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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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【源氏物語74 第五帖 若紫17】外は みぞれが降る夜。宿直をするということで女王に寄り添い 優しく話しかける。

【古文】

「さりとも、かかる御ほどをいかがはあらむ。

 なほ、ただ世に知らぬ心ざしのほどを見果てたまへ」

とのたまふ。

霰降り荒れて、すごき夜のさまなり。

「いかで、かう人少なに心細うて、過ぐしたまふらむ」

と、うち泣いたまひて、

いと見棄てがたきほどなれば、

「御格子参りね。もの恐ろしき夜のさまなめるを、

 宿直人にてはべらむ。

 人びと、近うさぶらはれよかし」

とて、いと馴れ顔に御帳のうちに入りたまへば、

あやしう思ひのほかにもと、あきれて、誰も誰もゐたり。

乳母は、うしろめたなうわりなしと思へど、

荒ましう聞こえ騒ぐべきならねば、

うち嘆きつつゐたり。

 

若君は、いと恐ろしう、いかならむとわななかれて、

いとうつくしき御肌つきも、そぞろ寒げに思したるを、

らうたくおぼえて、単衣ばかりを押しくくみて、

わが御心地も、かつはうたておぼえたまへど、

あはれにうち語らひたまひて、

「いざ、たまへよ。をかしき絵など多く、

 雛遊びなどする所に」

と、心につくべきことをのたまふけはひの、

いとなつかしきを、幼き心地にも、いといたう怖ぢず、

さすがに、むつかしう寝も入らずおぼえて、

身じろき臥したまへり。

 

夜一夜、風吹き荒るるに、

「げに、かう、おはせざらましかば、

 いかに心細からまし」

「同じくは、よろしきほどにおはしまさましかば」

とささめきあへり。

 

乳母は、うしろめたさに、いと近うさぶらふ。

風すこし吹きやみたるに、夜深う出でたまふも、

ことあり顔なりや。

「いとあはれに見たてまつる御ありさまを、

 今はまして、片時の間もおぼつかなかるべし。

 明け暮れ眺めはべる所に渡したてまつらむ。

 かくてのみは、いかが。もの怖ぢしたまはざりけり」

とのたまへば、

「宮も御迎へになど聞こえのたまふめれど、

 この御四十九日過ぐしてや、など思うたまふる」

と聞こゆれば、

「頼もしき筋ながらも、よそよそにてならひたまへるは、

 同じうこそ疎うおぼえたまはめ。

 今より見たてまつれど、

 浅からぬ心ざしはまさりぬべくなむ」

とて、かい撫でつつ、

かへりみがちにて出でたまひぬ。

 

いみじう霧りわたれる空もただならぬに、

霜はいと白うおきて、

まことの懸想もをかしかりぬべきに、

さうざうしう思ひおはす。

 

【現代文】

「いくら何でも私はこの小さい女王さんを情人にしようとはしない。

 まあ私がどれほど誠実であるかを御覧なさい」

外には霙《みぞれ》が降っていて凄《すご》い夜である。

「こんなに小人数で この寂しい邸《やしき》にどうして住めるのですか」

と言って源氏は泣いていた。

捨てて帰って行けない気がするのであった。

「もう戸をおろしておしまいなさい。

 こわいような夜だから、私が宿直《とのい》の男になりましょう。

 女房方は皆 女王《にょおう》さんの室へ来ていらっしゃい」

と言って、

馴《な》れたことのように女王さんを帳台の中へ抱いてはいった。

だれもだれも意外なことにあきれていた。

乳母は心配をしながらも 普通の闖入者を扱うようにはできぬ相手に

歎息《たんそく》をしながら控えていた。

 

小女王は恐ろしがってどうするのかと慄《ふる》えているので

肌《はだ》も毛穴が立っている。

かわいく思う源氏はささやかな異性を単衣《ひとえ》に巻きくるんで、

それだけを隔てに寄り添っていた。

この所作がわれながら是認しがたいものとは思いながらも

愛情をこめていろいろと話していた。

「ねえ、いらっしゃいよ、おもしろい絵がたくさんある家で、

 お雛様遊びなんかのよくできる私の家《うち》へね」

こんなふうに

小さい人の気に入るような話をしてくれる源氏の柔らかい調子に、

姫君は恐ろしさから次第に解放されていった。

しかし不気味であることは忘れずに、

眠り入ることはなくて身じろぎしながら寝ていた。

 

この晩は夜通し風が吹き荒れていた。

「ほんとうにお客様がお泊まりにならなかったら

 どんなに私たちは心細かったでしょう。

 同じことなら女王様がほんとうの御結婚のできるお年であればね」

などと女房たちはささやいていた。

 

心配でならない乳母は帳台の近くに侍していた。

風の少し吹きやんだ時はまだ暗かったが、

帰る源氏はほんとうの恋人のもとを別れて行く情景に似ていた。

「かわいそうな女王さんとこんなに親しくなってしまった以上、

 私はしばらくの間も

 こんな家へ置いておくことは気がかりでたまらない。

 私の始終住んでいる家《うち》へお移ししよう。

 こんな寂しい生活をばかりしていらっしゃっては

 女王さんが神経衰弱におなりになるから」

と源氏が言った。

 

「宮様もそんなにおっしゃいますが、

 あちらへおいでになることも、

 四十九日が済んでからがよろしかろうと存じております」

「お父様のお邸《やしき》ではあっても、

 小さい時から別の所でお育ちになったのだから、

 私に対するお気持ちと親密さはそう違わないでしょう。

 今からいっしょにいることが

 将来の障《さわ》りになるようなことは断じてない。

 私の愛が根底の深いものになるだけだと思う」

と女王の髪を撫《な》でながら源氏は言って顧みながら去った。

 

深く霧に曇った空も艶《えん》であって、

大地には霜が白かった。

ほんとうの恋の忍び歩きにも適した朝の風景であると思うと、

源氏は少し物足りなかった。

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