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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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重態の源氏の回復【源氏物語 52 第4帖 夕顔18】左大臣の世話、さまざまな医療に祈祷のおかげか源氏は回復。右近から 内気で優しい夕顔の素顔を聞く

大殿も経営したまひて、

大臣、日々に渡りたまひつつ、

さまざまのことをせさせたまふ、

しるしにや、二十余日、

いと重くわづらひたまひつれど、

ことなる名残のこらず、

おこたるさまに見えたまふ。

 

穢らひ忌みたまひしも、

一つに満ちぬる夜なれば、

おぼつかながらせたまふ御心、

わりなくて、

内裏の御宿直所に参りたまひなどす。

 

大殿、我が御車にて迎へたてまつりたまひて、

御物忌なにやと、

むつかしう慎ませたてまつりたまふ。

我にもあらず、

あらぬ世によみがへりたるやうに、

しばしはおぼえたまふ。

 

九月二十日のほどにぞ、

おこたり果てたまひて、

いといたく面痩せたまへれど、

なかなか、いみじくなまめかしくて、

ながめがちに、ねをのみ泣きたまふ。

見たてまつりとがむる人もありて、

「御物の怪なめり」

など言ふもあり。

 

右近を召し出でて、

のどやかなる夕暮に、

物語などしたまひて、

「なほ、いとなむあやしき。

 などてその人と知られじとは、

 隠いたまへりしぞ。

 まことに海人の子なりとも、

 さばかりに思ふを知らで、

 隔てたまひしかばなむ、つらかりし」

とのたまへば、

 

「などてか、

 深く隠しきこえたまふことははべらむ。

 いつのほどにてかは、

 何ならぬ御名のりを聞こえたまはむ。

 初めより、

 あやしうおぼえぬさまなりし御ことなれば、

 『現ともおぼえずなむある』

 とのたまひて、

 『御名隠しも、さばかりにこそは』

 と聞こえたまひながら、

 『なほざりにこそ紛らはしたまふらめ』となむ、

 憂きことに思したりし」

と聞こゆれば、

 

「あいなかりける心比べどもかな。

 我は、しか隔つる心もなかりき。

 ただ、かやうに人に許されぬ振る舞ひをなむ、

 まだ慣らはぬことなる。

 内裏に諌めのたまはするをはじめ、

 つつむこと多かる身にて、

 はかなく人にたはぶれごとを言ふも、

 所狭う、

 取りなしうるさき身のありさまになむあるを、

 はかなかりし夕べより、

 あやしう心にかかりて、

 あながちに見たてまつりしも、

 かかるべき契りこそはものしたまひけめと思ふも、

 あはれになむ。

 またうち返し、つらうおぼゆる。

 かう長かるまじきにては、など、

 さしも心に染みて、

 あはれとおぼえたまひけむ。

 なほ詳しく語れ。

 今は、何ごとを隠すべきぞ。

 七日七日に仏描かせても、

 誰が為とか、心のうちにも思はむ」

とのたまへば、

 

「何か、隔てきこえさせはべらむ。

 自ら、忍び過ぐしたまひしことを、

 亡き御うしろに、口さがなくやは、

 と思うたまふばかりになむ。

 親たちは、はや亡せたまひにき。

 三位中将となむ聞こえし。

 いとらうたきものに思ひきこえたまへりしかど、

 我が身のほどの心もとなさを思すめりしに、

 命さへ堪へたまはずなりにしのち、

 はかなきもののたよりにて、

 頭中将なむ、まだ少将にものしたまひし時、

 見初めたてまつらせたまひて、

 三年ばかりは、志あるさまに通ひたまひしを、

 去年の秋ごろ、かの右の大殿より、

 いと恐ろしきことの聞こえ参で来しに、

 物怖ぢをわりなくしたまひし御心に、

 せむかたなく思し怖ぢて、

 西の京に、

 御乳母住みはべる所になむ、

 はひ隠れたまへりし。

 それもいと見苦しきに、

 住みわびたまひて、

 山里に移ろひなむと思したりしを、

 今年よりは塞がりける方にはべりければ、

 違ふとて、

 あやしき所にものしたまひしを、

 見あらはされたてまつりぬることと、

 思し嘆くめりし。

 世の人に似ず、

 ものづつみをしたまひて人に物思ふ気色を見えむを、

 恥づかしきものにしたまひて、

 つれなくのみもてなして、

 御覧ぜられたてまつりたまふめりしか」

と、語り出づるに、

「さればよ」と、

思しあはせて、

いよいよあはれまさりぬ。

 

左大臣も徹底的に世話をした。

大臣自身が二条の院を見舞わない日もないのである。

そしていろいろな医療や祈祷《きとう》をしたせいでか、

二十日ほど重態だったあとに余病も起こらないで、

源氏の病気は次第に回復していくように見えた。

 

行触《ゆきぶ》れの遠慮の正規の日数も

この日で終わる夜であったから、

源氏は逢いたく思召《おぼしめ》す帝の御心中を察して、

御所の宿直所《とのいどころ》にまで出かけた。

 

退出の時は左大臣が自身の車へ乗せて邸《やしき》へ伴った。

病後の人の謹慎のしかたなども大臣がきびしく監督したのである。

この世界でない所へ蘇生《そせい》した人間のように

当分源氏は思った。

 

九月の二十日ごろに源氏はまったく回復して、

痩《や》せるには痩せたがかえって艶《えん》な趣の添った源氏は、

今も思いをよくして、またよく泣いた。

その様子に不審を抱く人もあって、

物怪《もののけ》が憑《つ》いているのであろうとも言っていた。

 

源氏は右近を呼び出して、

ひまな静かな日の夕方に話をして、

「今でも私にはわからぬ。

 なぜだれの娘であるということをどこまでも私に隠したのだろう。

 たとえどんな身分でも、私があれほどの熱情で思っていたのだから、

 打ち明けてくれていいわけだと思って恨めしかった」

とも言った。

 

「そんなにどこまでも隠そうなどとあそばすわけはございません。

 そうしたお話をなさいます機会がなかったのじゃございませんか。

 最初があんなふうでございましたから、

 現実の関係のように思われないとお言いになって、

 それでもまじめな方なら

 いつまでもこのふうで進んで行くものでもないから、

 自分は一時的な対象にされているにすぎないのだと

 お言いになっては寂しがっていらっしゃいました」

右近がこう言う。

「つまらない隠し合いをしたものだ。

 私の本心ではそんなにまで隠そうとは思っていなかった。

 ああいった関係は私に経験のないことだったから、

 ばかに世間がこわかったのだ。

 御所の御注意もあるし、

 そのほかいろんな所に遠慮があってね。

 ちょっとした恋をしても、

 それを大問題のように扱われるうるさい私が、

 あの夕顔の花の白かった日の夕方から、

 むやみに私の心はあの人へ惹《ひ》かれていくようになって、

 無理な関係を作るようになったのも

 しばらくしかない二人の縁だったからだと思われる。

 しかしまた恨めしくも思うよ。

 こんなに短い縁よりないのなら、

 あれほどにも私の心を惹いてくれなければよかったとね。

 まあ今でもよいから詳しく話してくれ、

 何も隠す必要はなかろう。

 七日七日に仏像を描《か》かせて寺へ納めても、

 名を知らないではね。

 それを表に出さないでも、

 せめて心の中でだれの菩提《ぼだい》のためにと思いたいじゃないか」

と源氏が言った。

 

「お隠しなど決してしようとは思っておりません。

 ただ御自分のお口からお言いにならなかったことを、

 お亡《かく》れになってからおしゃべりするのは

 済まないような気がしただけでございます。

 御両親はずっと前にお亡《な》くなりになったのでございます。

 殿様は三位《さんみ》中将でいらっしゃいました。

 非常にかわいがっていらっしゃいまして、

 それにつけても御自身の不遇をもどかしく

 思召《おぼしめ》したでしょうが、

 その上寿命にも恵まれていらっしゃいませんで、

 お若くてお亡《な》くなりになりましたあとで、

 ちょっとしたことが初めで

 頭中将《とうのちゅうじょう》がまだ少将でいらっしったころに

 通っておいでになるようになったのでございます。

 三年間ほどは御愛情があるふうで御関係が続いていましたが、

 昨年の秋ごろに、

 あの方の奥様のお父様の右大臣の所からおどすようなことを

 言ってまいりましたのを、気の弱い方でございましたから、

 むやみに恐ろしがっておしまいになりまして、

 西の右京のほうに奥様の乳母《めのと》が住んでおりました

 家へ隠れて行っていらっしゃいましたが、

 その家もかなりひどい家でございましたからお困りになって、

 郊外へ移ろうとお思いになりましたが、 

 今年は方角が悪いので、

 方角|避《よ》けに

 あの五条の小さい家へ行っておいでになりましたことから、

 あなた様がおいでになるようなことになりまして、

 あの家があの家でございますから

 侘《わび》しがっておいでになったようでございます。

 普通の人とはまるで違うほど内気で、

 物思いをしていると人から見られるだけでも

 恥ずかしくてならないようにお思いになりまして、

 どんな苦しいことも寂しいことも

 心に納めていらしったようでございます」

右近のこの話で源氏は自身の想像が当たったことで

満足ができたとともに、

その優しい人がますます恋しく思われた。

 

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