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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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紀伊守の屋敷に忍び込む【源氏物語 30 第3帖 空蝉1】さて向かひゐたらむを見ばや、と思ひて、やをら歩み出でて、簾のはさまに入りたまひぬ。

寝られたまはぬままには、

源氏

「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、

 今宵なむ、

 初めて憂しと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくて、

 ながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」

などのたまへば、

涙をさへこぼして臥したり。

 

いとらうたしと思す。

手さぐりの、細く小さきほど、

髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも、

思ひなしにやあはれなり。

あながちにかかづらひたどり寄らむも、

人悪ろかるべく、

まめやかにめざましと思し明かしつつ、

例のやうにものたまひまつはさず。

夜深う出でたまへば、

この子は、いといとほしく、

さうざうしと思ふ。

 

女も、並々ならずかたはらいたしと思ふに、

御消息も絶えてなし。

思し懲りにけると思ふにも、

「やがてつれなくて止みたまひなましかば憂からまし。

 しひていとほしき御振る舞ひの絶えざらむもうたてあるべし。

 よきほどに、かくて閉ぢめてむ」

と思ふものから、ただならず、ながめがちなり。

 

君は、心づきなしと思しながら、

かくてはえ止むまじう御心にかかり、

人悪ろく思ほしわびて、

小君に、

源氏

「いとつらうも、うれたうもおぼゆるに、

 しひて思ひ返せど、心にしも従はず苦しきを。

 さりぬべきをり見て、対面すべくたばかれ」

とのたまひわたれば、

わづらはしけれど、かかる方にても、

のたまひまつはすは、うれしうおぼえけり

 

幼き心地に、

いかならむ折と待ちわたるに、

紀伊守国に下りなどして、

女どちのどやかなる夕闇の道たどたどしげなる紛れに、

わが車にて率てたてまつる。

 

この子も幼きを、いかならむと思せど、

さのみもえ思しのどむまじければ、

さりげなき姿にて、

門など鎖さぬ先にと、急ぎおはす。

人見ぬ方より引き入れて、

降ろしたてまつる。

童なれば、

宿直人などもことに見入れ追従せず、心やすし。

 

東の妻戸に、立てたてまつりて、

我は南の隅の間より、

格子叩きののしりて入りぬ。

御達、

「あらはなり」

と言ふなり。

小君

「なぞ、かう暑きに、この格子は下ろされたる」

と問へば、

女房

「昼より、西の御方の渡らせたまひて、碁打たせたまふ」

と言ふ。

 

さて向かひゐたらむを見ばや、

と思ひて、やをら歩み出でて、

簾のはさまに入りたまひぬ。

この入りつる格子はまだ鎖さねば、

隙見ゆるに、寄りて西ざまに見通したまへば、

この際に立てたる屏風、端の方おし畳まれたるに、

紛るべき几帳なども、

暑ければにや、うち掛けて、いとよく見入れらる。

火近う灯したり。

母屋の中柱に側める人やわが心かくると、

まづ目とどめたまへば、濃き綾の単衣襲なめり。

 

眠れない源氏は、

「私はこんなにまで人から冷淡にされたことは

 これまでないのだから、

 今晩はじめて人生は悲しいものだと教えられた。

 恥ずかしくて生きていられない気がする」

などと言うのを、

小君《こぎみ》は聞いて涙さえもこぼしていた。

 

非常にかわいく源氏は思った。

思いなしか手あたりの小柄なからだ、

そう長くは感じなかったあの人の髪も

これに似ているように思われてなつかしい気がした。

この上しいて女を動かそうとすることも

見苦しいことに思われたし、

また真から恨めしくもなっている心から、

それきり言《こと》づてをすることもやめて、

翌朝早く帰って行ったのを、

小君は気の毒な物足りないことに思った。

 

女も非常にすまないと思っていたが、

それからはもう手紙も来なかった。

お憤《おこ》りになったのだと思うとともに、

このまま自分が忘れられてしまうのは悲しいという気がした。

それかといって

無理な道をしいて

あの方が通ろうとなさることの続くのはいやである。

それを思うとこれで結末になってもよいのであると思って、

理性では是認しながら物思いをしていた。

 

源氏は、ひどい人であると思いながら、

このまま成り行きにまかせておくことはできないような焦慮を覚えた。

「あんな無情な恨めしい人はないと私は思って、

 忘れようとしても自分の心が自分の思うようにならないから

 苦しんでいるのだよ。

 もう一度 逢《あ》えるようないい機会をおまえが作ってくれ」

こんなことを始終小君は言われていた。

困りながらこんなことででも

自分を源氏が必要な人物にしてくれるのがうれしかった。

 

子供心に機会をねらっていたが、

そのうちに紀伊《きいのかみ》が任地へ立ったりして、

残っているのは女の家族だけになったころのある日、

夕方の物の見分けの紛《まぎ》れやすい時間に、

自身の車に源氏を同乗させて家へ来た。

なんといっても案内者は子供なのであるからと

源氏は不安な気はしたが、

慎重になどしてかかれることでもなかった。

目だたぬ服装をして

紀伊守家の門のしめられないうちにと急いだのである。

少年のことであるから

家の侍などが追従して出迎えたりはしないのでまずよかった。

 

東側の妻戸《つまど》の外に源氏を立たせて、

小君自身は縁を一回りしてから、

南の隅《すみ》の座敷の外から元気よくたたいて

戸を上げさせて中へはいった。

女房が、

「そんなにしては人がお座敷を見ます」

 と小言《こごと》を言っている。

「どうしたの、

 こんなに今日は暑いのに早く格子《こうし》をおろしたの」

 

「お昼から西の対《たい》

 寝殿《しんでん》の左右にある対の屋の一つ

 のお嬢様が来ていらっしって碁を打っていらっしゃるのです」

と女房は言った。

 

源氏は恋人とその継娘《ままむすめ》が

碁盤を中にして対《むか》い合っているのをのぞいて見ようと思って

開いた口からはいって、妻戸と御簾《みす》の間へ立った。

小君の上げさせた格子がまだそのままになっていて、

外から夕明かりがさしているから、

西向きにずっと向こうの座敷までが見えた。

こちらの室の御簾のそばに立てた屏風《びょうぶ》も

端のほうが都合よく畳まれているのである。

普通ならば目ざわりになるはずの几帳《きちょう》なども

今日の暑さのせいで垂れは上げて棹《さお》にかけられている。

 

灯《ひ》が人の座に近く置かれていた。

中央の室の中柱に寄り添ってすわったのが恋しい人であろうかと、

まずそれに目が行った。

第3帖 空蝉(うつせみ)ぜひ、ご覧ください🌷

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