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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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夕顔の亡骸に最後の別れを望む源氏【源氏物語 50 第4帖 夕顔16 】冷たくなっても美しく可憐な夕顔に慟哭する。右近は二条院に仕える

「便なしと思ふべけれど、

 今一度、かの亡骸を見ざらむが、

 いといぶせかるべきを、馬にてものせむ」

とのたまふを、いとたいだいしきこととは思へど、

「さ思されむは、いかがせむ。

 はや、おはしまして、

 夜更けぬ先に帰らせおはしませ」

と申せば、

このごろの御やつれにまうけたまへる、

狩の御装束着替へなどして出でたまふ。

 

御心地かきくらし、

いみじく堪へがたければ、

かくあやしき道に出で立ちても、

危かりし物懲りに、

いかにせむと思しわづらへど、

なほ悲しさのやる方なく、

「ただ今の骸を見では、

 またいつの世にかありし容貌をも見む」

と、思し念じて、

例の大夫、

随身を具して出でたまふ。

道遠くおぼゆ。

十七日の月さし出でて、

河原のほど、

御前駆の火もほのかなるに、

鳥辺野の方など見やりたるほどなど、

ものむつかしきも、

何ともおぼえたまはず、

かき乱る心地したまひて、

おはし着きぬ。

 

辺りさへすごきに、

板屋のかたはらに堂建てて行へる尼の住まひ、

いとあはれなり。

御燈明の影、ほのかに透きて見ゆ。

その屋には、女一人泣く声のみして、

外の方に、法師ばら二、三人物語しつつ、

わざとの声立てぬ念仏ぞする。

 

寺々の初夜も、

みな行ひ果てて、いとしめやかなり。

清水の方ぞ、光多く見え、

人のけはひもしげかりける。

 

この尼君の子なる大徳の声尊くて、

経うち読みたるに、

涙の残りなく思さる。

入りたまへれば、

火取り背けて、

右近は屏風隔てて臥したり。

いかにわびしからむと、

見たまふ。

 

恐ろしきけもおぼえず、

いとらうたげなるさまして、

まだいささか変りたるところなし。

手をとらへて、

「我に、今一度、声をだに聞かせたまへ。

いかなる昔の契りにかありけむ、

しばしのほどに、

心を尽くしてあはれに思ほえしを、

うち捨てて、

惑はしたまふが、

いみじきこと」

と、声も惜しまず、

泣きたまふこと、限りなし。

大徳たちも、誰とは知らぬに、

あやしと思ひて、

皆、涙落としけり。

 

右近を、

「いざ、二条へ」

とのたまへど、

「年ごろ、幼くはべりしより、

 片時たち離れたてまつらず、

 馴れきこえつる人に、

 にはかに別れたてまつりて、

 いづこにか帰りはべらむ。

 いかになりたまひにきとか、

 人にも言ひはべらむ。

 悲しきことをばさるものにて、

 人に言ひ騒がれはべらむが、

 いみじきこと」

と言ひて、泣き惑ひて、

「煙にたぐひて、慕ひ参りなむ」

と言ふ。

「道理なれど、さなむ世の中はある。

 別れと言ふもの、悲しからぬはなし。

 とあるもかかるも、

 同じ命の限りあるものになむある。

 思ひ慰めて、我を頼め」

と、のたまひこしらへて、

「かく言ふ我が身こそは、

 生きとまるまじき心地すれ」

とのたまふも、頼もしげなしや。

 

「よくないことだとおまえは思うだろうが、

  私はもう一度 遺骸を見たいのだ。

  それをしないではいつまでも憂鬱が続くように思われるから、

  馬ででも行こうと思うが」

主人の望みを、

とんでもない軽率なことであると思いながらも

惟光は止めることができなかった。

「そんなに思召《おぼしめ》すのならしかたがございません。

 では早くいらっしゃいまして、

 夜の更《ふ》けぬうちにお帰りなさいませ」

と惟光は言った。

五条通いの変装のために作らせた狩衣に

着更《きが》えなどして

源氏は出かけたのである。

 

病苦が朝よりも加わったこともわかっていて源氏は、

軽はずみにそうした所へ出かけて、

そこでまたどんな危険が命をおびやかすかもしれない、

やめたほうがいいのではないかとも思ったが、

やはり死んだ夕顔に引かれる心が強くて、

この世での顔を遺骸で見ておかなければ

今後の世界で

それは見られないのであるという思いが 心細さをおさえて、

例の惟光と随身を従えて出た。

非常に路《みち》のはかがゆかぬ気がした。

 

十七日の月が出てきて、

加茂川の河原を通るころ、

前駆の者の持つ松明《たいまつ》の淡い明りに

鳥辺野《とりべの》のほうが見えるという

こんな不気味な景色にも

源氏の恐怖心はもう麻痺《まひ》してしまっていた。

ただ悲しみに胸が掻《か》き乱されたふうで目的地に着いた。

 

凄《すご》い気のする所である。

そんな所に住居の板屋があって、

横に御堂《みどう》が続いているのである。

仏前の燈明の影がほのかに戸からすいて見えた。

部屋の中には一人の女の泣き声がして、

その室の外と思われる所では、

僧の二、三人が話しながら声を多く立てぬ念仏をしていた。

 

近くにある東山の寺々の

初夜の勤行《ごんぎょう》も 終わったころで静かだった。

清水《きよみず》の方角にだけ灯《ひ》がたくさんに見えて

多くの参詣人の気配も聞かれるのである。

 

主人の尼の息子の僧が尊い声で経を読むのが聞こえてきた時に、

源氏はからだじゅうの涙がことごとく流れて出る気もした。

中へはいって見ると、

灯をあちら向きに置いて、

遺骸との間に立てた屏風《びょうぶ》のこちらに

右近《うこん》は横になっていた。

どんなに侘《わび》しい気のすることだろうと源氏は同情して見た。

 

遺骸はまだ恐ろしいという気のしない物であった。

美しい顔をしていて、

まだ生きていた時の可憐さと少しも変わっていなかった。

「私にもう一度、せめて声だけでも聞かせてください。

 どんな前生の縁だったかわずかな間の関係であったが、

 私はあなたに傾倒した。

 それだのに私をこの世に捨てて置いて、

 こんな悲しい目をあなたは見せる」

もう泣き声も惜しまずはばからぬ源氏だった。

僧たちもだれとはわからぬながら、

死者に断ちがたい愛着を持つらしい男の出現を見て、

皆涙をこぼした。

 

源氏は右近に、

「あなたは二条の院へ来なければならない」

と言ったのであるが、

「長い間、それは小さい時から片時もお離れしませんで

 お世話になりました御主人ににわかにお別れいたしまして、

 私は生きて帰ろうと思う所がございません。

 奥様がどうおなりになったかということを、

 どうほかの人に話ができましょう。

 奥様をお亡くししましたほかに、

 私はまた皆にどう言われるかということも悲しゅうございます」

こう言って右近は泣きやまない。

「私も奥様の煙といっしょにあの世へ参りとうございます」

「もっともだがしかし、

 人世とはこんなものだ。

 別れというものに悲しくないものはないのだ。

 どんなことがあっても寿命のある間には死ねないのだよ。

 気を静めて私を信頼してくれ」

と言う源氏が、また、

「しかしそういう私も、

 この悲しみでどうなってしまうかわからない」

と言うのであるから心細い。

 

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