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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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【源氏77 第五帖 若紫20】兵部卿の宮が女王を迎えに来ることになった。源氏は左大臣家に行っていたが 惟光からその事を聞いて 女王を二条院に迎える。

🌸【古文】

「宮より、

 明日にはかに御迎へにとのたまはせたりつれば、

 心あわたたしくてなむ。

 年ごろの蓬生を離れなむも、さすがに心細く、

 さぶらふ人びとも思ひ乱れて」

と、言少なに言ひて、

をさをさあへしらはず、

もの縫ひいとなむけはひなどしるければ、参りぬ。

 

君は大殿におはしけるに、

例の、女君とみにも対面したまはず。

ものむつかしくおぼえたまひて、

あづまをすががきて、

常陸には田をこそ作れ」

といふ歌を、声はいとなまめきて、

すさびゐたまへり。

参りたれば、召し寄せてありさま問ひたまふ。

しかしかなど聞こゆれば、

口惜しう思して、

「かの宮に渡りなば、わざと迎へ出でむも、

 好き好きしかるべし。

 幼き人を盗み出でたりと、もどきおひなむ。

 そのさきに、しばし、人にも口固めて、渡してむ」

と思して、

「暁かしこにものせむ。車の装束さながら。

 随身一人二人仰せおきたれ」

とのたまふ。

うけたまはりて立ちぬ。

 

君、

「いかにせまし。

 聞こえありて好きがましきやうなるべきこと。

 人のほどだにものを思ひ知り、

 女の心交はしけることと推し測られぬべくは、

 世の常なり。

 父宮の尋ね出でたまへらむも、

 はしたなう、すずろなるべきを」

と、思し乱るれど、

さて外してむはいと口惜しかべければ、

まだ夜深う出でたまふ。

 

女君、例のしぶしぶに、

心もとけずものしたまふ。

「かしこに、

 いとせちに見るべきことのはべるを思ひたまへ出でて、

 立ちかへり参り来なむ」

とて、出でたまへば、

さぶらふ人びとも知らざりけり。

 

わが御方にて、御直衣などはたてまつる。

惟光ばかりを馬に乗せておはしぬ。

門うちたたかせたまへば、

心知らぬ者の開けたるに、

御車をやをら引き入れさせて、

大夫、妻戸を鳴らして、しはぶけば、

少納言聞き知りて、出で来たり。

 

「ここに、おはします」

と言へば、

「幼き人は、御殿籠もりてなむ。

 などか、いと夜深うは出でさせたまへる」

と、もののたよりと思ひて言ふ。

 

「宮へ渡らせたまふべかなるを、

 そのさきに聞こえ置かむとてなむ」

とのたまへば、

「何ごとにかはべらむ。

 いかにはかばかしき御答へ聞こえさせたまはむ」

とて、うち笑ひてゐたり。

 

君、入りたまへば、

いとかたはらいたく、

「うちとけて、あやしき古人どものはべるに」

と聞こえさす。

「まだ、おどろいたまはじな。

 いで、御目覚ましきこえむ。

 かかる朝霧を知らでは、寝るものか」

とて、入りたまへば、

「や」

とも、え聞こえず。

 

🌸【現代文】

「宮様のほうから、

にわかに明日迎えに行くと言っておよこしになりましたので、

 取り込んでおります。

 長い馴染《なじみ》の古いお邸《やしき》を離れますのも 

心細い気のすることと私どもめいめい申し合っております」 

と言葉数も少なく言って、

 大納言家の女房たちは今日はゆっくりと話し相手になっていなかった。 

忙しそうに物を縫ったり、何かを仕度したりする様子がよくわかるので、 

惟光《これみつ》は帰って行った。 

 

源氏は左大臣家へ行っていたが、 

例の夫人は急に出て来て逢《あ》おうともしなかったのである。

 面倒な気がして、

 源氏は東琴《あずまごと》(和琴《わごん》に同じ)を 

手すさびに弾《ひ》いて、

常陸《ひたち》には田をこそ作れ、

  仇心《あだごころ》かぬとや君が山を越え、

 野を越え雨夜来ませる」

 という田舎めいた歌詞を、優美な声で歌っていた。

 惟光が来たというので、源氏は居間へ呼んで様子を聞こうとした。

 惟光によって、女王が兵部卿《ひょうぶきょう》の宮邸へ 

移転する前夜であることを源氏は聞いた。

 源氏は残念な気がした。 

宮邸へ移ったあとで、

そういう幼い人に結婚を申し込むということも

 物好きに思われることだろう。

 小さい人を一人盗んで行ったという批難を受けるほうがまだよい。 

確かに秘密の保ち得られる手段を取って

 二条の院へつれて来ようと源氏は決心した。 

 

「明日夜明けにあすこへ行ってみよう。 

 ここへ来た車をそのままにして置かせて、

 随身を一人か二人仕度させておくようにしてくれ」

 という命令を受けて惟光は立った。 

 

源氏はそののちもいろいろと思い悩んでいた。 

人の娘を盗み出した噂《うわさ》の立てられる不名誉も、

 もう少しあの人が大人で思い合った仲であれば 

その犠牲も自分は払ってよいわけであるが、

 これはそうでもないのである。 

父宮に取りもどされる時の不体裁も考えてみる必要があると思ったが、 

その機会をはずすことはどうしても惜しいことであると考えて、

 翌朝は明け切らぬ間に出かけることにした。

 

 夫人は昨夜の気持ちのままでまだ打ち解けてはいなかった。 

「二条の院にぜひしなければならないことのあったのを 

 私は思い出したから出かけます。

  用を済ませたらまた来ることにしましょう」

 と源氏は不機嫌《ふきげん》な妻に告げて、

 寝室をそっと出たので、女房たちも知らなかった。 

 

自身の部屋になっているほうで直衣《のうし》などは着た。

 馬に乗せた惟光だけを付き添いにして源氏は大納言家へ来た。

 門をたたくと何の気なしに下男が門をあけた。 

車を静かに中へ引き込ませて、源氏の伴った惟光が妻戸をたたいて、

 しわぶきをすると、少納言が聞きつけて出て来た。

 

 「来ていらっしゃるのです」 と言うと、 

「女王様はやすんでいらっしゃいます。

 どちらから、どうしてこんなにお早く」

 と少納言が言う。

 源氏が人の所へ通って行った帰途だと解釈しているのである。

 

 「宮様のほうへいらっしゃるそうですから、

  その前にちょっと一言お話をしておきたいと思って」

 と源氏が言った。 

「どんなことでございましょう。 

 まあどんなに確かなお返辞がおできになりますことやら」

 少納言は笑っていた。

 

 源氏が室内へはいって行こうとするので、

この人は当惑したらしい。

 「不行儀に女房たちがやすんでおりまして」 

「まだ女王さんはお目ざめになっていないのでしょうね。

  私がお起こししましょう。

  もう朝霧がいっぱい降る時刻だのに、寝ているというのは」 

と言いながら寝室へはいる源氏を 

少納言は止めることもできなかった。

 

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【源氏76 第五帖 若紫19】祖母が亡くなり悲しむ紫の君。父宮は 女王を慰めるものの、祖母が亡くなって深い悲しみに沈んでいる。源氏の代わりに 惟光が宿直をする。

🪷【古文】

「何か、さしも思す。

 今は世に亡き人の御ことはかひなし。

 おのれあれば」

など語らひきこえたまひて、

暮るれば帰らせたまふを、

いと心細しと思いて泣いたまへば、

宮うち泣きたまひて、

「いとかう思ひな入りたまひそ。

 今日明日、渡したてまつらむ」

など、返す返すこしらへおきて、

出でたまひぬ。

 

なごりも慰めがたう泣きゐたまへり。

行く先の身のあらむことなどまでも思し知らず、

ただ年ごろ立ち離るる折なうまつはしならひて、

今は亡き人となりたまひにける、

と思すがいみじきに、幼き御心地なれど、

胸つとふたがりて、

例のやうにも遊びたまはず、

昼はさても紛らはしたまふを、

夕暮となれば、いみじく屈したまへば、

かくてはいかでか過ごしたまはむと、

慰めわびて、乳母も泣きあへり。

 

君の御もとよりは、

惟光をたてまつれたまへり。

「参り来べきを、内裏より召あればなむ。

 心苦しう見たてまつりしも、しづ心なく」

とて、宿直人たてまつれたまへり。

 

「あぢきなうもあるかな。戯れにても、

 もののはじめにこの御ことよ」

「宮聞こし召しつけば、

 さぶらふ人びとのおろかなるにぞさいなまむ」

「あなかしこ、もののついでに、

 いはけなくうち出できこえさせたまふな」

など言ふも、

それをば何とも思したらぬぞ、

あさましきや。

少納言は、惟光にあはれなる物語どもして、

 

「あり経て後や、さるべき御宿世、

 逃れきこえたまはぬやうもあらむ。

 ただ今は、

 かけてもいと似げなき御ことと見たてまつるを、

 あやしう思しのたまはするも、

 いかなる御心にか、

 思ひ寄るかたなう乱れはべる。

 今日も、宮渡らせたまひて、

 『うしろやすく仕うまつれ。心幼くもてなしきこゆな』

 とのたまはせつるも、いとわづらはしう、

 ただなるよりは、

 かかる御好き事も思ひ出でられはべりつる」

など言ひて、

「この人もことあり顔にや思はむ」

など、あいなければ、

いたう嘆かしげにも言ひなさず。

 

大夫も、

「いかなることにかあらむ」

と、心得がたう思ふ。

参りて、ありさまなど聞こえければ、

あはれに思しやらるれど、

さて通ひたまはむも、

さすがにすずろなる心地して、

「軽々しうもてひがめたると、人もや漏り聞かむ」

など、つつましければ、

「ただ迎へてむ」

と思す。

御文はたびたびたてまつれたまふ。

暮るれば、例の大夫をぞたてまつれたまふ。

「障はる事どものありて、

 え参り来ぬを、おろかにや」

などあり。

 

🪷【現代文】

「なぜそんなにお祖母様のことばかりをあなたはお思いになるの、

 亡くなった人はしかたがないんですよ。

 お父様がおればいいのだよ」

と宮は言っておいでになった。

日が暮れるとお帰りになるのを見て、

心細がって姫君が泣くと、宮もお泣きになって、

「なんでもそんなに悲しがってはしかたがない。

 今日明日にでもお父様の所へ来られるようにしよう」

などと、いろいろになだめて宮はお帰りになった。

 

母も祖母も失った女の将来の心細さなどを女王は思うのでなく、

ただ小さい時から片時の間も離れず付き添っていた祖母が

死んだと思うことだけが非常に悲しいのである。

子供ながらも悲しみが胸をふさいでいる気がして

遊び相手はいても遊ぼうとしなかった。

それでも昼間は何かと紛れているのであったが、

夕方ごろからめいりこんでしまう。

こんなことで小さいおからだがどうなるかと思って、

乳母も毎日泣いていた。

 

その日源氏の所からは惟光《これみつ》をよこした。

伺うはずですが宮中からお召しがあるので失礼します。

おかわいそうに拝見した女王さんのことが気になってなりません。

源氏からの挨拶はこれで

惟光が代わりの宿直《とのい》をするわけである。

 

「困ってしまう。

 将来だれかと御結婚をなさらなければならない女王様を、

 これではもう源氏の君が奥様になすったような形を

 お取りになるのですもの。

 宮様がお聞きになったら

 私たちの責任だと言って おしかりになるでしょう」

 

「ねえ女王様、お気をおつけになって、

 源氏の君のことは宮様がいらっしゃいました時に

 うっかり言っておしまいにならないようになさいませね」

少納言が言っても、

小女王は、

それが何のためにそうしなければならないかがわからないのである。

少納言は惟光の所へ来て、身にしむ話をした。

 

「将来あるいはそうおなりあそばす運命かもしれませんが、

 ただ今のところはどうしても これは不つりあいなお間柄だと

 私らは存じますのに、

 御熱心に御縁組のことをおっしゃるのですもの、

 御酔興か何かと私どもは思うばかりでございます。

 今日も宮様がおいでになりまして、

 女の子だからよく気をつけてお守りをせい、

 うっかり油断をしていてはいけないなどとおっしゃいました時は、

 私ども何だか平気でいられなく思われました。

 昨晩のことなんか思い出すものですから」

などと言いながらも、

あまりに歎《なげ》いて見せては姫君の処女であることを

この人に疑わせることになると用心もしていた。

 

惟光もどんな関係なのかわからない気がした。

帰って惟光が報告した話から、

源氏はいろいろとその家のことが

哀れに思いやられてならないのであったが、

形式的には良人《おっと》らしく一泊したあとであるから、

続いて通って行かねばならぬが、

それはさすがに躊躇《ちゅうちょ》された。

酔興な結婚をしたように世間が批評しそうな点もあるので、

心がおけて行けないのである。

二条の院へ迎えるのが良策であると源氏は思った。

手紙は始終送った。

日が暮れると惟光を見舞いに出した。

やむをえぬ用事があって出かけられないのを、

私の不誠実さからだとお思いにならぬかと不安です。

などという手紙が書かれてくる。

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【源氏75 第五帖 若紫18】源氏、兵部卿の宮は荒れた邸にいる女王に心動かされる。

【古文】

いと忍びて通ひたまふ所の道なりけるを思し出でて、

門うちたたかせたまへど、聞きつくる人なし。

かひなくて、御供に声ある人して歌はせたまふ。

「朝ぼらけ霧立つ空のまよひにも

 行き過ぎがたき妹が門かな」

と、二返りばかり歌ひたるに、

よしある下仕ひを出だして、

「立ちとまり霧のまがきの過ぎうくは

 草のとざしにさはりしもせじ」

と言ひかけて、入りぬ。

また人も出で来ねば、帰るも情けなけれど、

明けゆく空もはしたなくて殿へおはしぬ。

 

をかしかりつる人のなごり恋しく、

独り笑みしつつ臥したまへり。

日高う大殿籠もり起きて、文やりたまふに、

書くべき言葉も例ならねば、

筆うち置きつつすさびゐたまへり。

をかしき絵などをやりたまふ。

 

かしこには、今日しも、宮わたりたまへり。

年ごろよりもこよなう荒れまさり、

広うもの古りたる所の、いとど人少なに久しければ、

見わたしたまひて、

「かかる所には、いかでか、

 しばしも幼き人の過ぐしたまはむ。

 なほ、かしこに渡したてまつりてむ。

 何の所狭きほどにもあらず。

 乳母は、曹司などしてさぶらひなむ。

 君は、若き人びとあれば、もろともに遊びて、

 いとようものしたまひなむ」

などのたまふ。

 

近う呼び寄せたてまつりたまへるに、

かの御移り香の、

いみじう艶に染みかへらせたまへれば、

「をかしの御匂ひや。御衣はいと萎えて」

と、心苦しげに思いたり。

 

「年ごろも、

 あつしくさだ過ぎたまへる人に添ひたまへるよ、

 かしこにわたりて見ならしたまへなど、ものせしを、

 あやしう疎みたまひて、人も心置くめりしを、

 かかる折にしもものしたまはむも、心苦しう」

などのたまへば、

「何かは。心細くとも、

 しばしはかくておはしましなむ。

 すこしものの心思し知りなむにわたらせたまはむこそ、

 よくははべるべけれ」

と聞こゆ。

 

「夜昼恋ひきこえたまふに、

 はかなきものもきこしめさず」

とて、

げにいといたう面痩せたまへれど、

いとあてにうつくしく、

なかなか見えたまふ。

 

【現代文】

近ごろ隠れて通っている人の家が途中にあるのを思い出して、

その門をたたかせたが内へは聞こえないらしい。

しかたがなくて供の中から声のいい男を選んで歌わせた。

『朝ぼらけ 霧立つ空の 迷ひにも

 行き過ぎがたき 妹《いも》が門かな』

 二度繰り返させたのである。

気のきいたふうをした下仕《しもづか》えの女中を出して、

『立ちとまり 霧の籬《まがき》の過ぎうくば

 草の戸ざしに 障《さは》りしもせじ』

と言わせた。

女はすぐに門へはいってしまった。

それきりだれも出て来ないので、

帰ってしまうのも冷淡な気がしたが、

夜がどんどん明けてきそうで、

きまりの悪さに二条の院へ車を進めさせた。

 

かわいかった小女王を思い出して、

源氏は《ひと》り笑みをしながら又寝《またね》をした。

朝おそくなって起きた源氏は手紙をやろうとしたが、

書く文章も普通の恋人扱いにはされないので、

筆を休め休め考えて書いた。

よい絵なども贈った。

 

今日は按察使《あぜち》大納言家

兵部卿《ひょうぶきょう》の宮が来ておいでになった。

以前よりもずっと邸が荒れて、

広くて古い家に小人数でいる寂しさが宮のお心を動かした。

「こんな所にしばらくでも小さい人がいられるものではない。

 やはり私の邸のほうへつれて行こう。

 たいしたむずかしい所ではないのだよ。

 乳母《めのと》は部屋をもらって住んでいればいいし、

女王は何人も若い子がいるから

いっしょに遊んでいれば非常にいいと思う」

などとお言いになった。

 

そばへお呼びになった小女王の着物には

源氏の衣服の匂《にお》いが深く沁《し》んでいた

「いい匂いだね。けれど着物は古くなっているね」

心苦しく思召《おぼしめ》す様子だった。

 

「今までからも病身な年寄りとばかりいっしょにいるから、

 時々は邸のほうへよこして、

 母と子の情合いのできるようにするほうがよいと

 私は言ったのだけれど、

 絶対的におばあさんは それをおさせにならなかったから、

 邸のほうでも反感を起こしていた。

 そしてついにその人が亡くなったからといって

 つれて行くのは済まないような気もする」

と宮がお言いになる。

 

「そんなに早くあそばす必要はございませんでしょう。

 お心細くても当分はこうしていらっしゃいますほうが

 よろしゅうございましょう。

 少し物の理解がおできになるお年ごろになりましてから

 おつれなさいますほうがよろしいかと存じます」

少納言はこう答えていた。

 

「夜も昼もおばあ様が恋しくて 泣いてばかりいらっしゃいまして、

 召し上がり物なども少のうございます」

とも歎《なげ》いていた。

実際 姫君は痩《や》せてしまったが、

上品な美しさがかえって添ったかのように見える。

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【源氏物語74 第五帖 若紫17】外は みぞれが降る夜。宿直をするということで女王に寄り添い 優しく話しかける。

【古文】

「さりとも、かかる御ほどをいかがはあらむ。

 なほ、ただ世に知らぬ心ざしのほどを見果てたまへ」

とのたまふ。

霰降り荒れて、すごき夜のさまなり。

「いかで、かう人少なに心細うて、過ぐしたまふらむ」

と、うち泣いたまひて、

いと見棄てがたきほどなれば、

「御格子参りね。もの恐ろしき夜のさまなめるを、

 宿直人にてはべらむ。

 人びと、近うさぶらはれよかし」

とて、いと馴れ顔に御帳のうちに入りたまへば、

あやしう思ひのほかにもと、あきれて、誰も誰もゐたり。

乳母は、うしろめたなうわりなしと思へど、

荒ましう聞こえ騒ぐべきならねば、

うち嘆きつつゐたり。

 

若君は、いと恐ろしう、いかならむとわななかれて、

いとうつくしき御肌つきも、そぞろ寒げに思したるを、

らうたくおぼえて、単衣ばかりを押しくくみて、

わが御心地も、かつはうたておぼえたまへど、

あはれにうち語らひたまひて、

「いざ、たまへよ。をかしき絵など多く、

 雛遊びなどする所に」

と、心につくべきことをのたまふけはひの、

いとなつかしきを、幼き心地にも、いといたう怖ぢず、

さすがに、むつかしう寝も入らずおぼえて、

身じろき臥したまへり。

 

夜一夜、風吹き荒るるに、

「げに、かう、おはせざらましかば、

 いかに心細からまし」

「同じくは、よろしきほどにおはしまさましかば」

とささめきあへり。

 

乳母は、うしろめたさに、いと近うさぶらふ。

風すこし吹きやみたるに、夜深う出でたまふも、

ことあり顔なりや。

「いとあはれに見たてまつる御ありさまを、

 今はまして、片時の間もおぼつかなかるべし。

 明け暮れ眺めはべる所に渡したてまつらむ。

 かくてのみは、いかが。もの怖ぢしたまはざりけり」

とのたまへば、

「宮も御迎へになど聞こえのたまふめれど、

 この御四十九日過ぐしてや、など思うたまふる」

と聞こゆれば、

「頼もしき筋ながらも、よそよそにてならひたまへるは、

 同じうこそ疎うおぼえたまはめ。

 今より見たてまつれど、

 浅からぬ心ざしはまさりぬべくなむ」

とて、かい撫でつつ、

かへりみがちにて出でたまひぬ。

 

いみじう霧りわたれる空もただならぬに、

霜はいと白うおきて、

まことの懸想もをかしかりぬべきに、

さうざうしう思ひおはす。

 

【現代文】

「いくら何でも私はこの小さい女王さんを情人にしようとはしない。

 まあ私がどれほど誠実であるかを御覧なさい」

外には霙《みぞれ》が降っていて凄《すご》い夜である。

「こんなに小人数で この寂しい邸《やしき》にどうして住めるのですか」

と言って源氏は泣いていた。

捨てて帰って行けない気がするのであった。

「もう戸をおろしておしまいなさい。

 こわいような夜だから、私が宿直《とのい》の男になりましょう。

 女房方は皆 女王《にょおう》さんの室へ来ていらっしゃい」

と言って、

馴《な》れたことのように女王さんを帳台の中へ抱いてはいった。

だれもだれも意外なことにあきれていた。

乳母は心配をしながらも 普通の闖入者を扱うようにはできぬ相手に

歎息《たんそく》をしながら控えていた。

 

小女王は恐ろしがってどうするのかと慄《ふる》えているので

肌《はだ》も毛穴が立っている。

かわいく思う源氏はささやかな異性を単衣《ひとえ》に巻きくるんで、

それだけを隔てに寄り添っていた。

この所作がわれながら是認しがたいものとは思いながらも

愛情をこめていろいろと話していた。

「ねえ、いらっしゃいよ、おもしろい絵がたくさんある家で、

 お雛様遊びなんかのよくできる私の家《うち》へね」

こんなふうに

小さい人の気に入るような話をしてくれる源氏の柔らかい調子に、

姫君は恐ろしさから次第に解放されていった。

しかし不気味であることは忘れずに、

眠り入ることはなくて身じろぎしながら寝ていた。

 

この晩は夜通し風が吹き荒れていた。

「ほんとうにお客様がお泊まりにならなかったら

 どんなに私たちは心細かったでしょう。

 同じことなら女王様がほんとうの御結婚のできるお年であればね」

などと女房たちはささやいていた。

 

心配でならない乳母は帳台の近くに侍していた。

風の少し吹きやんだ時はまだ暗かったが、

帰る源氏はほんとうの恋人のもとを別れて行く情景に似ていた。

「かわいそうな女王さんとこんなに親しくなってしまった以上、

 私はしばらくの間も

 こんな家へ置いておくことは気がかりでたまらない。

 私の始終住んでいる家《うち》へお移ししよう。

 こんな寂しい生活をばかりしていらっしゃっては

 女王さんが神経衰弱におなりになるから」

と源氏が言った。

 

「宮様もそんなにおっしゃいますが、

 あちらへおいでになることも、

 四十九日が済んでからがよろしかろうと存じております」

「お父様のお邸《やしき》ではあっても、

 小さい時から別の所でお育ちになったのだから、

 私に対するお気持ちと親密さはそう違わないでしょう。

 今からいっしょにいることが

 将来の障《さわ》りになるようなことは断じてない。

 私の愛が根底の深いものになるだけだと思う」

と女王の髪を撫《な》でながら源氏は言って顧みながら去った。

 

深く霧に曇った空も艶《えん》であって、

大地には霜が白かった。

ほんとうの恋の忍び歩きにも適した朝の風景であると思うと、

源氏は少し物足りなかった。

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