まみなどもいとたゆげにて、
いとどなよなよと、
我かの気色にて臥したれば、
いかさまにと思し召しまどはる。
輦車の宣旨などのたまはせても、
また入らせたまひて、
さらにえ許させたまはず。
「限りあらむ道にも、後れ先立たじと、
契らせたまひけるを。
さりとも、うち捨てては、え行きやらじ」
とのたまはするを、
女もいといみじと、見たてまつりて、
「限りとて 別るる道の 悲しきに
いかまほしきは 命なりけり
いとかく思ひたまへましかば」
と、息も絶えつつ、
聞こえまほしげなることはありげなれど、
いと苦しげにたゆげなれば、
かくながら‥
目つきもよほどだるそうで、
平生からなよなよとした人が
いっそう弱々しいふうになって寝ているのであったから、
これはどうなることであろうという不安が
大御心《おおみこころ》を襲うた。
更衣が宮中から輦車《れんしゃ》で出てよい御許可の宣旨《せんじ》を
役人へお下しになったりあそばされても、
また病室へお帰りになると今行くということをお許しにならない。
「死の旅にも同時に出るのが
われわれ二人であるとあなたも約束したのだから、
私を置いて家《うち》へ行ってしまうことはできないはずだ」
と、帝がお言いになると、
そのお心持ちのよくわかる女も、
非常に悲しそうにお顔を見て、
「限りとて 別るる道の 悲しきに
いかまほしきは 命なりけり
死がそれほど私に迫って来ておりませんのでしたら」
これだけのことを息も絶え絶えに言って、
なお帝にお言いしたいことがありそうであるが、
まったく気力はなくなってしまった。
🌙🎼蒼白な月影 written by まんぼう二等兵🌙
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