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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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病の源氏は北山の聖人に祈祷してもらう【源氏物語 57 第5帖 若紫1】散歩に出た時 若い女房や女童がいる僧都の屋敷を見つけた

瘧病にわづらひたまひて、

よろづにまじなひ加持など参らせたまへど、

しるしなくて、あまたたびおこりたまひければ、

ある人、

「北山になむ、なにがし寺といふ所に、

 かしこき行ひ人はべる。

 去年の夏も世におこりて、

 人びとまじなひわづらひしを、

 やがてとどむるたぐひ、

 あまたはべりき。

 ししこらかしつる時はうたてはべるを、

 とくこそ試みさせたまはめ」

など聞こゆれば、

召しに遣はしたるに、

「老いかがまりて、室の外にもまかでず」

と申したれば、

 

「いかがはせむ。いと忍びてものせむ」

とのたまひて、

御供にむつましき四、五人ばかりして、

まだ暁におはす。

やや深う入る所なりけり。

三月のつごもりなれば、

京の花盛りはみな過ぎにけり。

 

山の桜はまだ盛りにて、

入りもておはするままに、

霞のたたずまひもをかしう見ゆれば、

かかるありさまもならひたまはず、

所狭き御身にて、

めづらしう思されけり。

寺のさまもいとあはれなり。

峰高く、深き巖屋の中にぞ、

聖入りゐたりける。

 

登りたまひて、誰とも知らせたまはず、

いといたうやつれたまへれど、

しるき御さまなれば、

「あな、かしこや。

 一日、召しはべりしにやおはしますらむ。

 今は、この世のことを思ひたまへねば、

 験方の行ひも捨て忘れてはべるを、

 いかで、かうおはしましつらむ」

と、おどろき騒ぎ、

うち笑みつつ見たてまつる。

いと尊き大徳なりけり。

 

さるべきもの作りて、すかせたてまつり、

加持など参るほど、日高くさし上がりぬ。

 

すこし立ち出でつつ見渡したまへば、

高き所にて、ここかしこ、

僧坊どもあらはに見おろさるる、

ただこのつづら折の下に、

同じ小柴なれど、うるはしくし渡して、

清げなる屋、廊など続けて、

木立いとよしあるは、

 

「何人の住むにか」

と問ひたまへば、御供なる人、

「これなむ、なにがし僧都の、

 二年籠もりはべる方にはべるなる」

「心恥づかしき人住むなる所にこそあなれ。

 あやしうも、あまりやつしけるかな。

 聞きもこそすれ」

などのたまふ。

 

清げなる童などあまた出で来て、

閼伽たてまつり、

花折りなどするもあらはに見ゆ。

 

「かしこに、女こそありけれ」

僧都は、よも、さやうには、据ゑたまはじを」

「いかなる人ならむ」

と口々言ふ。

下りて覗くもあり。

「をかしげなる女子ども、若き人、

 童女なむ見ゆる」

と言ふ。

 

源氏は瘧病《わらわやみ》にかかっていた。

いろいろとまじないもし、

僧の加持《かじ》も受けていたが効験《ききめ》がなくて、

この病の特徴で発作的にたびたび起こってくるのをある人が、

「北山の某《なにがし》という寺に非常に上手な修験僧がおります。

 去年の夏この病気がはやりました時など、

 まじないも効果《ききめ》がなく困っていた人が

 ずいぶん救われました。

 病気をこじらせますと癒《なお》りにくくなりますから、

 早くためしてごらんになったらいいでしょう」

こんなことを言って勧めたので、

源氏はその山から修験者を自邸へ招こうとした。

 

「老体になっておりまして、

 岩窟を一歩出ることもむずかしいのですから」

僧の返辞《へんじ》はこんなだった。

「それではしかたがない、

 そっと微行《しのび》で行ってみよう」

こう言っていた源氏は、

親しい家司《けいし》四、五人だけを伴って、

夜明けに京を立って出かけたのである。

郊外のやや遠い山である。

これは三月の三十日だった。

 

京の桜はもう散っていたが、途中の花はまだ盛りで、

山路を進んで行くにしたがって

渓々《たにだに》をこめた霞《かすみ》にも

都の霞にない美があった。

窮屈きゅうくつな境遇の源氏はこうした山歩きの経験がなくて、

何事も皆珍しくおもしろく思われた。

修験僧の寺は身にしむような清さがあって、

高い峰を負った巌窟《いわや》の中に

聖人《しょうにん》ははいっていた。

 

源氏は自身のだれであるかを言わず、

服装をはじめ思い切って簡単にして来ているのであるが、

迎えた僧は言った。

「あ、もったいない、

 先日お召しになりました方様でいらっしゃいましょう。

 もう私はこの世界のことは考えないものですから、

 修験の術も忘れておりますのに、

 どうしてまあわざわざおいでくだすったのでしょう」

驚きながらも笑《えみ》を含んで源氏を見ていた。

非常に偉い僧なのである。

 

源氏を形どった物を作って、

瘧病《わらわやみ》をそれに移す祈祷《きとう》をした。

加持《かじ》などをしている時分にはもう日が高く上っていた。

 

源氏はその寺を出て少しの散歩を試みた。

その辺をながめると、ここは高い所であったから、

そこここに構えられた多くの僧坊が見渡されるのである。

螺旋《らせん》状になった路《みち》のついたこの峰のすぐ下に、

それもほかの僧坊と同じ小柴垣《こしばがき》ではあるが、

目だってきれいに廻《めぐ》らされていて、

よい座敷風の建物と廊とが優美に組み立てられ、

庭の作りようなどもきわめて凝《こ》った一構えがあった。

 

「あれはだれの住んでいる所なのかね」

と源氏が問うた。

「これが、某 僧都《そうず》が

もう二年ほど引きこもっておられる坊でございます」

「そうか、あのりっぱな僧都、あの人の家なんだね。

あの人に知れてはきまりが悪いね、こんな体裁で来ていて」

などと、源氏は言った。

 

美しい侍童などがたくさん庭へ出て来て

仏の閼伽棚《あかだな》に

水を盛ったり花を供えたりしているのも よく見えた。

 

「あすこの家に女がおりますよ。

 あの僧都がよもや隠し妻を置いてはいらっしゃらないでしょうが、

 いったい何者でしょう」

こんなことを従者が言った。

崖《がけ》を少しおりて行ってのぞく人もある。

美しい女の子や若い女房やら召使の童女やらが見えると言った。

 

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