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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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つれない空蝉 小君と添い寝する源氏【源氏物語29 第2帖 箒木18完】「よし、あこだに、な捨てそ」とのたまひて、御かたはらに臥せたまへり。

源氏

「昨日待ち暮らししを。

 なほあひ思ふまじきなめり」

 と怨じたまへば、

 顔うち赤めてゐたり。

源氏

「いづら」

とのたまふに、しかしかと申すに、

源氏

「言ふかひなのことや。

 あさまし」

とて、またも賜へり。

源氏

「あこは知らじな。

  その伊予の翁よりは、先に見し人ぞ。

  されど、

  頼もしげなく頚細しとて、

  ふつつかなる後見まうけて、

  かく侮りたまふなめり。

  さりとも、あこはわが子にてをあれよ。

  この頼もし人は、行く先短かりなむ」

とのたまへば、

「さもやありけむ、いみじかりけることかな」

と思へる、

「をかし」と思す。

 

この子をまつはしたまひて、

内裏にも率て参りなどしたまふ。

わが御匣殿にのたまひて、

装束などもせさせ、

まことに親めきてあつかひたまふ。

 

御文は常にあり。

されど、この子もいと幼し、

心よりほかに散りもせば、

軽々しき名さへとり添へむ、

身のおぼえをいとつきなかるべく思へば、

めでたきこともわが身からこそと思ひて、

うちとけたる御答へも聞こえず。

ほのかなりし御けはひありさまは、

「げに、なべてにやは」と、

思ひ出できこえぬにはあらねど、

「をかしきさまを見えたてまつりても、何にかはなるべき」

など、思ひ返すなりけり。

 

君は思しおこたる時の間もなく、

心苦しくも恋しくも思し出づ。

思へりし気色などのいとほしさも、

晴るけむ方なく思しわたる。

軽々しく這ひ紛れ立ち寄りたまはむも、

人目しげからむ所に、

便なき振る舞ひやあらはれむと、

人のためもいとほしく、

と思しわづらふ。

 

例の、内裏に日数経たまふころ、

さるべき方の忌み待ち出でたまふ。

にはかにまかでたまふまねして、

道のほどよりおはしましたり。

 

紀伊おどろきて、遣水の面目とかしこまり喜ぶ。

小君には、昼より、

「かくなむ思ひよれる」

とのたまひ契れり。

明け暮れまつはし馴らしたまひければ、

今宵もまづ召し出でたり。

 

女も、さる御消息ありけるに、

思したばかりつらむほどは、

浅くしも思ひなされねど、

さりとて、うちとけ、

人げなきありさまを見えたてまつりても、

あぢきなく、

夢のやうにて過ぎにし嘆きを、またや加へむ、

と思ひ乱れて、

なほさて待ちつけきこえさせむことのまばゆければ、

小君が出でて往ぬるほどに、

空蝉

「いとけ近ければ、かたはらいたし。

 なやましければ、

   忍びてうち叩かせなどせむに、ほど離れてを」

とて、

渡殿に、中将といひしが局したる隠れに、移ろひぬ。

 

さる心して、人とく静めて、

御消息あれど、小君は尋ねあはず。

よろづの所求め歩きて、渡殿に分け入りて、

からうしてたどり来たり。

いとあさましくつらし、

と思ひて、

小君

「いかにかひなしと思さむ」

と、泣きぬばかり言へば、

空蝉

「かく、けしからぬ心ばへは、つかふものか。

 幼き人のかかること言ひ伝ふるは、

   いみじく忌むなるものを」

と言ひおどして、

『心地悩ましければ、人びと避けずおさへさせてなむ』

   と聞こえさせよ。

 あやしと誰も誰も見るらむ」

 

と言ひ放ちて、心の中には、

「いと、かく品定まりぬる身のおぼえならで、

  過ぎにし親の御けはひとまれるふるさとながら、

  たまさかにも待ちつけたてまつらば、

  をかしうもやあらまし。

  しひて思ひ知らぬ顔に見消つも、

 いかにほど知らぬやうに思すらむ」

と、心ながらも、胸いたく、

さすがに思ひ乱る。

「とてもかくても、

   今は言ふかひなき宿世なりければ、

   無心に心づきなくて止みなむ」

と思ひ果てたり。

 

君は、いかにたばかりなさむと、

まだ幼きを、うしろめたく待ち臥したまへるに、

不用なるよしを聞こゆれば、

あさましくめづらかなりける心のほどを、

「身もいと恥づかしくこそなりぬれ」

と、いといとほしき御気色なり。

とばかりものものたまはず、

いたくうめきて、憂しと思したり。

源氏

「帚木の 心を知らで 園原の

 道にあやなく 惑ひぬるかな

   聞こえむ方こそなけれ」

とのたまへり。

女も、さすがに、まどろまざりければ、

空蝉

「数ならぬ 伏屋に生ふる 名の憂さに

 あるにもあらず 消ゆる帚木」

と聞こえたり。

 

小君、

いといとほしさに眠たくもあらでまどひ歩くを、

人あやしと見るらむ、とわびたまふ。

 

例の、人びとはいぎたなきに、

一所すずろにすさまじく思し続けらるれど、

人に似ぬ心ざまの、なほ消えず立ち上れりける、

とねたく、かかるにつけてこそ、

心もとまれと、かつは思しながら、

めざましくつらければ、

「さばれ」

と思せども、さも思し果つまじく、

源氏

「隠れたらむ所に、なほ率て行け」

とのたまへど、

小君

「いとむつかしげにさし籠められて、

   人あまたはべるめれば、かしこげに」

と聞こゆ。

いとほしと思へり。

源氏

「よし、あこだに、な捨てそ」

とのたまひて、

御かたはらに臥せたまへり。

若くなつかしき御ありさまを、

うれしくめでたしと思ひたれば、

つれなき人よりは、

なかなかあはれに思さるとぞ。

 

「昨日《きのう》も一日おまえを待っていたのに出て来なかったね。

 私だけがおまえを愛していても、おまえは私に冷淡なんだね」  

恨みを言われて、小君は顔を赤くしていた。

「返事はどこ」

小君はありのままに告げるほかに術《すべ》はなかった。

「おまえは姉さんに無力なんだね、返事をくれないなんて」

そう言ったあとで、また源氏から新しい手紙が小君に渡された。

 

「おまえは知らないだろうね、

 伊予の老人よりも私はさきに姉さんの恋人だったのだ。

 頸《くび》の細い貧弱な男だからといって、

 姉さんはあの不恰好な老人を 夫に持って、

 今だって知らないなどと言って 私を軽蔑しているのだ。

 けれどもおまえは私の子になっておれ。

 姉さんがたよりにしている人はさきが短いよ」

と源氏がでたらめを言うと、

小君はそんなこともあったのか、

済まないことをする姉さんだと思う様子をかわいく源氏は思った。

 

小君は始終源氏のそばに置かれて、

御所へもいっしょに連れられて行ったりした。

源氏は自家の衣裳係に命じて、

小君の衣服を新調させたりして、

言葉どおり親代わりらしく世話をしていた。

 

女は始終源氏から手紙をもらった。

けれども弟は子供であって、

不用意に自分の書いた手紙を落とすようなことをしたら、

もとから不運な自分が

また正しくもない恋の名を取って泣かねばならないことになるのは

あまりに自分がみじめであるという考えが根底になっていて、

恋を得るということも、

こちらにその人の対象になれる自信のある場合にだけあることで、

自分などは光源氏の相手になれる者ではないと思う心から

返事をしないのであった。

ほのかに見た美しい源氏を思い出さないわけではなかったのである。

真実の感情を源氏に知らせても さて何にもなるものでないと、

苦しい反省をみずから強いている女であった。

 

源氏はしばらくの間もその人が忘られなかった。

気の毒にも思い恋しくも思った。

女が自分とした過失に苦しんでいる様子が目から消えない。

本能のおもむくままに忍んであいに行くことも、

人目の多い家であるからそのことが知れては困ることになる、

自分のためにも、

女のためにもと思っては煩悶《はんもん》をしていた。

 

例のようにまたずっと御所にいた頃、

源氏は方角の障《さわ》りになる日を選んで、

御所から来る途中でにわかに気がついたふうをして

紀伊守の家へ来た。

 

紀伊守は驚きながら、

前栽《せんざい》の水の名誉でございます」

こんな挨拶《あいさつ》をしていた。

小君《こぎみ》の所へは

昼のうちからこんな手はずにすると源氏は言ってやってあって、

約束ができていたのである。

始終そばへ置いている小君であったから、

源氏はさっそく呼び出した。

 

女のほうへも手紙は行っていた。

自身に逢おうとして払われる苦心は

女の身にうれしいことではあったが、

そうかといって、源氏の言うままになって、

自己が何であるかを知らないように

恋人として逢う気にはならないのである。

夢であったと思うこともできる過失を、

また繰り返すことになってはならぬとも思った。

妄想で 源氏の恋人気どりになって待っていることは

自分にできないと女は決めて、

小君が源氏の座敷のほうへ出て行くとすぐに、

「あまりお客様の座敷に近いから失礼な気がする。

 私は少しからだが苦しくて、腰でもたたいてほしいのだから、

 遠い所のほうが都合がよい」

と言って、

渡殿《わたどの》に持っている中将という女房の部屋へ 移って行った。

 

初めから計画的に来た源氏であるから、

家従たちを早く寝させて、

女へ都合を聞かせに小君をやった。

小君に姉の居所がわからなかった。

やっと渡殿の部屋を捜しあてて来て、

源氏への冷酷な姉の態度を恨んだ。

「こんなことをして、姉さん。

 どんなに私が無力な子供だと思われるでしょう」

もう泣き出しそうになっている。

「なぜおまえは子供のくせによくない役なんかするの、

 子供がそんなことを頼まれてするのはとてもいけないことなのだよ」

としかって、

「気分が悪くて、

 女房たちをそばへ呼んで

    介抱をしてもらっていますって申せばいいだろう。

 皆が怪しがりますよ、

   こんな所へまで来てそんなことを言っていて」

取りつくしまもないように姉は言うのであったが、

心の中では、

こんなふうに運命が決まらないころ、

父が生きていたころの自分の家へ、

たまさかでも源氏を迎えることができたら

自分は幸福だったであろう。

しいて作るこの冷淡さを、

源氏はどんなにわが身知らずの女だと

お思いになることだろうと思って、

自身の意志でしていることであるが

胸が痛いようにさすがに思われた。

どうしてもこうしても

人妻という束縛は解かれないのであるから、

どこまでも冷ややかな態度を押し通して変えまいという気に

女はなっていた。

 

源氏はどんなふうに計らってくるだろうと、

頼みにする者が少年であることを

気がかりに思いながら寝ているところへ、

だめであるという報せを小君が持って来た。

女のあさましいほどの冷淡さを知って源氏は言った。

「私はもう自分が恥ずかしくってならなくなった」

気の毒なふうであった。

それきりしばらくは何も言わない。

そして苦しそうに吐息《といき》をしてからまた女を恨んだ。

『帚木《ははきぎ》の心を知らで その原の

 道にあやなく まどひぬるかな』

今夜のこの心持ちはどう言っていいかわからない、

と小君に言ってやった。

女もさすがに眠れないで悶《もだ》えていたのである。

それで、

『数ならぬ 伏屋《ふせや》におふる 身のうさに

 あるにもあらず 消ゆる帚木』

という歌を弟に言わせた。

小君は源氏に同情して、

眠がらずに行ったり来たりしているのを、

女は人が怪しまないかと気にしていた。

 

いつものように酔った従者たちはよく眠っていたが、

源氏一人はあさましくて寝入れない。

普通の女と変わった意志の強さの

ますます明確になってくる相手が恨めしくて、

もうどうでもよいとちょっとの間は思うが

すぐにまた恋しさがかえってくる。

「どうだろう、隠れている場所へ私をつれて行ってくれないか」

「なかなか開《あ》きそうにもなく戸じまりがされていますし、

 女房もたくさんおります。

 そんな所へ。もったいないことだと思います」

と小君が言った。

源氏が気の毒でたまらないと小君は思っていた。

「じゃあもういい。おまえだけでも私を愛してくれ」

と言って、源氏は小君をそばに寝させた。

若い美しい源氏の君の横に寝ていることが

子供心に非常にうれしいらしいので、

この少年のほうが無情な恋人よりもかわいいと源氏は思った。

〜箒木 ははきぎ  完 〜

 

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