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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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左馬頭の女性論🐴【源氏物語 14 第2帖 箒木3】おほかたの世につけて見るには咎なきも、わがものとうち頼むべきを選らむに、多かる中にも、えなむ思ひ定むまじかりける。

頭中将

「別人の言はむやうに、心得ず仰せらる」と、中将憎む。

左馬頭

「元の品、時世のおぼえうち合ひ、

 やむごとなきあたりの内々のもてなしけはひ後れたらむは、

 さらにも言はず、何をしてかく生ひ出でけむと、

 言ふかひなくおぼゆべし。

 うち合ひてすぐれたらむもことわり、

 これこそはさるべきこととおぼえて、

 めづらかなることと心も驚くまじ。

 なにがしが及ぶべきほどならねば、

 上が上はうちおきはべりぬ。

 

 さて、世にありと人に知られず、

 さびしく あばれたらむ葎の門に、

 思ひの外にらうたげならむ人の閉ぢられたらむこそ、

 限りなくめづらしくはおぼえめ。

 いかで、はたかかりけむと、思ふより違へることなむ、

 あやしく心とまるわざなる。

 

 父の年老い、ものむつかしげに太りすぎ、

 兄の顔憎げに、思ひやりことなることなき閨の内に、

 いといたく思ひあがり、はかなくし出でたることわざも、

 ゆゑなからず見えたらむ、片かどにても、

 いかが思ひの外にをかしからざらむ。

 すぐれて疵なき方の選びにこそ及ばざらめ、

 さる方にて捨てがたきものをは」

とて、式部を見やれば、

わが妹どものよろしき聞こえあるを思ひてのたまふにや、

とや心得らむ、ものも言はず。

源氏

「いでや、上の品と思ふ にだに難げなる世を」

と、君は思すべし。

白き御衣どものなよかなるに、

直衣ばかりをしどけなく着なしたまひて、

紐などもうち捨てて、

添ひ臥したまへる御火影、

いとめでたく、女にて見たてまつらまほし。

この御ためには上が上を選り出でても、

なほ飽くまじく見えたまふ。

 

さまざまの人の上どもを語り合はせつつ、

左馬頭

「おほかたの世につけて見るには咎なきも、

 わがものとうち頼むべきを選らむに、

 多かる中にも、えなむ思ひ定むまじかりける。

 男の朝廷に仕うまつり、はかばかしき世のかためとなるべきも、

 まことの器ものとなるべきを取り出ださむには、かたかるべしかし。

 されど、賢しとても、一人二人世の中をまつりごちしるべきならねば、

 上は下に輔けられ、下は上になびきて、こと広きに譲ろふらむ。

 

 狭き家の内の主人とすべき人一人を思ひめぐらすに、

 足らはで悪しかるべき大事どもなむ、かたがた多かる。

 とあればかかり、あふさきるさにて、

 なのめにさてもありぬべき人の少なきを、

 好き好きしき心のすさびにて、

 人のありさまをあまた見合はせむの好みならねど、

 ひとへに思ひ定むべきよるべとすばかりに、

 同じくは、わが力入りをし直しひきつくろふべき所なく、

 心にかなふやうにもやと、選りそめつる人の、定まりがたきなるべし。

 

 かならずしもわが思ふにかなはねど、

 見そめつる契りばかりを捨てがたく思ひとまる人は、

 ものまめやかなりと見え、

 さて、保たるる女のためも、心にくく、推し量らるるなり。

 されど、何か、世のありさまを見たまへ集むるままに、

 心に及ばずいとゆかしきこともなしや。

 君達の上なき御選びには、まして、いかばかりの人かは足らひたまはむ。

 

 容貌きたなげなく、若やかなるほどの、

 おのがじしは塵もつかじと身をもてなし、

 文を書けど、おほどかに言選りをし、

 墨つきほのかに心もとなく思はせつつ、

 またさやかにも見てしがなとすべなく待たせ、

 わづかなる声聞くばかり言ひ寄れど、

 息の下にひき入れ言少ななるが、いとよくもて隠すなりけり。

 なよびかに女しと見れば、あまり情けにひきこめられて、

 とりなせば、あだめく。

 これをはじめの難とすべし。

 

 事が中に、なのめなるまじき人の後見の方は、

 もののあはれ知り過ぐし、はかなきついでの情けあり、

 をかしきに進める方なくてもよかるべしと見えたるに、

 また、まめまめしき筋を立てて耳はさみがちに美さうなき家刀自の、

 ひとへにうちとけたる後見ばかりをして。

 

 悪しきことの、目にも耳にもとまるありさまを、

 疎き人に、わざとうちまねばむやは。

 近くて見む人の

 聞きわき思ひ知るべからむに語朝夕の出で入りにつけても、

 公私の人のたたずまひ、善きりも合はせばやと、

 うちも笑まれ、涙もさしぐみ、

 もしは、あやなきおほやけ腹立たしく、

 心ひとつに思ひあまることなむど多かるを、

 何にかは聞かせむと思へば、うちそむかれて、

 人知れぬ思ひ出で笑ひもせられ、

 『あはれ』とも、うち独りごたるるに、

 『何ごとぞ』など、あはつかにさし仰ぎゐたらむは、

 いかがは口惜しからぬ。

 

 ただひたふるに子めきて柔らかならむ人を、

 とかくひきつくろひてはなどか見ざらむ。

 心もとなくとも、直し所ある心地すべし。

 げに、さし向ひて見むほどは、

 さてもらうたき方に罪ゆるし見るべきを、

 立ち離れてさるべきことをも言ひやり、

 をりふしにし出でむわざのあだ事にもまめ事にも、

 わが心と思ひ得ることなく深きいたりなからむは、

 いと口惜しく頼もしげなき咎や、なほ苦しからむ。

 常はすこしそばそばしく心づきなき人の、

 をりふしにつけて出でばえするやうもありかし」

など、隈なきもの言ひも、定めかねていたくうち嘆く。

 

「あなたらしくないことをおっしゃるものじゃありませんよ」

中将はたしなめるように言った。

左馬頭はなお話し続けた。

「家柄も現在の境遇も一致している高貴な家のお嬢さんが凡庸であった場合、

 どうしてこんな人ができたのかと情けないことだろうと思います。

 そうじゃなくて地位に相応なすぐれたお嬢さんであったら、

 それはたいして驚きませんね。 当然ですもの。

 私らにはよくわからない社会のことですから

 上の品は省くことにしましょう。

 こんなこともあります。

 世間からはそんな家のあることなども無視されているような寂しい家に、

 思いがけない娘が育てられていたとしたら、

 発見者は非常にうれしいでしょう。

 意外であったということは十分に男の心を引く力になります。

 父親がもういいかげん年寄りで、

 醜く肥《ふと》った男で、

 風采《ふうさい》のよくない兄を見ても、

 娘は知れたものだと軽蔑している家庭に、

 思い上がった娘がいて、

 歌も上手であったりなどしたら、

 それは本格的なものではないにしても、

 ずいぶん興味が持てるでしょう。

 完全な女の選にははいりにくいでしょうがね」

と言いながら、

同意を促すように式部丞のほうを見ると、

自身の妹たちが 若い男の中で相当な評判になっていることを思って、

それを暗に言っているのだと取って、

式部丞は何も言わなかった。

そんなに男の心を引く女がいるであろうか、

上の品にはいるものらしい女の中にだって、

そんな女はなかなか少ないものだと 自分にはわかっているがと

源氏は思っているらしい。

 

柔らかい白い着物を重ねた上に、

袴《はかま》は着けずに 直衣《のうし》だけをおおように掛けて、

からだを横にしている源氏は平生よりもまた美しくて 、

女性であったらどんなにきれいな人だろうと思われた。

この人の相手には上の上の品の中から

選んでも飽き足りないことであろうと見えた。

 

「ただ世間の人として見れば無難でも、

 実際自分の妻にしようとすると、

 合格するものは見つからないものですよ。

 男だって官吏になって、

 お役所のお勤めというところまでは  だれもできますが、

 実際適所へ適材が行くということはむずかしいものですからね。

 しかしどんなに聡明な人でも 一人や二人で政治はできないのですから、

 上官は下僚に助けられ、下僚は上に従って、

 多数の力で役所の仕事は済みますが、

 

 一家の主婦にする人を選ぶのには、

 ぜひ備えさせねばならぬ資格がいろいろと幾つも必要なのです。

 これがよくてもそれには適しない。

 少しは譲歩してもまだなかなか思うような人はない。

 世間の多数の男も、 いろいろな女の関係を作るのが趣味ではなくても、

 生涯の妻を捜す心で、できるなら一所懸命になって

 自分で妻の教育のやり直しをしたりなどする必要のない女はないかと

 だれも思うのでしょう。

 

 必ずしも理想に近い女ではなくても、 結ばれた縁に引かれて、

 それと一生を共にする、 そんなのはまじめな男に見え、

 また捨てられない女も世間体がよいことになります。

 しかし世間を見ると、そう都合よくはいっていませんよ。

 お二方のような貴公子にはまして対象になる女があるものですか。

 私などの気楽な階級の者の中にでも、

 これと打ち込んでいいのはありませんからね。

 

 見苦しくもない娘で、それ相応な自重心を持っていて、

 手紙を書く時には 蘆手《あしで》のような簡単な文章を上手に書き、

 墨色のほのかな文字で相手を引きつけて置いて、

 もっと確かな手紙を書かせたいと男をあせらせて、

 声が聞かれる程度に接近して行って話そうとしても、

 息よりも低い声で少ししかものを言わないというようなのが、

 男の正しい判断を誤らせるのですよ。

 なよなよとしていて優し味のある女だと思うと、

 あまりに柔順すぎたりして、

 またそれが才気を見せれば多情でないかと不安になります。

 そんなことは選定の最初の関門ですよ。

 

妻に必要な資格は家庭を預かることですから、

 文学趣味とかおもしろい才気などはなくてもいいようなものですが、

 まじめ一方で、なりふりもかまわないで、

 額髪《ひたいがみ》をうるさがって耳の後ろへはさんでばかりいる、

 ただ物質的な世話だけを一所懸命にやいてくれる、 そんなのではね。

 

 お勤めに出れば出る、帰れば帰るで、役所のこと、

 友人や先輩のことなどで 話したいことがたくさんあるんですから、

 それは他人には言えません。

 理解のある妻に話さないではつまりません。

 この話を早く聞かせたい、妻の意見も聞いて見たい、

 こんなことを思っていると そとででも独笑《ひとりえみ》が出ますし、

 一人で涙ぐまれもします。

 また自分のことでないことに公憤を起こしまして、

 自分の心にだけ置いておくことに我慢のできぬような時、

 けれども自分の妻はこんなことのわかる女でないのだと思うと、

 横を向いて一人で思い出し笑いをしたり、

 かわいそうなものだなどと独言《ひとりごと》を言うようになります。 

 そんな時に何なんですかと 突っ慳貪《けんどん》に言って

 自分の顔を見る細君などはたまらないではありませんか。

 

 ただ一概に子供らしくておとなしい妻を持った男は

 だれでもよく仕込むことに苦心するものです。

 たよりなくは見えても

 次第に養成されていく妻に多少の満足を感じるものです。

 一緒にいる時は 可憐さが不足を補って、

 それでも済むでしょうが、

 家を離れている時に用事を言ってやりましても 何ができましょう。

 遊戯も風流も主婦としてすることも自発的には何もできない、

 教えられただけの芸を見せるにすぎないような女に、

 妻としての信頼を持つことはできません。

 ですからそんなのもまただめです。

 平生はしっくりといかぬ夫婦仲で、

 淡い憎しみも持たれる女で、

 何かの場合によい妻であることが痛感されるのもあります」  

こんなふうな通《つう》な左馬頭にも

決定的なことは言えないと見えて、

深い歎息《ためいき》をした。

 

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