2023-10-23から1日間の記事一覧
「今までとまりはべるがいと憂きを、 かかる御使の蓬生の露分け入りたまふにつけても、 いと恥づかしうなむ」 とて、げにえ堪ふまじく泣いたまふ。 「『参りては、いとど心苦しう、心肝も尽くるやうになむ』と、 典侍の奏したまひしを、 もの思うたまへ知ら…
限りあれば、例の作法にをさめたてまつるを、 母北の方、同じ煙にのぼりなむと、泣きこがれたまひて、 御送りの女房の車に慕ひ乗りたまひて、 愛宕といふ所にいといかめしうその作法したるに、 おはし着きたる心地、いかばかりかはありけむ。 「むなしき御骸…
その年の夏、 御息所、はかなき心地にわづらひて、 まかでなむとしたまふを、 暇さらに許させたまはず。 年ごろ、常の篤しさになりたまへれば、御目馴れて、 「なほしばしこころみよ」 とのみのたまはするに、 日々に重りたまひて、 ただ五六日のほどにいと…
御局は桐壺なり。 あまたの御方がたを過ぎさせたまひて、 ひまなき御前渡りに、 人の御心を尽くしたまふも、 げにことわりと見えたり。 参う上りたまふにも、あまりうちしきる折々は、 打橋、渡殿のここかしこの道に、 あやしきわざをしつつ、 御送り迎への…
初めよりおしなべての上宮仕へしたまふべき際にはあらざりき。 おぼえいとやむごとなく、 上衆めかしけれど、 わりなくまつはさせたまふあまりに、 さるべき御遊びの折々、 何事にもゆゑある事のふしぶしには、 まづ参う上らせたまふ。 ある時には大殿籠もり…
いづれの御時にか、 女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、 いとやむごとなき際にはあらぬが、 すぐれて時めきたまふありけり。 はじめより我はと思ひ上がりたまへる御方がた、 めざましきものにおとしめ嫉みたまふ。 同じほど、それより下臈の更衣た…
ともかくもならむを御覧じはてむと思し召すに、 「今日始むべき祈りども、 さるべき人びとうけたまはれる、今宵より」と、 聞こえ急がせば、 わりなく思ほしながらまかでさせたまふ。 御胸つとふたがりて、つゆまどろまれず、 明かしかねさせたまふ。 御使の…