2023-10-24から1日間の記事一覧
月も入りぬ。 「雲の上も涙にくるる秋の月 いかですむらむ浅茅生の宿」 思し召しやりつつ、灯火をかかげ尽くして起きおはします。 右近の司の宿直奏の声聞こゆるは、丑になりぬるなるべし。 人目を思して、夜の御殿に入らせたまひても、 まどろませたまふこ…
命婦は、 「まだ大殿籠もらせたまはざりける」と、 あはれに見たてまつる。 御前の壺前栽のいとおもしろき盛りなるを御覧ずるやうにて、 忍びやかに心にくき限りの女房四五人さぶらはせたまひて、 御物語せさせたまふなりけり。 このごろ、明け暮れ御覧ずる…
「暮れまどふ心の闇も堪へがたき片端をだに、 はるくばかりに聞こえまほしうはべるを、 私にも心のどかにまかでたまへ。 年ごろ、うれしく面だたしきついでにて立ち寄りたまひしものを、 かかる御消息にて見たてまつる、 返す返すつれなき命にもはべるかな。…