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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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夕顔と頭中将との姫君を引き取ることを望む源氏【源氏物語53 第4帖 夕顔19】夕顔の思い出を話す右近。 砧の音さえ恋しく思う源氏

「幼き人惑はしたりと、

 中将の愁へしは、さる人や」

と問ひたまふ。

「しか。一昨年の春ぞ、

 ものしたまへりし。女にて、

 いとらうたげになむ」

と語る。

「さて、いづこにぞ。人にさとは知らせで、

 我に得させよ。

 あとはかなく、いみじと思ふ御形見に、

 いとうれしかるべくなむ」

とのたまふ。

「かの中将にも伝ふべけれど、

 言ふかひなきかこと負ひなむ。

 とざまかうざまにつけて、

 育まむに咎あるまじきを。

 そのあらむ乳母などにも、

 ことざまに言ひなして、

 ものせよかし」

など語らひたまふ。

 

「さらば、

 いとうれしくなむはべるべき。

 かの西の京にて生ひ出でたまはむは、

 心苦しくなむ。

 はかばかしく扱ふ人なしとて、かしこに」

など聞こゆ。

 

夕暮の静かなるに、

空の気色いとあはれに、

御前の前栽枯れ枯れに、

虫の音も鳴きかれて、

紅葉のやうやう色づくほど、

絵に描きたるやうにおもしろきを見わたして、

心よりほかにをかしき交じらひかなと、

かの夕顔の宿りを思ひ出づるも恥づかし。

 

竹の中に家鳩といふ鳥の、

ふつつかに鳴くを聞きたまひて、

かのありし院にこの鳥の鳴きしを、

いと恐ろしと思ひたりしさまの、

面影にらうたく思し出でらるれば、

 

「年はいくつにかものしたまひし。

 あやしく世の人に似ず、

 あえかに見えたまひしも、

 かく長かるまじくてなりけり」

とのたまふ。

 

「十九にやなりたまひけむ。

 右近は、

 亡くなりにける御乳母の捨て置きてはべりければ、

 三位の君のらうたがりたまひて、

 かの御あたり去らず、

 生ほしたてたまひしを思ひたまへ出づれば、

 いかでか世にはべらむずらむ。

 いとしも人にと、悔しくなむ。

 ものはかなげにものしたまひし人の御心を、

 頼もしき人にて、

 年ごろならひはべりけること」

と聞こゆ。

 

「はかなびたるこそは、

 らうたけれ。

 かしこく人になびかぬ、

 いと心づきなきわざなり。

 自らはかばかしくすくよかならぬ心ならひに、

 女はただやはらかに、

 とりはづして人に欺かれぬべきが、

 さすがにものづつみし、

 見む人の心には従はむなむ、

 あはれにて、

 我が心のままにとり直して見むに、

 なつかしくおぼゆべき」

 などのたまへば、

 「この方の御好みには、

 もて離れたまはざりけり、

 と思ひたまふるにも、

 口惜しくはべるわざかな」

とて泣く。

 

空のうち曇りて、

風冷やかなるに、

いといたく眺めたまひて、

「見し人の煙を雲と眺むれば

 夕べの空もむつましきかな」

と独りごちたまへど、

えさし答へも聞こえず。

かやうにて、おはせましかば、

と思ふにも、胸塞がりておぼゆ。

耳かしかましかりし砧の音を、

思し出づるさへ恋しくて、

「正に長き夜」

とうち誦じて、

臥したまへり。

 

「小さい子を一人 行方不明にしたと言って

  中将が憂鬱《ゆううつ》になっていたが、

  そんな小さい人があったのか」

と問うてみた。

「さようでございます。一昨年の春お生まれになりました。

 お嬢様で、とてもおかわいらしい方でございます」

「で、その子はどこにいるの、

 人には私が引き取ったと知らせないようにして

 私にその子をくれないか。

 形見も何もなくて寂しくばかり思われるのだから、

 それが実現できたらいいね」

 源氏はこう言って、

 

また、

「頭中将にもいずれは話をするが、

 あの人をああした所で死なせてしまったのが私だから、

 当分は恨みを言われるのがつらい。

 私の従兄《いとこ》の中将の子である点からいっても、

 私の恋人だった人の子である点からいっても、

 私の養女にして育てていいわけだから、

 その西の京の乳母にも何かほかのことにして、

 お嬢さんを私の所へつれて来てくれないか」

と言った。

 

「そうなりましたらどんなに結構なことでございましょう。

 あの西の京でお育ちになってはあまりにお気の毒でございます。

 私ども若い者ばかりでしたから、

 行き届いたお世話ができないということで

 あっちへお預けになったのでございます」

と右近は言っていた。

 

静かな夕方の空の色も身にしむ九月だった。

庭の植え込みの草などがうら枯れて、

もう虫の声もかすかにしかしなかった。

そして もう少しずつ紅葉の色づいた絵のような景色を

右近はながめながら、

思いもよらぬ貴族の家の女房になっていることを感じた。

五条の夕顔の花の咲きかかった家は

思い出すだけでも恥ずかしいのである。

 

竹の中で家鳩《いえばと》という鳥が

調子はずれに鳴くのを聞いて源氏は、

あの某院でこの鳥の鳴いた時に夕顔のこわがった顔が

今も可憐《かれん》に思い出されてならない。

 

「年は幾つだったの、

 なんだか普通の若い人よりもずっと若いようなふうに見えたのも

 短命の人だったからだね」

 

「たしか十九におなりになったのでございましょう。

 私は奥様のもう一人のほうの乳母の忘れ形見でございましたので、

 三位《さんみ》様がかわいがってくださいまして、

 お嬢様といっしょに育ててくださいましたものでございます。

 そんなことを思いますと、

 あの方のお亡《な》くなりになりましたあとで、

 平気でよくも生きているものだと恥ずかしくなるのでございます。

 弱々しいあの方をただ一人のたよりになる御主人と思って

 右近は参りました」

 

弱々しい女が私はいちばん好きだ。

 自分が賢くないせいか、あまり聡明《そうめい》で、

 人の感情に動かされないような女はいやなものだ。

 どうかすれば人の誘惑にもかかりそうな人でありながら、

 さすがに慎《つつ》ましくて恋人になった男に

 全生命を任せているというような人が私は好きで、

 おとなしいそうした人を自分の思うように

 教えて成長させていければよいと思う」

源氏がこう言うと、

「そのお好みには遠いように思われません方の、

 お亡《かく》れになったことが残念で」

と右近は言いながら泣いていた。

 

空は曇って冷ややかな風が通っていた。

 寂しそうに見えた源氏は、

『見し人の 煙を雲と ながむれば

   夕《ゆふべ》の空も むつまじきかな』

と独言《ひとりごと》のように言っていても、

返しの歌は言い出されないで、

右近は、

こんな時に二人そろっておいでになったらという思いで

胸の詰まる気がした。

源氏はうるさかった砧《きぬた》の音を思い出しても

その夜が恋しくて、

「八月九月|正長夜《まさにながきよ》

  千声万声《せんせいばんせい》無止時《やむときなし》

と歌っていた。

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