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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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碁を打つ空蝉と軒端荻‥覗き見る源氏【源氏物語 31 第3帖 空蝉 2】何にかあらむ上に着て、頭つき細やかに小さき人の、ものげなき姿ぞしたる。

 母屋の中柱に側める人やわが心かくると、

 まづ目とどめたまへば、濃き綾の単衣襲なめり。

 何にかあらむ上に着て、頭つき細やかに小さき人の、

 ものげなき姿ぞしたる。

 顔などは、差し向かひたらむ人などにも、

 わざと見ゆまじうもてなしたり。

 手つき痩せ痩せにて、いたうひき隠しためり。

 

 いま一人は、東向きにて、残るところなく見ゆ。

 白き羅の単衣襲、二藍の小袿だつもの、

 ないがしろに着なして、

 紅の腰ひき結へる際まで胸あらはに、

 ばうぞくなるもてなしなり。

 いと白うをかしげに、つぶつぶと肥えて、

 そぞろかなる人の、頭つき額つきものあざやかに、

 まみ口つき、いと愛敬づき、

 はなやかなる容貌なり。

 髪はいとふさやかにて、長くはあらねど、

 下り端、肩のほどきよげに、

 すべていとねぢけたるところなく、

 をかしげなる人と見えたり。

 

 道理で親がこの上なくかわいがることだろうと、

 興味をもって御覧になる。

 心づかいに、

 もう少し落ち着いた感じを加えたいものだと、

 ふと思われる。

 才覚がないわけではないらしい。

 碁を打ち終えて、だめを押すあたりは、

 機敏に見えて、陽気に騷ぎ立てると、

 奥の人は、とても静かに落ち着いて、

空蝉

「待ちたまへや。

 そこは持にこそあらめ。

 このわたりの劫をこそ」

 など言へど、

軒端荻

「いで、このたびは負けにけり。

 隅のところ、いでいで」

 と指をかがめて、

「十、二十、三十、四十」

 など数ふるさま、

 伊予の湯桁もたどたどしかるまじう見ゆ。

 すこし品おくれたり。

 

 たとしへなく口おほひて、さやかにも見せねど、

 目をしつけたまへれば、おのづから側目も見ゆ。

 目すこし腫れたる心地して、

 鼻などもあざやかなるところなうねびれて、

 にほはしきところも見えず。

 言ひ立つれば、

 悪ろきによれる容貌をいといたうもてつけて、

 このまされる人よりは心あらむと、

 目とどめつべきさましたり。

 

 にぎははしう愛敬づきをかしげなるを、

 いよいよほこりかにうちとけて、

 笑ひなどそぼるれば、

 にほひ多く見えて、

 さる方にいとをかしき人ざまなり。

 あはつけしとは思しながら、

 まめならぬ御心は、

 これもえ思し放つまじかりけり。

 

 見たまふかぎりの人は、うちとけたる世なく、

 ひきつくろひ側めたるうはべをのみこそ見たまへ、

 かくうちとけたる人のありさまかいま見などは、

 まだしたまはざりつることなれば、

 何心もなうさやかなるはいとほしながら、

 久しう見たまは まほしきに、

 小君出で来る心地すれば、

 やをら出でたまひぬ。

 渡殿の戸口に寄りゐたまへり。

 いとかたじけなしと思ひて、

小君

「例ならぬ人はべりて、え近うも寄りはべらず」

源氏

「さて、今宵もや帰してむとする。

 いとあさましう、からうこそあべけれ」

 とのたまへば

小君

「などてか。

 あなたに帰りはべりなば、たばかりはべりなむ」

 と聞こゆ。

源氏

「さもなびかしつべき気色にこそはあらめ。

 童なれど、ものの心ばへ、

 人の気色見つべくしづまれるを」

 と、思すなりけり。

 

 碁打ち果てつるにやあらむ、

 うちそよめく心地して、

 人びとあかるるけはひなどすなり。

女房

「若君はいづくにおはしますならむ。

 この御格子は鎖してむ」

 とて、鳴らすなり。

 

紫の濃い綾《あや》の単衣襲《ひとえがさね》の上に

何かの上着をかけて、

頭の恰好のほっそりとした小柄な女である。

顔などは正面にすわった人からも

全部が見られないように注意をしているふうだった。

痩せっぽちの手はほんの少しより袖から出ていない。

 

もう一人は顔を東向きにしていたからすっかり見えた。

白い薄衣《うすもの》の単衣襲に

淡藍《うすあい》色の小袿《こうちぎ》らしいものを引きかけて、

紅い袴の紐の結び目の所までも 着物の襟がはだけて胸が出ていた。

きわめて行儀のよくないふうである。

色が白くて、よく肥えていて頭の形と、

髪のかかった額つきが美しい。

目つきと口もとに愛嬌があって 派手な顔である。

髪は多くて、長くはないが、

二つに分けて顔から肩へかかったあたりがきれいで、

全体が朗らかな美人と見えた。

 

源氏は、だから親が自慢にしているのだと興味がそそられた。

静かな性質を少し添えてやりたいとちょっとそんな気がした。

才走ったところはあるらしい。

碁が終わって駄目石《だめいし》を入れる時など、

いかにも利巧《りこう》に見えて、

そして蓮葉《はすっぱ》に騒ぐのである。

奥のほうの人は静かにそれをおさえるようにして、

「まあお待ちなさい。

 そこは両方ともいっしょの数でしょう。

 それからここにもあなたのほうの目がありますよ」

などと言うが、

「いいえ、今度は負けましたよ。

 そうそう、この隅の所を勘定しなくては」

指を折って、十、二十、三十、四十と数えるのを見ていると、

無数だという伊予の温泉の湯桁《ゆげた》の数も

この人にはすぐわかるだろうと思われる。

少し下品である。

 

袖で十二分に口のあたりを掩《おお》うて

隙見男《すきみおとこ》に顔をよく見せないが、

その今一人に目をじっとつけていると次第によくわかってきた。

少し腫《は》れぼったい目のようで、

鼻などもよく筋が通っているとは見えない。

はなやかなところはどこもなくて、

一つずついえば醜いほうの顔であるが、

姿態がいかにもよくて、

美しい今一人よりも人の注意を多く引く価値があった。

 

派手な愛嬌のある顔を

性格からあふれる誇りに輝かせて笑うほうの女は、

普通の見方をもってすれば確かに美人である。

軽佻《けいちょう》だと思いながらも

若い源氏はそれにも関心が持てた。

 

源氏のこれまで知っていたのは、 皆正しく行儀よく、

つつましく装った女性だけであった。

こうしただらしなくしている女の姿を隙見したりしたことは

はじめての経験であったから、

隙見男のいることを知らない女はかわいそうでも、

もう少し立っていたく思った時に、

小君が縁側へ出て来そうになったので

静かにそこを退《の》いた。

そして妻戸の向かいになった渡殿《わたどの》の

入り口のほうに立っていると小君が来た。

済まないような表情をしている。

 

「平生いない人が来ていまして、姉のそばへ行かれないのです」

「そして今晩のうちに帰すのだろうか。逢えなくてはつまらない」

「そんなことはないでしょう。

 あの人が行ってしまいましたら私がよくいたします」

と言った。

さも成功の自信があるようなことを言う、

子供だけれど目はしがよく利くのだから

よくいくかもしれないと

源氏は思っていた。

 

碁の勝負がいよいよ終わったのか、

人が分かれ分かれに立って行くような音がした。

「若様はどこにいらっしゃいますか。

 このお格子はしめてしまいますよ」

と言って格子をことことと中から鳴らした。

 

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