思ひかけむとすれば、

 法気づき、

 くすしからむこそ、

 また、わびしかりぬべけれ」 

とて、皆笑ひぬ。

 

「私もばか者の話を一つしよう」

中将は前置きをして語り出した。

「私がひそかに情人にした女というのは、

 見捨てずに置かれる程度のものでね、

 長い関係になろうとも思わずにかかった人だったのですが、

 馴れていくとよい所ができて心が惹かれていった。

 たまにしか行かないのだけれど、

 とにかく女も私を信頼するようになった。

 愛しておれば恨めしさの起こるわけのこちらの態度だがと、

 自分のことだけれど気のとがめる時があっても、

 その女は何も言わない。

 久しく間を置いて逢っても始終来る人といるようにするので、

 気の毒で、私も将来のことでいろんな約束をした。

 

 父親もない人だったから、

 私だけに頼らなければと思っている様子が

 何かの場合に見えて可憐な女でした。

 こんなふうに穏やかなものだから、

 久しく訪《たず》ねて行かなかった時分に、

 ひどいことを私の妻の家のほうから、

 ちょうどまたそのほうへも出入りする女の知人を介して言わせたのです。

 私はあとで聞いたことなんだ。

 

そんなかわいそうなことがあったとも知らず、

 心の中では忘れないでいながら手紙も書かず、

 長く行きもしないでいると、 女はずいぶん心細がって、

 私との間に小さな子なんかもあったもんですから、

 煩悶《はんもん》した結果、

 撫子《なでしこ》の花を使いに持たせてよこしましたよ」

 中将は涙ぐんでいた。

 

「どんな手紙」と源氏が聞いた。

「なに、平凡なものですよ。

『山がつの 垣《かき》は荒るとも をりをりに

 哀れはかけよ 撫子の露』ってね。

 私はそれで行く気になって、 行って見ると、

 例のとおり穏やかなものなんですが、

 少し物思いのある顔をして、

 秋の荒れた庭をながめながら、

 そのころの虫の声と同じような力のないふうでいるのが、

 なんだか小説のようでしたよ。

 

『咲きまじる 花は何《いづ》れと わかねども

 なほ常夏《とこなつ》に しくものぞなき』

 子供のことは言わずに、

 まず母親の機嫌《きげん》を取ったのですよ。

『打ち払ふ 《そで》も露けき常夏に

 嵐《あらし》吹き添ふ秋も来にけり』

 こんな歌をはかなそうに言って、

 正面から私を恨むふうもありません。

 うっかり涙をこぼしても恥ずかしそうに紛らしてしまうのです。

 恨めしい理由をみずから追究して考えていくことが苦痛らしかったから、

 私は安心して帰って来て、

 またしばらく途絶えているうちに消えたようにいなくなってしまったのです。

 

 まだ生きておれば相当に苦労をしているでしょう。

 私も愛していたのだから、

 もう少し私をしっかり離さずにつかんでいてくれたなら、

 そうしたみじめな目に逢《あ》いはしなかったのです。

 長く途絶えて行かないというようなこともせず、

 妻の一人として待遇のしようもあったのです。

 撫子の花と母親の言った子もかわいい子でしたから、

 どうかして捜し出したいと思っていますが、

 今に手がかりがありません。

 

これはさっきの話のたよりない性質の女にあたるでしょう。

 素知らぬ顔をしていて、心で恨めしく思っていたのに気もつかず、

 私のほうではあくまでも愛していたというのも、

 いわば一種の片恋と言えますね。 

 もうぼつぼつ今は忘れかけていますが、

 あちらではまだ忘れられずに、

 今でも時々はつらい悲しい思いをしているだろうと思われます。

 これなどは男に永久性の愛を求めようとせぬ態度に出るもので、

 確かに完全な妻にはなれませんね。

 

だからよく考えれば、左馬頭のお話の嫉妬深い女も、

 思い出としてはいいでしょうが、

 今いっしょにいる妻であってはたまらない。

 どうかすれば断然いやになってしまうでしょう。

 琴の上手な才女というのも浮気の罪がありますね。

 私の話した女も、

 よく本心の見せられない点に欠陥があります。

 どれがいちばんよいとも言えないことは、

 人生の何のこともそうですがこれも同じです。

 何人かの女からよいところを取って、

 悪いところの省かれたような、

 そんな女はどこにもあるものですか。

 吉祥天女《きちじょうてんにょ》を恋人にしようと思うと、

 それでは仏法くさくなって困るということになるだろうからしかたがない」

中将がこう言ったので皆笑った。

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