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源氏物語&古典文学を聴く🪷〜少納言チャンネル&古文🌿

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荒れた何某の院の庭を眺める。【源氏物語 43 第4帖 夕顔9】け近き草木などは、ことに見所なく、みな秋の野らにて、池も水草に埋もれたれば、いとけうとげになりにける所かな。

預り召し出づるほど、

荒れたる門の忍ぶ草茂りて見上げられたる、

たとしへなく木暗し。

霧も深く、露けきに、

簾をさへ上げたまへれば、

御袖もいたく濡れにけり。

 

「まだかやうなることを慣らはざりつるを、

 心尽くしなることにもありけるかな。

 いにしへもかくやは人の惑ひけむ

 我がまだ知らぬしののめの道

 慣らひたまへりや」

とのたまふ。

女、恥ぢらひて、

山の端の心も知らで行く月は

 うはの空にて影や絶えなむ

 心細く」

とて、もの恐ろしうすごげに思ひたれば、

「かのさし集ひたる住まひの慣らひならむ」

と、をかしく思す。

 

御車入れさせて、

西の対に御座などよそふほど、

高欄に御車ひきかけて立ちたまへり。

右近、艶なる心地して、

来し方のことなども、

人知れず思ひ出でけり。

預りいみじく経営しありく気色に、

この御ありさま知りはてぬ。

 

ほのぼのと物見ゆるほどに、

下りたまひぬめり。

かりそめなれど、清げにしつらひたり。

 

「御供に人もさぶらはざりけり。不便なるわざかな」

とて、むつましき下家司にて、

殿にも仕うまつる者なりければ、

参りよりて、

「さるべき人召すべきにや」

など、申さすれど、

「ことさらに人来まじき隠れ家求めたるなり。

 さらに心よりほかに漏らすな」

と口がためさせたまふ。

 

御粥など急ぎ参らせたれど、

取り次ぐ御まかなひうち合はず。

まだ知らぬことなる御旅寝に、

「息長川」と契りたまふことよりほかのことなし。

日たくるほどに起きたまひて、

格子手づから上げたまふ。

いといたく荒れて、

人目もなくはるばると見渡されて、

木立いとうとましくものふりたり。

け近き草木などは、ことに見所なく、

みな秋の野らにて、池も水草に埋もれたれば、

いとけうとげになりにける所かな。

 

別納の方にぞ、曹司などして、

人住むべかめれど、こなたは離れたり。

「けうとくもなりにける所かな。

 さりとも、鬼なども我をば見許してむ」

とのたまふ。

 顔はなほ隠したまへれど、女のいとつらしと思へれば、

「げに、かばかりにて隔てあらむも、

 ことのさまに違ひたり」

と思して‥

 

呼び出した院の預かり役の出て来るまで留めてある車から、

忍ぶ草の生い茂った門の廂《ひさし》が見上げられた。

たくさんにある大木が暗さを作っているのである。

霧も深く降っていて空気の湿っぽいのに

車の簾《すだれ》を上げさせてあったから源氏の袖も

そのうちべったりと濡れてしまった。

 

「私にははじめての経験だが妙に不安なものだ。

『いにしへも かくやは人の 惑ひけん

 わがまだしらぬ しののめの道』

  前にこんなことがありましたか」

 と聞かれて女は恥ずかしそうだった。

『山の端《は》の 心も知らず 行く月は

 上《うは》の空にて 影や消えなん』

    心細うございます、私は」

凄《すご》さに女がおびえてもいるように見えるのを、

源氏はあの小さい家におおぜい住んでいた人なのだから

道理であると思っておかしかった。

 

門内へ車を入れさせて、

西の対《たい》に仕度をさせている間、

高欄に車の柄を引っかけて源氏らは庭にいた。

右近は艶《えん》な情趣を味わいながら

女主人の過去の恋愛時代のある場面なども思い出されるのであった。

 

預かり役がみずから出てする客人の扱いが

丁寧きわまるものであることから、

右近にはこの風流男の何者であるかがわかった。

物の形がほのぼの見えるころに家へはいった。

にわかな仕度ではあったが体裁よく座敷がこしらえてあった。

「だれというほどの人がお供しておらないなどとは、

 どうもいやはや」

などといって預かり役は

始終出入りする源氏の下家司《しもけいし》でもあったから、

座敷の近くへ来て右近に、

「御家司をどなたかお呼び寄せしたものでございましょうか」

と取り次がせた。

「わざわざだれにもわからない場所にここを選んだのだから、

おまえ以外の者にはすべて秘密にしておいてくれ」

と源氏は口留めをした。

 

さっそくに調えられた粥《かゆ》などが出た。

給仕も食器も間に合わせを忍ぶよりほかはない。

こんな経験を持たぬ源氏は、

一切を切り放して気にかけぬこととして、

恋人とはばからず語り合う愉楽に酔おうとした。

源氏は昼ごろに起きて格子を自身で上げた。

非常に荒れていて、

人影などは見えずにはるばると遠くまでが見渡される。

向こうのほうの木立ちは気味悪く古い大木に皆なっていた。

近い植え込みの草や灌木《かんぼく》などには美しい姿もない。

秋の荒野の景色になっている。

池も水草でうずめられた凄《すご》いものである。

 

別れた棟《むね》のほうに部屋などを持って

預かり役は住むらしいが、

そこと こことはよほど離れている。

「気味悪い家になっている。

 でも鬼なんかだって私だけはどうともしなかろう」

と源氏は言った。

 

まだこの時までは顔を隠していたが、

この態度を女が恨めしがっているのを知って、

こう何たる錯誤だ、不都合なのは自分である、

こんなに愛していながらと気がついた。

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