google.com, pub-8944455872984568, DIRECT, f08c47fec0942fa0

源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

少納言チャンネル🌷は、古典や漢文、文学の朗読を動画にしています。 🌼 音読で脳トレ&リラックスしましょ🍀

母の慟哭😢【源氏物語 第一帖 桐壺6】暮れまどふ心の闇も堪へがたき片端をだに、はるくばかりに聞こえまほしうはべるを、私にも心のどかにまかでたまへ。

「暮れまどふ心の闇も堪へがたき片端をだに、

 はるくばかりに聞こえまほしうはべるを、

 私にも心のどかにまかでたまへ。

 年ごろ、うれしく面だたしきついでにて立ち寄りたまひしものを、

 かかる御消息にて見たてまつる、

 返す返すつれなき命にもはべるかな。

 

 生まれし時より、

 思ふ心ありし人にて、

 故大納言、

 いまはとなるまで、

『ただ、この人の宮仕への本意、かならず遂げさせたてまつれ。

 我れ亡くなりぬとて、

 口惜しう思ひくづほるな』と、

 返す返す諌めおかれはべりしかば、

 はかばかしう後見思ふ人もなき交じらひは、

 なかなかなるべきことと思ひたまへながら、

 ただかの遺言を違へじとばかりに、

 出だし立てはべりしを、

 身に余るまでの御心ざしの、

 よろづにかたじけなきに、人げなき恥を隠しつつ、

 交じらひたまふめりつるを、人の嫉み深く積もり、

 安からぬこと多くなり添ひはべりつるに、

 横様なるやうにて、つひにかくなりはべりぬれば、

 かへりてはつらくなむ、

 かしこき御心ざしを思ひたまへられはべる。

 これもわりなき心の闇になむ」

 

と、言ひもやらずむせかへりたまふほどに、

夜も更けぬ。

主上もしかなむ。

『我が御心ながら、

 あながちに人目おどろくばかり思されしも、

 長かるまじきなりけりと、

 今はつらかりける人の契りになむ。

 世にいささかも人の心を曲げたることはあらじと思ふを、

 ただこの人のゆゑにて、

 あまたさるまじき人の恨みを負ひし果て果ては、

 かううち捨てられて、心をさめむ方なきに、

 いとど人悪ろうかたくなになり果つるも、

 前の世ゆかしうなむ』

 とうち返しつつ、

 御しほたれがちにのみおはします」

 

と語りて尽きせず。

泣く泣く、

「夜いたう更けぬれば、今宵過ぐさず、

 御返り奏せむ」

と急ぎ参る。

 

月は入り方の、空清う澄みわたれるに、風いと涼しくなりて、

草むらの虫の声ごゑもよほし顔なるも、

いと立ち離れにくき草のもとなり。

「鈴虫の 声の限りを尽くしても

 長き夜あかず ふる涙かな」

えも乗りやらず。

「いとどしく 虫の音しげき 浅茅生に

 露置き添ふる雲の上人

 かごとも聞こえつべくなむ」

と言はせたまふ。

 

をかしき御贈り物などあるべき折にもあらねば、

ただかの御形見にとて、

かかる用もやと残したまへりける御装束一領、

御髪上げの調度めく物添へたまふ。

 

若き人びと、悲しきことはさらにも言はず、

内裏わたりを朝夕にならひて、

いとさうざうしく、

主上の御ありさまなど思ひ出できこゆれば、

とく参りたまはむことをそそのかしきこゆれど、

「かく忌ま忌ましき身の添ひたてまつらむも、

 いと人聞き憂かるべし、

 また、見たてまつらでしばしもあらむは、

 いとうしろめたう」

思ひきこえたまひて、

すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬなりけり。

 

「子をなくしました母親の心の、

 悲しい暗さがせめて一部分でも

 晴れますほどの話をさせていただきたいのですから、

 公のお使いでなく、

 気楽なお気持ちでお休みがてらまたお立ち寄りください。

 以前はうれしいことでよくお使いにおいでくださいましたのでしたが、

 こんな悲しい勅使であなたをお迎えするとは何ということでしょう。

 返す返す運命が私に長生きさせるのが苦しゅうございます。

 

 故人のことを申せば、

 生まれました時から親たちに輝かしい未来の望みを持たせました子で、

 父の大納言《だいなごん》は、

 いよいよ危篤になりますまで、

 この人を宮中へ差し上げようと自分の思ったことをぜひ実現させてくれ、

 自分が死んだからといって

 今までの考えを捨てるようなことをしてはならないと、

 何度も何度も遺言いたしましたが、

 確かな後援者なしの宮仕えは、

 かえって娘を不幸にするようなものではないだろうかとも思いながら、

 私にいたしましてはただ遺言を守りたいばかりに陛下へ差し上げましたが、

 過分な御寵愛を受けまして、

 そのお光でみすぼらしさも隠していただいて、

 娘はお仕えしていたのでしょうが、

 皆さんの御嫉妬の積もっていくのが重荷になりまして、

 寿命で死んだとは思えませんような死に方をいたしましたのですから、

 陛下のあまりに深い御愛情がかえって恨めしいように、

 盲目的な母の愛から私は思いもいたします」

 

こんな話をまだ全部も言わないで

未亡人は涙でむせ返ってしまったりしているうちに

ますます深更《しんこう》になった。

 

「それは陛下も仰せになります。

 自分の心でありながら

 あまりに穏やかでないほどの愛しようをしたのも

 前生《ぜんしょう》の約束で長くはいっしょにおられぬ二人であることを

 意識せずに感じていたのだ。

 自分らは恨めしい因縁でつながれていたのだ、

 自分は即位してから、

 だれのためにも苦痛を与えるようなことはしなかったという自信を持っていたが、

 あの人によって負ってならぬ女の恨みを負い、

 ついには何よりもたいせつなものを失って、

 悲しみにくれて以前よりももっと愚劣な者になっているのを思うと、

 自分らの前生の約束はどんなものであったか知りたいと

 お話しになって湿っぽい御様子ばかりをお見せになっています」

 

どちらも話すことにきりがない。

命婦《みょうぶ》は泣く泣く、

「もう非常に遅《おそ》いようですから、

 復命は今晩のうちにいたしたいと存じますから」

と言って、帰る仕度《したく》をした。

 

落ちぎわに近い月夜の空が澄み切った中を涼しい風が吹き、

人の悲しみを促すような虫の声がするのであるから帰りにくい。

 

『鈴虫の 声の限りを 尽くしても

 長き夜飽かず 降る涙かな』

車に乗ろうとして命婦はこんな歌を口ずさんだ。

『いとどしく虫の音《ね》しげき浅茅生《あさぢふ》

 露置き添ふる雲の上人《うへびと》

かえって御訪問が恨めしいと申し上げたいほどです」

と 未亡人は女房に言わせた。

 

意匠を凝らせた贈り物などする場合でなかったから、

故人の形見ということにして、

唐衣《からぎぬ》と裳《も》の一揃《ひとそろ》えに、

髪上げの用具のはいった箱を添えて贈った。

 

若い女房たちの更衣の死を悲しむのはむろんであるが、

宮中住まいをしなれていて、

寂しく物足らず思われることが多く、

お優しい帝《みかど》の御様子を思ったりして、

若宮が早く御所へお帰りになるようにと促すのであるが、

不幸な自分がごいっしょに上がっていることも、

また世間に批難の材料を与えるようなものであろうし、

またそれかといって若宮とお別れしている苦痛にも

堪《た》えきれる自信がないと未亡人は思うので、

結局若宮の宮中入りは実行性に乏しかった。

💠少納言チャンネルは、聴く古典として動画を作っております。ぜひチャンネル登録お願いします🌷

 

🪷第1帖 桐壺(きりつぼ)ぜひ ご覧ください🪷

第一帖 桐壺(きりつぼ)源氏物語 カテゴリーの記事一覧 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸

少納言のホームページ 源氏物語&古典 syounagon-web ぜひご覧ください🪷 https://syounagon-web-1.jimdosite.com