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指食いの女😱【源氏物語 17 第2帖 箒木 6】指ひとつを引き寄せて喰ひてはべりしを、おどろおどろしくかこちて‥

左馬頭

「はやう、まだいと下臈にはべりし時、

 あはれと思ふ人はべりき。

 聞こえさせつるやうに、

 容貌などいとまほにもはべらざりしかば、

 若きほどの好き心には、

 この人をとまりにとも思ひとどめはべらず、

 よるべとは思ひながら、

 さうざうしくて、

 とかく紛れはべりしを、

 もの怨じをいたくしはべりしかば、

 心づきなく、

 いとかからで、

 おいらかならましかばと思ひつつ、

 あまりいと許しなく疑ひはべりしもうるさくて、

 かく数ならぬ身を見も放たで、

 などかくしも思ふらむと、

 心苦しき折々もはべりて、

 自然に心をさめらるるやうになむはべりし。

 

 この女のあるやう、

 もとより思ひいたらざりけることにも、

 いかでこの人のためにはと、

 なき手を出だし、

 後れたる筋の心をも、

 なほ口惜しくは見えじと思ひはげみつつ、

 とにかくにつけて、

 ものまめやかに後見、

 つゆにても心に違ふことはなくもがなと思へりしほどに、

 進める方と思ひしかど、

 とかくになびきてなよびゆき、

 醜き容貌をも、

 この人に見や疎まれむと、

 わりなく思ひつくろひ、

 疎き人に見えば、

 面伏せにや思はむと、

 憚り恥ぢて、

 みさをにもてつけて見馴るるままに、

 心もけしうはあらずはべりしかど、

 ただこの憎き方一つなむ、

 心をさめずはべりし。

 

 そのかみ思ひはべりしやう、

 かうあながちに従ひ怖ぢたる人なめれり、

 いかで懲るばかりのわざして、おどして、

 この方もすこしよろしくもなり、

 さがなさもやめむと思ひて、

 まことに憂しなども思ひて絶えぬべき気色ならば、

 かばかり我に従ふ心ならば思ひ懲りなむと思うたまへ得て、

 ことさらに情けなくつれなきさまを見せて、

 例の腹立ち怨ずるに、

左馬頭

『かくおぞましくは、

 いみじき契り深くとも、

 絶えてまた見じ。

 限りと思はば、

 かくわりなきもの疑ひはせよ。

 行く先長く見えむと思はば、

 つらきことありとも、

 念じてなのめに思ひなりて、

 かかる心だに失せなば、

 いとあはれとなむ思ふべき。

 人並々にもなり、

 すこしおとなびむに添へて、

 また並ぶ人なくあるべき』

 やうなど、

 かしこく教へたつるかなと思ひたまへて、

 われたけく言ひそしはべるに、

 すこしうち笑ひて、

 

 『よろづに見立てなく、

 ものげなきほどを見過ぐして、

 人数なる世もやと待つ方は、

 いとのどかに思ひなされて、

 心やましくもあらず。

 つらき心を忍びて、

 思ひ直らむ折を見つけむと、

 年月を重ねむあいな頼みは、

 いと苦しくなむあるべければ、

 かたみに背きぬべききざみになむある』

 

とねたげに言ふに、

腹立たしくなりて、

憎げなることどもを言ひはげましはべるに、

女もえをさめぬ筋にて、

指ひとつを引き寄せて喰ひてはべりしを、

おどろおどろしくかこちて、

左馬頭

 『かかる疵さへつきぬれば、

  いよいよ交じらひをすべきにもあらず。

  辱めたまふめる官位、

  いとどしく何につけてかは人めかむ。

  世を背きぬべき身なめり』

 など言ひ脅して、

 『さらば、今日こそは限りなめれ』

 と、この指をかがめてまかでぬ。

左馬頭

『手を折りて あひ見しことを 数ふれば

 これひとつやは 君が憂きふし

 えうらみじ』

など言ひはべれば、さすがにうち泣きて、

〔女〕

『憂きふしを 心ひとつに 数へきて

 こや君が手を 別るべきをり』

 

🌷「ずっと前で、まだつまらぬ役をしていた時です。

 私に一人の愛人がございました。

 容貌《ようぼう》などはとても悪い女でしたから、

 若い浮気な心には、

 この人とだけで一生を暮らそうとは思わなかったのです。

 妻とは思っていましたが 物足りなくて外に情人も持っていました。

 それでとても嫉妬をするものですから、 いやで、

 こんなふうでなく穏やかに見ていてくれればよいのにと思いながらも、

 あまりにやかましく言われますと、

 自分のような者をどうしてそんなにまで思うのだろうと

 あわれむような気になる時もあって、

 自然身持ちが修まっていくようでした。

 

 この女というのは、 自身にできぬものでも、

 この人のためにはと努力してかかるのです。

 教養の足りなさも自身でつとめて補って、

 恥のないようにと心がけるたちで、

 どんなにも行き届いた世話をしてくれまして、

 私の機嫌をそこねまいとする心から

 勝ち気もあまり表面に出さなくなり、

 私だけには柔順な女になって、

 醜い容貌《きりょう》なんぞも

 私にきらわれまいとして化粧に骨を折りますし、

 この顔で他人に逢《あ》っては、

 夫の不名誉になると思っては、

 遠慮して来客にも近づきませんし、

 とにかく賢妻にできていましたから、

 同棲しているうちに利巧《りこう》さに心が引かれてもいきましたが、

 

 ただ一つの嫉妬《しっと》癖、

 それだけは彼女自身すらどうすることもできない厄介なものでした。

 当時私はこう思ったのです。

 とにかくみじめなほど私に参っている女なんだから、

 懲らすような仕打ちに出ておどして

 嫉妬《やきもちやき》を改造してやろう、

 もうその嫉妬ぶりに堪えられない、

 いやでならないという態度に出たら、

 これほど自分を愛している女なら、

 うまく自分の計画は成功するだろうと、

 そんな気で、ある時にわざと冷酷に出まして、

 例のとおり女がおこり出している時、

 

 『こんなあさましいことを言うあなたなら、

 どんな深い縁で結ばれた夫婦の中でも私は別れる決心をする。

 この関係を破壊してよいのなら、

 今のような邪推でも何でももっとするがいい。

 将来まで夫婦でありたいなら、

 少々つらいことはあっても忍んで、

 気にかけないようにして、

 そして嫉妬のない女になったら、

 私はまたどんなにあなたを愛するかしれない、

 人並みに出世してひとかどの官吏になる時分には

 あなたがりっぱな私の正夫人でありうるわけだ』などと、

 うまいものだと自分で思いながら利己的な主張をしたものですね。

 

 女は少し笑って、

『あなたの貧弱な時代を我慢して、

 そのうち出世もできるだろうと待っていることは、

 それは待ち遠しいことであっても、

 私は苦痛とも思いません。

 あなたの多情さを辛抱して、

 よい良人になってくださるのを待つことは

 堪えられないことだと思いますから、

 そんなことをお言いになることになったのは

 別れる時になったわけです』

 

 そう口惜《くちお》しそうに言ってこちらを憤慨させるのです。

 女も自制のできない性質で、

 私の手を引き寄せて一本の指にかみついてしまいました。

 私は『痛い痛い』とたいそうに言って、

 

『こんな傷までもつけられた私は社会へ出られない。

 あなたに侮辱された小役人はそんなことでは

 いよいよ人並みに上がってゆくことはできない。

 私は坊主にでもなることにするだろう』

 などとおどして、

 

『じゃあこれがいよいよ別れだ』と言って、

 指を痛そうに曲げてその家を出て来たのです。

手を折りて 相見しことを 数ふれば

 これ一つやは君がうきふし

 言いぶんはないでしょう』

 と言うと、さすがに泣き出して、

うき節を 心一つに 数へきてこや

 君が手を 別るべきをり

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