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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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【源氏79 第五帖 若紫22】女王は「もう乳母と寝てはいけないよ」と源氏に言われ悲しがって泣き寝をする。源氏は 面白い絵や道具を持ってきて女王の機嫌を取っていた。

【🪻古文】

少納言がもとに寝む」

とのたまふ声、いと若し。

「今は、さは大殿籠もるまじきぞよ」

と教へきこえたまへば、

いとわびしくて泣き臥したまへり。

乳母はうちも臥されず、

ものもおぼえず起きゐたり。

 

明けゆくままに、見わたせば、

御殿の造りざま、しつらひざま、

さらにも言はず、

庭の砂子も玉を重ねたらむやうに見えて、

かかやく心地するに、

はしたなく思ひゐたれど、

こなたには女などもさぶらはざりけり。

け疎き客人などの参る折節の方なりければ、

男どもぞ御簾の外にありける。

 

かく、人迎へたまへりと、聞く人、

「誰れならむ。おぼろけにはあらじ」

と、ささめく。

御手水、御粥など、こなたに参る。

日高う寝起きたまひて、

「人なくて、悪しかめるを、さるべき人びと、

 夕づけてこそは迎へさせたまはめ」

とのたまひて、対に童女召しにつかはす。

「小さき限り、ことさらに参れ」

とありければ、いとをかしげにて、

四人参りたり。

 

君は御衣にまとはれて臥したまへるを、

せめて起こして、

「かう、心憂くなおはせそ。

 すずろなる人は、かうはありなむや。

 女は心柔らかなるなむよき」

など、今より教へきこえたまふ。

 

御容貌は、さし離れて見しよりも、清らにて、

なつかしううち語らひつつ、

をかしき絵、遊びものども取りに遣はして、

見せたてまつり、

御心につくことどもをしたまふ。

やうやう起きゐて見たまふに、

鈍色のこまやかなるが、

うち萎えたるどもを着て、

何心なくうち笑みなどしてゐたまへるが、

いとうつくしきに、我もうち笑まれて見たまふ。

 

東の対に渡りたまへるに、

立ち出でて、庭の木立、

池の方など覗きたまへば、

霜枯れの前栽、絵に描けるやうにおもしろくて、

見も知らぬ四位、五位こきまぜに、

隙なう出で入りつつ、

「げに、をかしき所かな」

と思す。

御屏風どもなど、いとをかしき絵を見つつ、

慰めておはするもはかなしや。

 

君は、二、三日、内裏へも参りたまはで、

この人をなつけ語らひきこえたまふ。

やがて本にと思すにや、

手習、絵などさまざまに書きつつ、

見せたてまつりたまふ。

いみじうをかしげに書き集めたまへり。

「武蔵野と言へばかこたれぬ」

と、紫の紙に書いたまへる墨つきの、

いとことなるを取りて見ゐたまへり。

すこし小さくて、

「ねは見ねどあはれとぞ思ふ武蔵野の

 露分けわぶる草のゆかりを」

とあり。

「いで、君も書いたまへ」

とあれば、

「まだ、ようは書かず」

とて、見上げたまへるが、

何心なくうつくしげなれば、

うちほほ笑みて、

 

「よからねど、むげに書かぬこそ悪ろけれ。

 教へきこえむかし」

とのたまへば、

うちそばみて書いたまふ手つき、

筆とりたまへるさまの幼げなるも、

らうたうのみおぼゆれば、

心ながらあやしと思す。

 

【🪻現代文】

少納言の所で私は寝るのよ」

子供らしい声で言う。

「もうあなたは乳母《めのと》などと寝るものではありませんよ」

と源氏が教えると、悲しがって泣き寝をしてしまった。

乳母は眠ることもできず、ただむやみに泣かれた。

 

明けてゆく朝の光を見渡すと、

建物や室内の装飾はいうまでもなくりっぱで、

庭の敷き砂なども玉を重ねたもののように美しかった。

少納言は自身が貧弱に思われてきまりが悪かったが、

この御殿には女房がいなかった。

あまり親しくない客などを迎えるだけの座敷になっていたから、

男の侍だけが縁の外で用を聞くだけだった。

 

そうした人たちは新たに源氏が迎え入れた女性のあるのを聞いて、

「だれだろう、よほどお好きな方なんだろう」

などとささやいていた。

源氏の洗面の水も、朝の食事もこちらへ運ばれた。

遅くなってから起きて、源氏は少納言に、

「女房たちがいないでは不自由だろうから、

 あちらにいた何人かを夕方ごろに迎えにやればいい」

と言って、

それから特に小さい者だけが来るようにと

東の対のほうへ童女を呼びにやった。

しばらくして愛らしい姿の子が四人来た。

 

女王は着物にくるまったままでまだ横になっていたのを

源氏は無理に起こして、

「私に意地悪をしてはいけませんよ。

 薄情な男は決してこんなものじゃありませんよ。

 女は気持ちの柔らかなのがいいのですよ」

もうこんなふうに教え始めた。

 

姫君の顔は少し遠くから見ていた時よりもずっと美しかった。

気に入るような話をしたり、

おもしろい絵とか遊び事をする道具とかを

東の対へ取りにやるとかして、

源氏は女王の機嫌を直させるのに骨を折った。

やっと起きて喪服のやや濃い鼠《ねずみ》の服の

着古して柔らかになったのを着た姫君の顔に

笑みが浮かぶようになると、

源氏の顔にも自然笑みが上った。

 

源氏が東の対へ行ったあとで姫君は寝室を出て、

木立ちの美しい築山《つきやま》や

池のほうなどを 御簾《みす》の中からのぞくと、

ちょうど霜枯れ時の庭の植え込みが描いた絵のようによくて、

平生見ることの少ない黒の正装をした四位や、

赤を着た五位の官人がまじりまじりに出はいりしていた。

源氏が言っていたように  

ほんとうにここはよい家であると女王は思った。

屏風にかかれたおもしろい絵などを見てまわって、

女王はたよりない今日の心の慰めにしているらしかった。

 

源氏は二、三日御所へも出ずにこの人をなつけるのに一所懸命だった。

手本帳に綴《と》じさせるつもりの字や絵を

いろいろに書いて見せたりしていた。

皆美しかった。

「知らねども むさし野と云《い》へば かこたれぬ

 よしやさこそは 紫の故《ゆゑ》

✳︎ 行ったこともないが、武蔵野と聞くとためいきが出る。

  そうだ、そこにはえている紫草なつかしいから。

という歌の紫の紙に書かれた ことによくできた一枚を 

手に持って姫君はながめていた。

また少し小さい字で、

ねは見ねど 哀れとぞ思ふ 武蔵野《むさしの》の

露分けわぶる 草のゆかりを  

とも書いてある。

「あなたも書いてごらんなさい」

と源氏が言うと、

「まだよくは書けませんの」

見上げながら言う女王の顔が無邪気でかわいかったから、

源氏は微笑をして言った。

 

「まずくても書かないのはよくない。教えてあげますよ」

からだをすぼめるようにして字をかこうとする形も、

筆の持ち方の子供らしいのもただかわいくばかり思われるのを、

源氏は自分の心ながら不思議に思われた。

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