2023-10-27から1日間の記事一覧
頭中将 中将 「なにがしは、痴者の物語をせむ」 とて、 「いと忍びて見そめたりし人の、 さても見つべかりしけはひなりしかば、 ながらふべきものとしも思ひたまへざりしかど、 馴れゆくままに、あはれとおぼえしかば、 絶え絶え忘れぬものに思ひたまへしを…
左馬頭 「さて、また同じころ、まかり通ひし所は、 人も立ちまさり心ばせまことにゆゑありと見えぬべく、 うち詠み、走り書き、掻い弾く爪音、手つき口つき、 みなたどたどしからず、 見聞きわたりはべりき。 見る目もこともなくはべりしかば、 このさがな者…
憂きふしを 心ひとつに 数へきて こや君が手を 別るべきをり など、言ひしろひはべりしかど、 まことには変るべきこととも思ひたまへずながら、 日ごろ経るまで消息も遣はさず、 あくがれまかり歩くに、 臨時の祭の調楽に、 夜更けていみじう霙降る夜、 これ…
左馬頭 「はやう、まだいと下臈にはべりし時、 あはれと思ふ人はべりき。 聞こえさせつるやうに、 容貌などいとまほにもはべらざりしかば、 若きほどの好き心には、 この人をとまりにとも思ひとどめはべらず、 よるべとは思ひながら、 さうざうしくて、 とか…
ともかくも、違ふべきふしあらむを、 のどやかに見忍ばむよりほかに、 ますことあるまじかりけり」 馬頭、物定めの博士になりて、ひひらきゐたり。 中将は、このことわり聞き果てむと、 心入れて、あへしらひゐたまへり。 左馬頭 「よろづのことによそへて思…