google.com, pub-8944455872984568, DIRECT, f08c47fec0942fa0

源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

少納言チャンネル🌷は、古典や漢文、文学の朗読を動画にしています。 🌼 音読で脳トレ&リラックスしましょ🍀

弱りきった源氏を支える惟光【源氏物語 49 第4帖 夕顔15】心身ともに弱りきった源氏。葬儀や、源氏の名誉を守るために抜かりなく動く惟光。右近も悲しみに沈む

「かく、こまかにはあらで、

 ただ、おぼえぬ穢らひに触れたるよしを、

 奏したまへ。

 いとこそたいだいしくはべれ」

と、つれなくのたまへど、

心のうちには、

言ふかひなく悲しきことを思すに、

御心地も悩ましければ、

人に目も見合せたまはず。

蔵人弁を召し寄せて、

まめやかにかかるよしを奏せさせたまふ。

 

大殿などにも、

かかることありて、

え参らぬ御消息など聞こえたまふ。

日暮れて、惟光参れり。

かかる穢らひありとのたまひて、

参る人びとも、

皆立ちながらまかづれば、

人しげからず。

 

召し寄せて、

「いかにぞ。今はと見果てつや」

とのたまふままに、

袖を御顔に押しあてて泣きたまふ。

惟光も泣く泣く、

 

「今は限りにこそはものしたまふめれ。

 長々と籠もりはべらむも便なきを、

 明日なむ、日よろしくはべれば、

 とかくの事、

 いと尊き老僧の、あひ知りてはべるに、

 言ひ語らひつけはべりぬる」

と聞こゆ。

 

「添ひたりつる女はいかに」

とのたまへば、

「それなむ、また、

 え生くまじくはべるめる。

 我も後れじと惑ひはべりて、

 今朝は谷に落ち入りぬとなむ見たまへつる。

『かの故里人に告げやらむ』と申せど、

『しばし、思ひしづめよ、と。

 ことのさま思ひめぐらして』となむ、

 こしらへおきはべりつる」

と、語りきこゆるままに、

いといみじと思して、

「我も、いと心地悩ましく、

 いかなるべきにかとなむおぼゆる」

とのたまふ。

 

「何か、さらに思ほしものせさせたまふ。

 さるべきにこそ、よろづのことはべらめ。

 人にも漏らさじと思うたまふれば、

 惟光おり立ちて、よろづはものしはべる」

など申す。

 

「さかし。

 さ皆思ひなせど、

 浮かびたる心のすさびに、

 人をいたづらになしつるかごと負ひぬべきが、

 いとからきなり。

 少将の命婦などにも聞かすな。

 尼君ましてかやうのことなど、

 諌めらるるを、

 心恥づかしくなむおぼゆべき」

と、口かためたまふ。

「さらぬ法師ばらなどにも、

 皆、言ひなすさま異にはべる」

と聞こゆるにぞ、かかりたまへる。

 

ほの聞く女房など、

「あやしく、何ごとならむ、

穢らひのよしのたまひて、

内裏にも参りたまはず、

また、かくささめき嘆きたまふ」

と、ほのぼのあやしがる。

 

「さらに事なくしなせ」

と、そのほどの作法のたまへど、

「何か、ことことしくすべきにもはべらず」

とて立つが、

いと悲しく思さるれば‥

 

「今お話ししたようにこまかにではなく、

 ただ思いがけぬ穢れにあいましたと申し上げてください。

 こんなので今日は失礼します」

素知らず顔には言っていても、

心にはまた愛人の死が浮かんできて、

源氏は気分も非常に悪くなった。

だれの顔も見るのが物憂《ものう》かった。

お使いの蔵人《くろうど》の弁《べん》を呼んで、

またこまごまと頭中将に語ったような行触《ゆきぶ》れの事情を

帝へ取り次いでもらった。

 

左大臣家のほうへも

そんなことで行かれぬという手紙が 行ったのである。

日が暮れてから惟光《これみつ》が来た。

行触《ゆきぶ》れの件を発表したので、

二条の院への来訪者は皆庭から取り次ぎをもって

用事を申し入れて帰って行くので、

めんどうな人はだれも源氏の居間にいなかった。

 

惟光を見て源氏は、

「どうだった、だめだったか」

と言うと同時に袖を顔へ当てて泣いた。

惟光も泣く泣く言う、

 

「もう確かにお亡《かく》れになったのでございます。

 いつまでお置きしてもよくないことでございますから、

 それにちょうど明日は葬式によい日でしたから、

 式のことなどを私の尊敬する老僧がありまして、

 それとよく相談をして頼んでまいりました」

 

「いっしょに行った女は」

「それがまたあまりに悲しがりまして、

 生きていられないというふうなので、

 今朝は渓《たに》へ飛び込むのでないかと心配されました。

 五条の家へ使いを出すというのですが、

 よく落ち着いてからにしなければいけないと申して、

 とにかく止めてまいりました」

惟光の報告を聞いているうちに、

源氏は前よりもいっそう悲しくなった。

「私も病気になったようで、死ぬのじゃないかと思う」

と言った。

 

「そんなふうにまでお悲しみになるのでございますか、

 よろしくございません。

 皆運命でございます。

 どうかして秘密のうちに処置をしたいと思いまして、

 私も自身でどんなこともしているのでございますよ」

 

「そうだ、運命に違いない。

 私もそう思うが軽率な恋愛 漁《あさ》りから、

 人を死なせてしまったという責任を感じるのだ。

 君の妹の少将の命婦《みょうぶ》などにも言うなよ。

 尼君なんかはまたいつもああいったふうのことを

 よくないよくないと小言に言うほうだから、

 聞かれては恥ずかしくてならない」

「山の坊さんたちにもまるで話を変えてしてございます」

と惟光が言うので源氏は安心したようである。

 

主従がひそひそ話をしているのを見た女房などは、

「どうも不思議ですね、

 行触《ゆきぶ》れだとお言いになって参内もなさらないし、

 また何か悲しいことがあるように

 あんなふうにして話していらっしゃる」

腑《ふ》に落ちぬらしく言っていた。

「葬儀はあまり簡単な見苦しいものにしないほうがよい」

 と源氏が惟光《これみつ》に言った。

「そうでもございません。

 これは大層にいたしてよいことではございません」

と否定してから、

惟光が立って行こうとするのを見ると、

急にまた源氏は悲しくなった。

 

少納言のホームページ 源氏物語&古典 syounagon-web ぜひご覧ください🪷 https://syounagon-web-1.jimdosite.com