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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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いつまでもあると思うな親と恋人😅【源氏物語 19 第2帖 箒木8】折らば落ちぬべき萩の露、拾はば消えなむと見る玉笹の上の霰などの、艶にあえかなる好き好きしさのみこそ、をかしく思さるらめ

左馬頭

「さて、また同じころ、まかり通ひし所は、

 人も立ちまさり心ばせまことにゆゑありと見えぬべく、

 うち詠み、走り書き、掻い弾く爪音、手つき口つき、

 みなたどたどしからず、

 見聞きわたりはべりき。

 見る目もこともなくはべりしかば、

 このさがな者を、うちとけたる方にて、

 時々隠ろへ見はべりしほどは、

 こよなく心とまりはべりき。

 この人亡せて後、いかがはせむ、

 あはれながらも過ぎぬるはかひなくて、

 しばしばまかり馴るるには、

 すこしまばゆく艶に好ましきことは、

 目につかぬ所あるに、うち頼むべくは見えず、

 かれがれにのみ見せはべるほどに、

 忍びて心交はせる人ぞありけらし。

 

神無月のころほひ、月おもしろかりし夜、

内裏よりまかではべるに、

ある上人来あひて、この車にあひ乗りてはべれば、

大納言の家にまかり泊まらむとするに、

この人言ふやう、

殿上人

『今宵人待つらむ宿なむ、あやしく心苦しき』とて、

この女の家はた、避きぬ道なりければ、

荒れたる崩れより池の水かげ見えて、

月だに宿る住処を過ぎむもさすがにて、

下りはべりぬかし。

 

もとよりさる心を交はせるにやありけむ、

この男いたくすずろきて、

門近き廊の簀子だつものに尻かけて、

とばかり月を見る。

菊いとおもしろく移ろひわたり、

風に競へる紅葉の乱れなど

あはれと、げに見えたり。

 

懐なりける笛取り出でて吹き鳴らし、

殿上人

『蔭もよし』

などつづしり謡ふほどに、

よく鳴る和琴を、調べととのへたりける、

うるはしく掻き合はせたりしほど、

けしうはあらずかし。

 律の調べは、女のものやはらかに掻き鳴らして、

簾の内より聞こえたるも、今めきたる物の声なれば、

清く澄める月に折つきなからず。

 男いたくめでて、簾のもとに歩み来て、

殿上人

『庭の紅葉こそ、踏み分けたる跡もなけれ』

などねたます。

 菊を折りて、

殿上人

『琴の音も 月もえならぬ 宿ながら

 つれなき人を ひきやとめける

 悪ろかめり』

など言ひて、

『今ひと声、聞きはやすべき人のある時、手な残いたまひそ』

など、いたくあざれかかれば、

女、いたう声つくろひて、

『木枯に 吹きあはすめる 笛の音を

 ひきとどむべき 言の葉ぞなき』

 

となまめき交はすに、憎くなるをも知らで、

また、箏の琴を盤渉調に調べて、

今めかしく掻い弾きたる爪音、

かどなきにはあらねど、

まばゆき心地なむしはべりし。

 ただ時々うち語らふ宮仕へ人などの、

あくまでさればみ好きたるは、

さても見る限りはをかしくもありぬべし。

 時々にても、

さる所にて忘れぬよすがと思ひたまへむには、

頼もしげなくさし過ぐいたりと心おかれて、

その夜のことにことつけてこそ、まかり絶えにしか。

 

この二つのことを思うたまへあはするに、

若き時の心にだに、

なほさやうにもて出でたることは、

いと あやしく頼もしげなくおぼえはべりき。

 今より後は、ましてさのみなむ思ひたまへらるべき。

 御心のままに

 折らば落ちぬべき萩の露、

 拾はば消えなむと見る玉笹の上の霰などの

 艶にあえかなる好き好きしさのみこそ、

 をかしく思さるらめ、

 今さりとも、七年あまりがほどに思し知りはべなむ。

 なにがしがいやしき諌めにて、

 好きたわめらむ女に心おかせたまへ。

 過ちして、

 見む人のかたくななる名をも立てつべきものなり」

と戒む。

中将、例のうなづく。

君すこしかた笑みて、さることとは思すべかめり。

源氏

「いづ方につけても、人悪ろくはしたなかりける身物語かな」

とて、うち笑ひおはさうず。

 

「その時分にまたもう一人の情人がありましてね、

 身分もそれは少しいいし、

 才女らしく歌を詠《よ》んだり、

 達者に手紙を書いたりしますし、

 音楽のほうも相当なものだったようです。

 感じの悪い容貌《きりょう》でもありませんでしたから、

 やきもち焼きのほうを世話女房にして置いて、

 そこへはおりおり通って行ったころにはおもしろい相手でしたよ。 

 あの女が亡くなりましたあとでは、

 いくら今さら愛惜しても死んだものはしかたがなくて、

 たびたびもう一人の女の所へ行くようになりますと、

 なんだか体裁屋で、

 風流女を標榜している点が気に入らなくて、

 一生の妻にしてもよいという気はなくなりました。

 あまり通わなくなったころに、

 もうほかに恋愛の相手ができたらしいのですね、

 

 十一月ごろのよい月の晩に、私が御所から帰ろうとすると、

 ある殿上役人が来て私の車へいっしょに乗りました。

 私はその晩は父の大納言の家へ行って泊まろうと思っていたのです。

 途中でその人が、

 『今夜私を待っている女の家があって、

 そこへちょっと寄って行ってやらないでは気が済みませんから』

 と言うのです。

 私の女の家は道筋に当たっているのですが、

 こわれた土塀から池が見えて、

 庭に月のさしているのを見ると、

 私も寄って行ってやっていいという気になって、

 その男の降りた所で私も降りたものです。

 

 その男のはいって行くのは

 すなわち私の行こうとしている家なのです。

 初めから今日の約束があったのでしょう。

 男は夢中のようで、のぼせ上がったふうで、

 門から近い廊《ろう》の室の縁側に腰を掛けて、

 気どったふうに月を見上げているんですね。

 それは実際白菊が紫をぼかした庭へ、

 風で紅葉《もみじ》がたくさん降ってくるのですから、

 身にしむように思うのも無理はないのです。

 

 男は懐中から笛を出して吹きながら合い間に

 『飛鳥井《あすかゐ》に 宿りはすべし 蔭《かげ》もよし』

 などと歌うと、

 中ではいい音のする倭琴《やまとごと》を

 きれいに弾いて合わせるのです。

 相当なものなんですね。

 律の調子は女の柔らかに弾くのが御簾《みす》の中から聞こえるのも

 はなやかな気のするものですから、

 明るい月夜にはしっくり合っています。

 男はたいへんおもしろがって、

 琴を弾いている所の前へ行って、

『紅葉の積もり方を見るとだれもおいでになった様子はありませんね。

 あなたの恋人はなかなか冷淡なようですね』

 などといやがらせを言っています。

 

 菊を折って行って、

琴の音も菊もえならぬ宿ながら

 つれなき人を引きやとめける。

 だめですね

 などと言って また

 『いい聞き手のおいでになった時にはもっとうんと弾いてお聞かせなさい』

 こんな嫌味《いやみ》なことを言うと、

 女は作り声をして

『こがらしに吹きあはすめる笛の音を

 引きとどむべき言の葉ぞなき』

 などと言ってふざけ合っているのです。

 

 私がのぞいていて憎らしがっているのも知らないで、

 今度は十三絃《げん》を派手《はで》に弾き出しました。

 才女でないことはありませんがきざな気がしました。

 遊戯的の恋愛をしている時は、

 宮中の女房たちとおもしろおかしく交際していて、

 それだけでいいのですが、

 時々にもせよ愛人として通って行く女が

 そんなふうではおもしろくないと思いまして、

 その晩のことを口実にして別れましたがね。

 

 この二人の女を比べて考えますと、

 若い時でさえもあとの風流女のほうは

 信頼のできないものだと知っていました。

 もう相当な年配になっている私は、

 これからはまたそのころ以上にそうした

 浮華なものがきらいになるでしょう。

 いたいたしい萩《はぎ》の露や

 落ちそうな笹の上の霰《あられ》などにたとえていいような

 艶《えん》な恋人を持つのがいいように

 今あなたがたはお思いになるでしょうが、

 私の年齢まで、

 まあ七年もすればよくおわかりになりますよ、

 私が申し上げておきますが、

 風流好みな多情な女には気をおつけなさい。

 三角関係を発見した時に夫の嫉妬で問題を起こしたりするものです」

左馬頭は二人の貴公子に忠言を呈した。

 

例のように中将はうなずく。

少しほほえんだ源氏も左馬頭の言葉に真理がありそうだと思うらしい。

あるいは二つともばかばかしい話であると笑っていたのかもしれない。

 

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