2023-11-13から1日間の記事一覧
「幼き人惑はしたりと、 中将の愁へしは、さる人や」 と問ひたまふ。 「しか。一昨年の春ぞ、 ものしたまへりし。女にて、 いとらうたげになむ」 と語る。 「さて、いづこにぞ。人にさとは知らせで、 我に得させよ。 あとはかなく、いみじと思ふ御形見に、 …
大殿も経営したまひて、 大臣、日々に渡りたまひつつ、 さまざまのことをせさせたまふ、 しるしにや、二十余日、 いと重くわづらひたまひつれど、 ことなる名残のこらず、 おこたるさまに見えたまふ。 穢らひ忌みたまひしも、 一つに満ちぬる夜なれば、 おぼ…
惟光、 「夜は、明け方になりはべりぬらむ。 はや帰らせたまひなむ」 と聞こゆれば、返りみのみせられて、 胸もつと塞がりて出でたまふ。 道いと露けきに、いとどしき朝霧に、 いづこともなく惑ふ心地したまふ。 ありしながらうち臥したりつるさま、 うち交…
「便なしと思ふべけれど、 今一度、かの亡骸を見ざらむが、 いといぶせかるべきを、馬にてものせむ」 とのたまふを、いとたいだいしきこととは思へど、 「さ思されむは、いかがせむ。 はや、おはしまして、 夜更けぬ先に帰らせおはしませ」 と申せば、 この…
「かく、こまかにはあらで、 ただ、おぼえぬ穢らひに触れたるよしを、 奏したまへ。 いとこそたいだいしくはべれ」 と、つれなくのたまへど、 心のうちには、 言ふかひなく悲しきことを思すに、 御心地も悩ましければ、 人に目も見合せたまはず。 蔵人弁を召…
この人をえ抱きたまふまじければ、 上蓆におしくくみて、 惟光乗せたてまつる。 いとささやかにて、疎ましげもなく、 らうたげなり。 したたかにしもえせねば、 髪はこぼれ出でたるも、 目くれ惑ひて、あさましう悲し、 と思せば、 なり果てむさまを見むと思…
火はほのかにまたたきて、 母屋の際に立てたる屏風の上、 ここかしこの隈々しくおぼえたまふに、 物の足音、 ひしひしと踏み鳴らしつつ、 後ろより寄り来る心地す。 「惟光、とく参らなむ」 と思す。 ありか定めぬ者にて、 ここかしこ尋ねけるほどに、 夜の…