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空蝉は夫の任地に立つ【源氏物語 56 第4帖 夕顔22 完】空蝉は夫と共に四国に旅立つことになった。源氏は多くの選別と共に空蝉の抜け殻といった夏の衣を返した

伊予介、神無月の朔日ごろに下る。

女房の下らむにとて、

たむけ心ことにせさせたまふ。

また、内々にもわざとしたまひて、

こまやかにをかしきさまなる櫛、扇多くして、

幣などわざとがましくて、

かの小袿も遣はす。

「逢ふまでの形見ばかりと見しほどに

 ひたすら袖の朽ちにけるかな」

こまかなることどもあれど、うるさければ書かず。

 

御使、帰りにけれど、

小君して、

小袿の御返りばかりは聞こえさせたり。

「蝉の羽もたちかへてける夏衣

 かへすを見てもねは泣かれけり」

「思へど、あやしう人に似ぬ心強さにても、

 ふり離れぬるかな」

と思ひ続けたまふ。

 

今日ぞ冬立つ日なりけるも、しるく、

うちしぐれて、

空の気色いとあはれなり。

眺め暮らしたまひて、

「過ぎにしも今日別るるも二道に

 行く方知らぬ秋の暮かな」

なほ、

かく人知れぬことは苦しかりけりと、

思し知りぬらむかし。

 

かやうのくだくだしきことは、

あながちに隠ろへ忍びたまひしもいとほしくて、

みな漏らしとどめたるを、

「など、帝の御子ならむからに、

 見む人さへ、

 かたほならずものほめがちなる」と、

作りごとめきてとりなす人ものしたまひければなむ。

あまりもの言ひさがなき罪、

さりどころなく。
 

伊予介《いよのすけ》が十月の初めに四国へ立つことになった。

細君をつれて行くことになっていたから、

普通の場合よりも多くの餞別《せんべつ》品が源氏から贈られた。

またそのほかにも秘密な贈り物があった。

ついでに空蝉《うつせみ》の脱殻《ぬけがら》と言った

夏の薄衣《うすもの》も返してやった。

『逢《あ》ふまでの 形見ばかりと

 見しほどに ひたすら袖《そで》の 朽ちにけるかな』

細々《こまごま》しい手紙の内容は省略する。

 

贈り物の使いは帰ってしまったが、

そのあとで空蝉は小君《こぎみ》を使いにして

小袿《こうちぎ》の返歌だけをした。

『蝉の羽もたち 変へてける 夏ごろも

 かへすを見ても 音《ね》は泣かれけり』

源氏は空蝉を思うと、

普通の女性のとりえない態度をとり続けた女とも

これで別れてしまうのだと歎《なげ》かれて、

運命の冷たさというようなものが感ぜられた。

 

今日《きょう》から冬の季にはいる日は、いかにもそれらしく、

時雨《しぐれ》がこぼれたりして、

空の色も身に沁《し》んだ。終日源氏は物思いをしていて、

『過ぎにしも 今日別るるも 二みちに

 行く方《かた》知らぬ 秋の暮《くれ》かな』

 などと思っていた。

秘密な恋をする者の苦しさが源氏にわかったであろうと思われる。

 

こうした空蝉とか夕顔とかいうような

はなやかでない女と源氏のした恋の話は、

源氏自身が非常に隠していたことがあるからと思って、

最初は書かなかったのであるが、

帝王の子だからといって、

その恋人までが皆完全に近い女性で、

いいことばかりが書かれているではないかといって、

仮作したもののように言う人があったから、

これらを補って書いた。

なんだか源氏に済まない気がする。

〜夕顔 完 〜

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