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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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【源氏75 第五帖 若紫18】源氏、兵部卿の宮は荒れた邸にいる女王に心動かされる。

【古文】

いと忍びて通ひたまふ所の道なりけるを思し出でて、

門うちたたかせたまへど、聞きつくる人なし。

かひなくて、御供に声ある人して歌はせたまふ。

「朝ぼらけ霧立つ空のまよひにも

 行き過ぎがたき妹が門かな」

と、二返りばかり歌ひたるに、

よしある下仕ひを出だして、

「立ちとまり霧のまがきの過ぎうくは

 草のとざしにさはりしもせじ」

と言ひかけて、入りぬ。

また人も出で来ねば、帰るも情けなけれど、

明けゆく空もはしたなくて殿へおはしぬ。

 

をかしかりつる人のなごり恋しく、

独り笑みしつつ臥したまへり。

日高う大殿籠もり起きて、文やりたまふに、

書くべき言葉も例ならねば、

筆うち置きつつすさびゐたまへり。

をかしき絵などをやりたまふ。

 

かしこには、今日しも、宮わたりたまへり。

年ごろよりもこよなう荒れまさり、

広うもの古りたる所の、いとど人少なに久しければ、

見わたしたまひて、

「かかる所には、いかでか、

 しばしも幼き人の過ぐしたまはむ。

 なほ、かしこに渡したてまつりてむ。

 何の所狭きほどにもあらず。

 乳母は、曹司などしてさぶらひなむ。

 君は、若き人びとあれば、もろともに遊びて、

 いとようものしたまひなむ」

などのたまふ。

 

近う呼び寄せたてまつりたまへるに、

かの御移り香の、

いみじう艶に染みかへらせたまへれば、

「をかしの御匂ひや。御衣はいと萎えて」

と、心苦しげに思いたり。

 

「年ごろも、

 あつしくさだ過ぎたまへる人に添ひたまへるよ、

 かしこにわたりて見ならしたまへなど、ものせしを、

 あやしう疎みたまひて、人も心置くめりしを、

 かかる折にしもものしたまはむも、心苦しう」

などのたまへば、

「何かは。心細くとも、

 しばしはかくておはしましなむ。

 すこしものの心思し知りなむにわたらせたまはむこそ、

 よくははべるべけれ」

と聞こゆ。

 

「夜昼恋ひきこえたまふに、

 はかなきものもきこしめさず」

とて、

げにいといたう面痩せたまへれど、

いとあてにうつくしく、

なかなか見えたまふ。

 

【現代文】

近ごろ隠れて通っている人の家が途中にあるのを思い出して、

その門をたたかせたが内へは聞こえないらしい。

しかたがなくて供の中から声のいい男を選んで歌わせた。

『朝ぼらけ 霧立つ空の 迷ひにも

 行き過ぎがたき 妹《いも》が門かな』

 二度繰り返させたのである。

気のきいたふうをした下仕《しもづか》えの女中を出して、

『立ちとまり 霧の籬《まがき》の過ぎうくば

 草の戸ざしに 障《さは》りしもせじ』

と言わせた。

女はすぐに門へはいってしまった。

それきりだれも出て来ないので、

帰ってしまうのも冷淡な気がしたが、

夜がどんどん明けてきそうで、

きまりの悪さに二条の院へ車を進めさせた。

 

かわいかった小女王を思い出して、

源氏は《ひと》り笑みをしながら又寝《またね》をした。

朝おそくなって起きた源氏は手紙をやろうとしたが、

書く文章も普通の恋人扱いにはされないので、

筆を休め休め考えて書いた。

よい絵なども贈った。

 

今日は按察使《あぜち》大納言家

兵部卿《ひょうぶきょう》の宮が来ておいでになった。

以前よりもずっと邸が荒れて、

広くて古い家に小人数でいる寂しさが宮のお心を動かした。

「こんな所にしばらくでも小さい人がいられるものではない。

 やはり私の邸のほうへつれて行こう。

 たいしたむずかしい所ではないのだよ。

 乳母《めのと》は部屋をもらって住んでいればいいし、

女王は何人も若い子がいるから

いっしょに遊んでいれば非常にいいと思う」

などとお言いになった。

 

そばへお呼びになった小女王の着物には

源氏の衣服の匂《にお》いが深く沁《し》んでいた

「いい匂いだね。けれど着物は古くなっているね」

心苦しく思召《おぼしめ》す様子だった。

 

「今までからも病身な年寄りとばかりいっしょにいるから、

 時々は邸のほうへよこして、

 母と子の情合いのできるようにするほうがよいと

 私は言ったのだけれど、

 絶対的におばあさんは それをおさせにならなかったから、

 邸のほうでも反感を起こしていた。

 そしてついにその人が亡くなったからといって

 つれて行くのは済まないような気もする」

と宮がお言いになる。

 

「そんなに早くあそばす必要はございませんでしょう。

 お心細くても当分はこうしていらっしゃいますほうが

 よろしゅうございましょう。

 少し物の理解がおできになるお年ごろになりましてから

 おつれなさいますほうがよろしいかと存じます」

少納言はこう答えていた。

 

「夜も昼もおばあ様が恋しくて 泣いてばかりいらっしゃいまして、

 召し上がり物なども少のうございます」

とも歎《なげ》いていた。

実際 姫君は痩《や》せてしまったが、

上品な美しさがかえって添ったかのように見える。

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