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魔性の女の出現【源氏物語 45 第4帖 夕顔11】魔性の女が 恨み言を言いながら女君に手に掛ける。源氏は、随身に魔除けの弦打ちを命じ、惟光を呼ぶ

「己がいとめでたしと見たてまつるをば、

 尋ね思ほさで、

 かく、ことなることなき人を率ておはして、

 時めかしたまふこそ、いとめざましくつらけれ」

とて、この御かたはらの人をかき起こさむとす、

と見たまふ。

 

物に襲はるる心地して、

おどろきたまへれば、火も消えにけり。

うたて思さるれば、太刀を引き抜きて、

うち置きたまひて、右近を起こしたまふ。

これも恐ろしと思ひたるさまにて、

参り寄れり。

「渡殿なる宿直人起こして、『紙燭さして参れ』と言へ」

とのたまへば、

「いかでかまからむ。暗うて」

と言へば、

「あな、若々し」

と、うち笑ひたまひて、

手をたたきたまへば、

山彦の答ふる声、

いとうとまし。

人え聞きつけで参らぬに、

この女君、いみじくわななきまどひて、

いかさまにせむと思へり。

汗もしとどになりて、

我かの気色なり。

 

「物怖ぢをなむわりなくせさせたまふ本性にて、

いかに思さるるにか」と、

右近も聞こゆ。

「いとか弱くて、昼も空をのみ見つるものを、いとほし」

と思して、

「我、人を起こさむ。

 手たたけば、山彦の答ふる、いとうるさし。

 ここに、しばし、近く」

とて、右近を引き寄せたまひて、

西の妻戸に出でて、

戸を押し開けたまへれば、

渡殿の火も消えにけり。

 

風すこしうち吹きたるに、

人は少なくて、さぶらふ限りみな寝たり。

この院の預りの子、

むつましく使ひたまふ若き男、

また上童一人、例の随身ばかりぞありける。

召せば、御答へして起きたれば、

 

「紙燭さして参れ。

随身も、弦打して、絶えず声づくれ

 と仰せよ。

 人離れたる所に、心とけて寝ぬるものか。

 惟光朝臣の来たりつらむは」と、

 問はせたまへば、

 

「さぶらひつれど、仰せ言もなし。

 暁に御迎へに参るべきよし申してなむ、

 まかではべりぬる」

と聞こゆ。

この、かう申す者は、滝口なりければ、

弓弦いとつきづきしくうち鳴らして、

「火あやふし」

と言ふ言ふ、

預りが曹司の方に去ぬなり。

内裏を思しやりて、

「名対面は過ぎぬらむ、滝口の宿直奏し、今こそ」と、

推し量りたまふは、

まだ、いたう更けぬにこそは。

 

帰り入りて、探りたまへば

女君はさながら臥して、

右近はかたはらにうつぶし臥したり。

「こはなぞ。あな、もの狂ほしの物怖ぢや。

 荒れたる所は、狐などやうのものの、

 人を脅やかさむとて、

 け恐ろしう思はするならむ。

 まろあれば、さやうのものには脅されじ」

とて、引き起こしたまふ。

 

「私がどんなにあなたを愛しているかしれないのに、

   私を愛さないで、こんな平凡な人をつれていらっしって

  愛撫《あいぶ》なさるのはあまりにひどい。恨めしい方」

と言って横にいる女に手をかけて起こそうとする。

こんな光景を見た。

 

苦しい襲われた気持ちになって すぐ起きると、

その時に灯《ひ》が消えた。

不気味なので、太刀《たち》を引き抜いて枕もとに置いて、

それから右近を起こした。

右近も恐ろしくてならぬというふうで近くへ出て来た。

「渡殿《わたどの》にいる宿直《とのい》の人を起こして、

 蝋燭《ろうそく》をつけて来るように言うがいい」

「どうしてそんな所へまで参れるものでございますか、 暗うて」

「子供らしいじゃないか」

笑って源氏が手をたたくとそれが反響になった。

限りない気味悪さである。

しかもその音を聞きつけて来る者はだれもない。

夕顔は非常にこわがってふるえていて、

どうすればいいだろうと思うふうである。

汗をずっぷりとかいて、意識のありなしも疑わしい。

 

「非常に物恐れをなさいます御性質ですから、

   どんなお気持ちがなさるのでございましょうか」

と右近も言った。

弱々しい人で 今日の昼間も部屋の中を見まわすことができずに

空をばかりながめていたのであるからと思うと、

源氏はかわいそうでならなかった。

「私が行って人を起こそう。

   手をたたくと山彦《やまびこ》がしてうるさくてならない。

   しばらくの間ここへ寄っていてくれ」

と言って、

右近を寝床のほうへ引き寄せておいて、

両側の妻戸の口へ出て、

戸を押しあけたのと同時に渡殿についていた灯も消えた。

 

風が少し吹いている。

こんな夜に侍者は少なくて、

しかもありたけの人は寝てしまっていた。

院の預かり役の息子で、

平生 源氏が手もとで使っていた若い男、

それから侍童が一人、例の随身

それだけが宿直《とのい》をしていたのである。

源氏が呼ぶと返辞をして起きて来た。

 

「蝋燭《ろうそく》をつけて参れ。

  随身に弓の絃打《つるう》ちをして

  絶えず声を出して魔性に備えるように命じてくれ。

 こんな寂しい所で安心をして寝ていていいわけはない。

 先刻《せんこく》惟光が来たと言っていたが、 どうしたか」

 

「参っておりましたが、御用事もないから、

 夜明けにお迎えに参ると申して帰りましてございます」

こう源氏と問答をしたのは、

御所の滝口に勤めている男であったから、

専門家的に弓絃《ゆづる》を鳴らして、

「火 危《あぶな》し、火危し」

と言いながら、

父である預かり役の住居《すまい》のほうへ行った。

源氏はこの時刻の御所を思った。

殿上《てんじょう》の宿直役人が

姓名を奏上する名対面はもう終わっているだろう、

滝口の武士の宿直の奏上があるころであると、

こんなことを思ったところをみると、

まだそう深更でなかったに違いない。

 

寝室へ帰って、

暗がりの中を手で探ると夕顔はもとのままの姿で寝ていて、

右近がそのそばでうつ伏せになっていた。

「どうしたのだ。気違いじみたこわがりようだ。

   こんな荒れた家などというものは 、

   狐《きつね》などが人をおどしてこわがらせるのだよ。

   私がおればそんなものにおどかされはしないよ」

と言って、

源氏は右近を引き起こした。

 

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