2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧
ともかくもならむを御覧じはてむと思し召すに、 「今日始むべき祈りども、 さるべき人びとうけたまはれる、今宵より」と、 聞こえ急がせば、 わりなく思ほしながらまかでさせたまふ。 御胸つとふたがりて、つゆまどろまれず、 明かしかねさせたまふ。 御使の…
まみなどもいとたゆげにて、 いとどなよなよと、 我かの気色にて臥したれば、 いかさまにと思し召しまどはる。 輦車の宣旨などのたまはせても、 また入らせたまひて、 さらにえ許させたまはず。 「限りあらむ道にも、後れ先立たじと、 契らせたまひけるを。 …
いとにほひやかにうつくしげなる人の、 いたう面痩せて、 いとあはれとものを思ひしみながら、 言に出でても聞こえやらず、 あるかなきかに消え入りつつものしたまふを御覧ずるに、 来し方行く末思し召されず、 よろづのことを泣く泣く契りのたまはすれど、 …
かかる折にも、 あるまじき恥もこそと心づかひして、 御子をば留めたてまつりて、 忍びてぞ出でたまふ。 限りあれば、 さのみもえ留めさせたまはず、 御覧じだに送らぬおぼつかなさを、 言ふ方なく思ほさる。 こんな場合にはまたどんな呪詛《じゅそ》が行な…
その年の夏、 御息所、はかなき心地にわづらひて、 まかでなむとしたまふを、 暇さらに許させたまはず。 年ごろ、常の篤しさになりたまへれば、御目馴れて、 「なほしばしこころみよ」 とのみのたまはするに、 日々に重りたまひて、 ただ五六日のほどにいと…
この御子三つになりたまふ年、 御袴着のこと一の宮のたてまつりしに劣らず、 内蔵寮、納殿の物を尽くして、 いみじうせさせたまふ。 それにつけても、世の誹りのみ多かれど、 この御子のおよすげもておはする御容貌心ばへ ありがたくめづらしきまで見えたま…
御局は桐壺なり。 あまたの御方がたを過ぎさせたまひて、 ひまなき御前渡りに、 人の御心を尽くしたまふも、 げにことわりと見えたり。 参う上りたまふにも、あまりうちしきる折々は、 打橋、渡殿のここかしこの道に、 あやしきわざをしつつ、 御送り迎への…
初めよりおしなべての上宮仕へしたまふべき際にはあらざりき。 おぼえいとやむごとなく、 上衆めかしけれど、 わりなくまつはさせたまふあまりに、 さるべき御遊びの折々、 何事にもゆゑある事のふしぶしには、 まづ参う上らせたまふ。 ある時には大殿籠もり…
先の世にも御契りや深かりけむ、 世になく清らなる玉の男御子さへ生まれたまひぬ。 いつしかと心もとながらせたまひて、 急ぎ参らせて御覧ずるに、 めづらかなる稚児の御容貌なり。 一の皇子は、右大臣の女御の御腹にて、寄せ重く、 疑ひなき儲の君と、世に…
唐土にも、かかる事の起りにこそ、 世も乱れあしかりけれと、 やうやう、天の下にも、 あぢきなう人のもてなやみぐさになりて、 楊貴妃の例も引き出でつべくなりゆくに、 いとはしたなきこと多かれど、 かたじけなき御心ばへのたぐひなきを頼みにてまじらひ…
いづれの御時にか、 女御更衣あまたさぶらひたまひける中に、 いとやむごとなき際にはあらぬが、 すぐれて時めきたまふありけり。 はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々、 めざましきものにおとしめそねみたまふ。 同じほど、それより下臈の更衣たちは…
いづれの御時にか、 女御更衣あまたさぶらひたまひける中に、 いとやむごとなき際にはあらぬが、 すぐれて時めきたまふありけり。 はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々、 めざましきものにおとしめそねみたまふ。 同じほど、それより下臈の更衣たちは…